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半竜の研究者は世界の秘密が知りたい  作者: 紺ノ
竜と魔導と教師のお仕事?
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代価のお支払いですか?

 木林の中にある整備された道を歩くこと十分。


 ヤシュヤに案内されるまま寮に着いた。

 寮と言うよりも金持ちの住む洋館というのが率直な感想だ。森の中という立地の関係上怪しさがあるが、清潔な外壁がそれを和らげていた。

 

 おそらく三階建て。窓の数から一階あたり八部屋はある。


「でかいな」


 寮の横にある庭には花壇と、生徒がその手前のベンチに座って読書している。


「こんなところに学校あるんで生活するところぐらいは良いところをってことらしいッス。食堂もあるんスけど、ご飯全部おいしいッスよ」


 寮の食堂や風呂の使い方を教えてもらう。


 朝ご飯は八時までに食堂に行って注文しないと抜きになるらしい。風呂も二十二時を過ぎると使えなくなる。

 教師寮ではないので、使える時間が学生と同じく決まった時間帯のみしか使えないというのは覚えておかないと困ることになりそうだ。


「もうこれ寮じゃなくてホテルだろう。それもかなり高級なやつ」


 外見からある程度想像していたが、内装もちゃんとしている。


 特に今歩いている灰色と黒のグラデーションの絨毯。

 踏み込むたびに少し足が沈みこむ。ラナティスにはこんな絨毯はなかった。


 ――環境が怖いぐらい整いすぎてる。これが普通なのか?


「あはは、自分も最初はあまりにも良すぎてビックリしたッス。さて、最後にイヴァン先生の部屋がここッス」


 一階の一番右奥の部屋に案内される。

『182』と書かれたドアに俺は校長のオッサンからもらった鍵で開ける。


 中を見るとベッドが一個とテーブルだけの部屋。これだけ聞くとたいしたことがない部屋だ。しかし、一番注目するべきは広さだ。下手をすると俺の研究室よりも広い。


 機材さえあれば部屋に運び込めば自室で研究できそうだ。


「学生寮って基本二人一部屋なんスけど、イヴァン先生は一人で使うみたいッスね」

「なるほど」


 俺は部屋に入って荷物を下ろす。

 

 カチャン、と後ろで扉が閉まる音がした。


 振り返るとヤシュヤが部屋の中から鍵を掛けていた。

 俺は思わず構える。 


「何のつもりだ」

「ちょっと何で構えるんスか!? 誰にも邪魔されずに話したいことがあるだけッス!」

「初対面の俺に話すことなんてないと思うが」

「あー、もうだから自分はこういうの苦手ないんスよぉ……」


 項垂れるヤシュヤからは敵意は感じない。魔素の分解している様子もない。

 警戒しすぎだろうか。


「あのーイヴァン先生って嫌われ者なんスか? なんか魔法関連の先生たちみんなピリピリしてたんスよ」


 ――もしかしてヤシュヤは『ルーカス』のこと知らないのか。


「イヴァン先生が教師寮使えないのもガリオン先生を筆頭にクレーム入れまくった結果なんスよ……」

「諸事情ってそういうことかよ」

「そうッス。で、校長先生に理由聞いたら直接聞いたらいいって」


 俺は構えるのをやめてベッドに腰を下ろした。


「俺の姓――ルーカスってのは法団追い出された人と同じ姓なんだよ。あまり歓迎されないのはそれのせいだ」

「イヴァン先生が悪いわけではないんスね?」

「当たり前だ」


 ――師匠も悪いことをしたわけではないんだけどな。


「よかったぁ……。一緒に仕事する人が厄介な人だったらどうしようかと思ってたんスよ。あー、スッキリした」


 晴れ晴れとした顔でヤシュヤが伸びをする。

 

