天才の秘密ってなんですか?
練習場とロシェトナの位置関係から教室を予測する。
「多分、この部屋だ」
学校の三階。
扉には図書室と書かれた金属製のプレートが貼り付けられていた。
鍵はかかっていないらしく、指先が触れただけで開いた。
中に入ると古い紙の匂いがする。ラナティスの資料室と似た匂いだ。
無音の図書室の奥には大きなテーブルと複数のイスが整列していた。
窓際の一角だけ本が詰まれ、壁のようになっている。
そこに眼帯少女はいた。
「覗いてて楽しいのか」
ロシェトナがゆっくりと首を動かす。
活力低めの青い目が俺と合う。
「授業、しなくていいの?」
「俺はお前と話がしたいの」
俺はロシェトナの対面にあるイスに腰を下ろした。
邪魔な本を動かして物を置くスペースを作る。
「話す理由、特にないから」
ロシェトナはまた窓の外を覗く。
視線が下を向いている。
――きっと、火を消すのに苦戦しているユンたちを見ているのだろう。
「勝手に話すからいいさ」
俺はヤシュヤからもらったテストの問題用紙を置く。
「この前の魔法理論のテストだ。ロシェトナは満点だったらしいな」
「だから、何?」
一応は聞いてくれるらしい。
「最後の応用問題は教科書だけじゃ絶対に解けない問題だ。解けるのは自学自習している奴だけ。それも本当に必要な魔法の知識の分別がちゃんとついている人間だ」
応用問題には『魔法の適性検査方法を記述せよ』と書かれている。
どんな魔法に適性があるか検査するものだ。
見せてもらった教科書にはどこにも書いていなかった。
しかし教科書に載っている知識を組み合わせれば、配点の一部はもらえる答えにたどり着くことができるようにはなっている。
――ある意味、意地の悪い問題だ。そんな問題があるにも関わらず満点を取るロシェトナは間違いなく、知識として知っている。
「周りはお前のことを天才というが俺はそうは思えない。この前お前が魔法を使うところも見た」
魔法弾を作り出しているロシェトナを思い出す。
「――お前、魔素の分解も魔法の発生速度も人並み以下だろう」
俺の言葉にロシェトナが目を見開いて俺の前まで歩いてくる。
「デタラメ、言うのやめて」
表情はあまり変わっていないが怒っているのは空気でわかる。
――もしかして、一番触れてほしくないところだったか?
「俺は魔素や魔力を感知できるから分かるんだよ。魔素の分解が遅いから毎度、魔力の安定状態を確認して魔法使ってるんだろう。魔法の発生も遅くて二重苦なのも分かる」
「嘘、魔力感知とかできる人のは魔法師のトップクラスだけ」
「らしいな。俺はそういうのラナティスに入るまで知らなかったけど」
俺は魔導を覚える過程で身に着けた。普通の魔法師ならよほどのことがない限り覚えようとしないだろう。
長い年月がかかる上、感知を身に着けるまでに死ぬかもしれない。誰もしたくないはずだ。
「なんで急に魔力を作り始めるんだよ」
急にロシェトナが魔素を分解していた。
「確認を、する」
ロシェトナの腰に握り拳ぐらいの白くて綺麗な魔石がついていた。
なぜか服の下に魔石を潜り込ませる。さらに上から本で覆う。
「これで、光ってるかわからない」
――魔素分解時の光が漏れないようにしたかったのか。
「今は分解してる、していない?」
「分解中だな」
「次は、どっち?」
「まだ分解中」
何度か魔素の分解しているかしていないか答える。
途中からは分解をいつ止めたのかまで付け加えて答える。
ロシェトナは納得したのか魔石を腰に着け直した。
俺を中心に周囲を歩く。
「感知できてる、本物だ」
「魔法に関して嘘は言わない」
「うん、せんせいを信頼する」
表情はあまり変わらないがロシェトナの放つ独特の空気が軽くなる。
――喜んでるのか?
「だから秘密を、見せる」
ロシェトナは右目の眼帯を外す。
閉じられた目には傷などはない。
「怪我で右目に眼帯をしてたんじゃないのか?」
「違う、わたしはこれが見られたくないから」
右目を開くロシェトナ。
俺は息を飲む。
「実物を見るのは俺も初めてだ」
「数百万人に、一人だけらしいから」
色素の薄い銀に近い眼。その中には乱反射する宝石のような輝きがあった。
「わたしは、魔素と魔力が見えるの」
精霊眼――魔石と同種の魔素結晶体を持つ瞳。魔法のすべてを把握すると言われる魔法師なら喉から手が出るほど欲しい瞳。
10/13に更新出来たらいいなって




