表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
半竜の研究者は世界の秘密が知りたい  作者: 紺ノ
竜と魔導と教師のお仕事?
86/162

有名な名前ですか?

 ◆ ◆ ◆


「わざわざ場所を校長室に移す必要あったのかよ」


 ソファーに座った俺は校長のオッサンを睨む。

 隣にはヤシュヤが座った。


「今から話すことは子供たちの前ではできませんから」


 目の前にいる校長のオッサンから重い空気を感じる。


「我が校の直近三年間の魔法師試験合格率をご存じですか?」

「知らん。そもそも興味がない」

「八十九%です。平均は四十八%。これはどの魔法教育機関よりも高いです」

 

 魔法師の試験には筆記と実技の二つがある。

 

 実技は経験で補えば知識がなくてもどうかなる可能性がある。筆記は答えだけ覚えろと言わんばかりの対策書があるから丸暗記すれば不合格にはならないだろう。

 

 ――それでも平均との差が倍近くあるのはおかしい。

 

「賄賂でもやってないと逆に不自然な数字だな」

「そんなことやってませんよ。こちらは(・・・・)ですが……」

「意味深に言うあたり何かはあるのか」

「魔法師の管理組織『法団』のウィリアム=ホーランドは――知りませんよね」


 校長のオッサンは俺の顔を見て言葉を変えた。


 師匠を罪人扱いする組織のことを俺が知っているはずがないと考えたからだろう。

 事実『法団』にいる人間の名前は聞いても右から左に流していた。


「『法団』のNo.2ですよ。真面目で魔法を使った街の活性化に熱心。内外問わずに評判がいい男です」

「そんなプラスの塊がなんでキナ臭い話に出てくるんだよ」


 俺は机の端を指で何度か叩く。


「あー! わかったッス!」


 黙りこくっていたヤシュヤが手を叩いて大きな音を出した。


「ガリオン先生と姓が一緒ッス!」

「で、一緒だから何が起こるんだ」

「……わかんないッス」


 俺の質問でヤシュヤが小さくなっていくように見えた。


「ガリオン先生はウィリアムの息子です。そして試験の監督役や採点員は『法団』に所属した人物です」


 校長のオッサンの言葉と賄賂の話の意味深な返しが俺の頭で合わさる。 


「ガリオンへ(こび)やら名前やらを売って、父親であるウィリアムへ遠回しにアピールしようって魂胆か」


 筆記は記述式の問題以外採点を緩くできない。

 実技は現役の魔法師が採点を行う。毎度実技の内容が違うらしいが採点のラインを下げることなんていくらでもできるだろう。


 どんな手段を使ってでも点数を稼いで出世したい、給料を上げたいと思う人間はどこにでもいる。

 

 ラナティスでもネルシアの婆さん相手に似たことをしている人間を何度か見たことがある。

 結果から言うとやった人間は全員すぐにクビになっていた。


『アタイの顔色見る前に資料に目を通しなっ!』とネルシアの婆さんが怒鳴っていたのを鮮明に覚えている。


「そんなところでしょうね。もっともガリオン先生は合格率が上がったのは自分の実力だと思い込んで増長してしまう始末で思い通りにはならなかったようですが」


 ――欲の空回りといったところか。


「本人と話しましたが、聞く耳持たず。周りの先生たちも先生たちでガリオン先生の言葉には逆らいませんから誰も正すことも出来ずに時間だけが経ってしまった。私の管理や指導が至らないばかりに……」


 校長のオッサンは両手を強く握って口元を歪めた。


「俺の『ルーカス』も厄介なところがあるが『ホーランド』も相当厄介だな」

「名が知れ渡っているというのはそれだけで影響があるんですよ、良くも悪くも」

 

 学校の置かれている状況は理解した。


 筆記をどうにかすれば合格すると分かってしまえば、ガリオンの作った教科書のようなものになってしまうのも頷ける。


 ――しかし、だ。


「学校を救うって話が今の状況を変えてくれということなら俺には出来ないしやりたくない」


 師匠の知り合いを無下(むげ)に扱いたくはないが、期待されてることが俺のできることからかけ離れている。


「私だけでは難しいのです」


 俺は立ち上がる。


「人間同士の厄介事に巻き込まれるのは嫌なんだ。まず研究者のやる仕事じゃないし今回の仕事に含まれてもいない」

「それは……そうですが……」

「教師の仕事はちゃんとやってやる。『ルーカス(おれ)』が関わったんだ。魔法災害をあの四人が引き起こしたら(たま)ったものじゃないからな」


 俺は校長室を足早に去る。 

 後ろで校長のオッサンが何かを言っていたが聞かなかった。


 長い学校の廊下を歩く。

 生徒はまだ休憩時間。ラナティスではあまり聞かない談笑の声が聞こえる。


 今日はまだ午後の授業が残っている。何をするかも決めていない。


 俺は廊下の窓から空を見上げた。

 

「師匠ならどうするだろうな。授業もさっきの話も」


 答えてくれる人はどこにもいない。

 この世のどこにもいない。


 ここにいるのは俺なのだ。俺が選択するしかない。

 

 断っておきながら頭の中にモヤモヤした言い表しづらい何かがある。

 腑に落ちないところがある。 


 ――だからきっと、俺は間違っている。


 ため息をついて伸びをする。


「出来ることだけはやっておくか」


 俺は午後の授業とやるべきことに備えるため、学生寮の自室へと足を向けた。

9/15か9/16に続きあげれたらいいなって。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