「本当に厄介な奴だったらどうしてたんだよ。鍵まで閉めて」

「それは――」


 ヤシュヤが拳を勢いよく突き出す。


 五、六歩分の距離はある俺の顔にまで風圧が届いた。後ろにあった窓ガラスも少し揺れていた。


「こんな感じッスかね?」

「肉体強化の魔法使ってないよな」

「自分、魔法全然使えないッスよ」


 ――絶対殴られないようにしよう。


「じゃ、また明日からよろしくッス」


 ヤシュヤはそのまま出て行ってしまった。


 俺はベッドに上半身を投げ出す。

 前に止まったユビレトの宿のベッドよりもシーツが柔らかい。


「こういった気配りはいいが、この生活慣れたら魔法師として生活出来ないだろうな」

「それはどういう意味かな?」


 俺は自分の胸元を見る。

 

 魔法陣が展開されていた。


「やっぱりお前か、クソ写本」


 魔法陣から出てきた革表紙の本に向かって吐き捨てる。


「ふぁあー、よく寝た」


 ――どこで欠伸してんだよ。


「よく寝ただと。ユビレトの事件からもう三週間過ぎてるんだぞ」

「寝る子は育つ的な?」

「お前は本だろうが。育ってたまるか」

「実は三ページぐらい分厚くなってたりして……」


 俺は鞄の中から小瓶を取り出す。

 写本が出てきたときに渡そうと思って常に持ち歩いていた小瓶だ。


「起きたら起きたで喧しいやつだな」


 小瓶を写本に向かって投げると表紙に当たってそのまま床に落ちた。


「痛いよ! ボクに物を投げつけないでよ!」

「お前の欲しがってた代価だ」


 小瓶を拾って中身を写本に見せた。


 黒い砂のようなものが薬で使うさじ一杯分ぐらい入っている。だが、キラキラと乱反射する黒い粉は薬の材料ではない。 


「黒竜くんの鱗をすりつぶしたもの、で合ってる?」

「ほぼ正解だ」


 写本が欲しがっていたのは竜としての俺の身体の一部だったので、こういう形になった。


 粉はユビレトを出る前にメリアの髪飾りを売っていたオッサンに頼んで俺の鱗を加工してもらった。

 口止めと説得するのに苦労するかと思ったが、俺の鱗を少し譲るだけで依頼を受けてもらえた。


 新鮮な鱗。特に黒竜の鱗は少量でも貴重なんだとか。


「どうやったのこれ」

「竜化した俺の腕に高速回転する刃物を当てて少しずつ削った」


 目の前で火花を散らす刃を見たときは腕が斬られるのではと思った。しかし竜の鱗は俺の想像以上に固く、五時間作業して小瓶に入っている量の倍ぐらいしか削れなかった。


 作業をしていたオッサンも驚いていた。


「確かに、代価として頂戴するよ」


 写本は前に記録石(スフィア)を飲み込んだ時のように小瓶を飲み込んだ。


「で、俺と契約して何させたいんだ」

「契約魔法だってことは理解してるんだね。いや、なんてことはないさ。黒竜くんはこれからも世界の秘密を追い求めればいいよ。ボクはボクで勝手にやらせてもらうから」


 そういうと俺の方に写本が飛び込んでくる。

 写本が俺の身体に触れると波紋が広がった。


 前は魔法陣を使って出入りをしていたはずだ。


「お前、まさか」

「黒竜くんとの肉体を共有するのに契約魔法が必要だったんだよね。今までならボクが黒竜くんの身体に入っちゃったらおしゃべり出来なかったでしょ? これで自由におしゃべり出来るよ」


 魔法陣を介さずに俺の肉体の出入りも行えるのか。


「また変な魔法使いやがって」

「害を与えるような魔法じゃないんだから細かいことは言いっこナシさ」


 数少ない手がかりが俺の中にあるというのは不思議な感覚だ。無くしたり奪われたりする心配がなさそうなのは良いことか。


 ――まぁ、いいか。


 ◆ ◆ ◆


 学校生活初日の夜――。


「ぐぉおおお、ぐがぁぁぁ」


 写本のイビキで俺は眠れずにいた。


「有害にもほどがある!」


8/12に更新できたらいいなって

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