どんな生徒たちですか?
俺は学校の廊下で欠伸をする。
「寝付けなかったんスか?」
「いびきのうるさいのがいてな」
「学生寮の壁薄いんスか」
「そういうワケではないんだが」
俺は自分の胸を触る。
写本に契約魔法使われて八時間経っても特に身体に悪影響は無い。それどころか調子が良いぐらいだ。
寝不足からの眠気はあるが、身体は軽いし魔素や魔力の感知範囲がいつもより広い。
ユビレトの廃坑で使った広範囲の感知は意識してやったものだ。
今は無意識。学校全域の状態が探ろうと思えばいつでも探れる。やろうと思えば離れた街まで感知出来ると思う。
――本当に俺と感覚を繋げただけなのか?
学校内のいたるところで魔素の分解・魔力の生成が行われている。
右の教室でも二人が魔素を分解していた。
生成された魔力は今にも魔力が暴発しそうな不安定な状態だ。
完全に制御された魔力は球体に近い状態でまとまる。出来ていないと歪な形状になり、操作が破綻しやすくなる。
教室内にいる二人の魔力は常に波打っていてお世辞にも制御できているとは言えない。
「初日なんで教室に入ったら自己紹介お願いするッス」
魔素の分解をしている教室の扉に手をかけたヤシュヤの腕を掴む。
「待て。先に俺が入る」
「私が生徒に少し話してから入ってくればいいんスよ」
状況が分かっていないヤシュヤはのほほんと笑う。
「うるせー! なんでお前やこいつと同じチームにならなきゃいけねぇんだ!」
「キミみたいな奴と試験が終わるまで一緒になるのなんて、こっちもごめんだ」
「あの……二人ともケンカは止めた方がいいよー」
「バカに何を言っても、無駄」
怒鳴り声となだめる声が教室から漏れる。
「またケンカっスかね」
一人の魔力操作が乱れた。現状維持すらできそうにない。
「もう無理だ。こっちで何とかするか」
俺はヤシュヤの前に立つ。
「生成」
魔導で魔力へ干渉。無理矢理暴発寸前の魔力を押さえつける。
一時的に暴発しない状況にはした。対応するのも簡単だ。
このまま俺が魔力の制御権を奪ってしまってコントロールすればいい。ただ、ケンカに魔法を使われるのは癪に障った。
魔力の一部を霧散させて、暴発の範囲と規模を弱める。
「少し反省しな。――爆散」
教室の中で軽い爆発音がする。
「ぎゃー!」
「暴発したっ」
俺は教室の扉を開ける。
暴発の風圧で吹き飛んだ机と椅子が教室の端に追いやられていた。
教室の中心には男子が二人向かい合わせで尻もちを着いている。
現状を見てあわあわと宙で手を動かすユン。
一番奥机で眼帯少女、ロシェトナが本を涼しげな顔で読んでいた。
教室内にいるこの四人が俺が担当する生徒たちのようだ。
校長のオッサンから貰った資料も四人分だけ。
もっと大人数を相手にするかと思ったが、校長のオッサンが配慮してくれたらしい。
「魔法でケンカする馬鹿はそこの二人か」
「バカとはなんだ!」
「ナイフより危ないものを使ってケンカしようとしてる奴を馬鹿と言わずになんと言うんだ」
「やっぱり、バカ」
俺の言葉に便乗するようにロシェトナがボソッと呟いた。
「さっきからオレの事をバカバカ言いやがって! 表出ろ!」
「バカの相手は、したくない」
「お前また言いやがったな!」
「ケンカになるから止めようよー、ロシェちゃん……」
「事実だよ、なんで?」
「もうー。そんなんだからみんなに目の敵にされるんだよっ!」
本から目を離さないロシェトナにユンが怒った。
俺が教壇の上に立つと、ケンカをしていたもう一人の男子が暗い顔で歩いてきた。
とてもケンカを買うようには見えない優しそうな顔つきだ。
――確か、リオン=ゼンクスだったか。
「勝手に魔法を使って、すみませんでした。えっと、先生、ですよね?」
「まぁな。そこにいるヤシュヤ……先生と一緒に担当することになった」
ヤシュヤに先生を付けることに違和感を覚えてしまう。
――オリフィス、お前のせいだ。
「え、罰は?」
怯えるリオンの口から罰という言葉が出たことに眉根を寄せた。
俺はヤシュヤの顔を見る。
「いや、罰とかは知らないッスよ。自分、やったことないんで」
「ホーランド先生は『お前に教える気がないから寮に帰れ』とか『反省文を放課後残って書け』ってよく言いますよ」
「誰だ、そのホーランドって」
「オレの叔父だ!!」
ロシェトナに突っかかっていた生意気そうな男子――ダリウス=ホーランドが胸を張る。
「ヤシュヤ……先生、ホーランドって誰だ」
「オレの話を聞けよ!」
俺はうるさいダリウスを無視し続ける。
「ガリオン先生の姓ッスよ」
家訓で他人を見下せ、とあるのだろうか。それとも先祖から続くどうしようもない病気か。
「どおりでこのガキ偉そうなのか」
「あん! 何だとコラ!」
納得していると、ダリウスが魔石を取り出した。
「オレは天才で強いから、えらそーでいいんだよ!」
魔石が輝く。魔素の分解を始めた証拠だ。
俺を攻撃する気満々だ。
ただ魔力の操作が下手すぎる。波打つ魔力から察するにさっき暴発しかけていたのはダリウスで間違いない。
「お前も魔法師になるんだろう。だったら魔法を他人に向けんじゃねぇぞ」
俺はいつも腰につけている鞄からマキラトネ――魔素や魔力に対して抵抗のある植物――の混じった止血用軟膏を取り出して、左掌に塗りたくる。
「説教なんていらねぇよ!」
ダリウスが魔法弾を放った。
俺は左腕をしならせて魔法弾を叩く。
「炸裂」
魔法弾がボールのように弾かれる。
「うぎゃ!」
ダリウスの顔面に魔法弾が命中。目を回して気絶する。
「なに、今の……?」
「反射魔法……? でもでも何か違うようなー?」
ユンとリオンが初めて見るであろう魔導に戸惑っていた。
魔素の分解も魔力もなしに行われた現象は不思議でたまらないはずだ。
「先生、何者なの?」
ロシェトナが初めて本から目を離した。
俺は右手で後ろにある黒板に白いチョークで名前を書く。
「イヴァン=ルーカス。普段はラナティスで魔法の研究をしてる」
「『ルーカス』って本気?」
目つきが鋭くなるロシェトナ。
眼帯も相まって妙な迫力がある。
「嘘をつく理由が俺にはないが」
俺が返答すると、冷たい表情のロシェトナは本を持って席を立った。
そのまま無言で教室の外に出て行ってしまう。
「あの、先生。ロシェちゃ……リッターさんは」
「大丈夫だ。授業免除の件は知ってる」
知っていたからこそ、俺は何も言わなかった。
本当なら言いたかった。
――お前が一番、試験合格から遠いんだぞ、と。
おそらくロシェトナ本人も理解している。魔法学の試験が満点なのだから分かっていなければおかしい。
「本当にこれからどうしたもんかな」
少人数とはいえ、先生なんてまともにやったことがない俺。
クセが強い生徒。
ラナティスの仕事で来ている以上、俺は一定の成果は出さないといけない。そして、期待してくれている校長のオッサンを裏切りたくない。
ただ正攻法で対応をしていたら研究の時間が絶対に削られる。
仕事と研究を平行で進められる方法を早々に考えないといけない。
とりあえずは――。
「ちょっと聞きたいんだけど、保健室っていう所はどこだ」
――教室の真ん中でのびているダリウスを保健室に運ぶことだろう。
8/18に更新できたらいいなって




