魔法と魔導
初投稿です。
誤字脱字の指摘・ご意見など下されば幸いです。
「なんか、金貨から雷が出たとか言ってるんだけど、どうやった?」
「ただ単に相手の魔法を返した。倍ぐらいの出力で、だけどな」
「魔石も魔法陣もなしで?」
「そうだ」
俺は淡々と答えると、マイロの頭に?マークがさらに出来上がっていた。
それは魔法の知識が多少ある人間の反応としてごく普通の反応だ。
「魔石や魔法陣って必要なの?」
メリアが間抜けな質問をする。
――魔法を便利なモノぐらいにしか思ってないのか、俺の上司は。
俺は呆れながらメリアの研究室にある黒板へ向かった。
「つまりだな」
今回は俺がやったことが伝わればいいのだから、簡単なものでいいだろう。
俺はチョークを片手にさらさらと黒板に魔法の原理を書いていく。
―――
・魔法の原理
1.魔素の分解
2.魔力の操作
3.現象の発生
―――
以上がとりあえず俺が書いた内容。
ここから補足といこうか。
「この三段階が魔法が発生するまでのプロセスだ。第一段階目は魔素を分解すること。これで魔力と呼ばれる力が発生する。第二段階目で魔力の操作。これは魔力がすぐに霧散して消えてしまう性質を持っているため、霧散するのを防ぐ行動を主に指す。第三段階目は言葉通りだな。魔力を使ってなんらかの現象を発生させることだ」
わかるよな、と二人に視線を送る。
マイロは頷き、メリアが手を上げた。
「人間は魔素の分解なんて出来ないよね? どうやってるの?」
「そこは知ってるのか」
――メリアからの依頼の根幹と言える部分だから疑問に思うのは当然と言えば当然のことか。
「分解をやっているのが魔石や魔法陣だな。あれらは人の感情や思考に反応して、魔素を分解させる性質があるからそれを利用するんだ」
魔素を自力で分解できない人間は魔法なんて使えない。
魔素で命の危機に陥る魔法から一番遠い生き物。それが人間だからだ。 しかしその人間が魔素を使う魔法を発展させているから、世界の謎の一つとして『魔法はいつ生まれたか』がある。
俺が一番解明したい謎だ。
「でも、イヴァンはどっちも使わないよね」
もしかしてメリアの言う魔法は俺が基準なのだろうか。そうなのであれば、すぐにあらためて貰う必要がある。
厳密に言うと俺のやっていることを魔法と呼ぶのは正しくない。
「さっき説明した原理を『魔法構成』というんだが、その魔法構成から何かしらが欠けていたら、それは魔導だ」
俺は魔素の分解を省略していることが多い。
魔法師よりも魔導使いというのが相応しいだろう。
――メリアへの魔法の知識はこのぐらいでいいか。
必要ならそのとき教えればなんとかなるはずだ。仮に今全部教えても頭に入りきるわけがない。 魔法は原点不明のものだが、情報量が多すぎるのだ。教えるときには必要な情報の取捨選択をしないと余分な説明もしないと話にならなくなる。
――さて、マイロの質問に回答していこうか。
「でだ。今回の金貨からの雷を出すっていうのは、俺が金貨に二種の薬を塗ったからだ」
俺は腰の鞄から薬瓶を二個取り出して、研究用のテーブルの上に置く。
一個は火傷したときに使う塗り薬。もう一個は止血用の軟膏だ。
「普通の薬じゃないか」
「問題はこの薬品の材料だ。一個目の塗り薬だが、エルタレイソウいう薬草を使っている。この薬には化膿止めとして用いられるが、魔素の吸収緩和成分もあるから人が魔素で酔った時の薬にも使われる」
「エルタレイソウならオレも世話になったことがあるな」
魔法を使う頻度が多ければ多いほどエルタレイソウの世話になる人は多い。魔素の濃い地域で活動する人は絶対に持参していく。
薬草の名前そのものは知らなくとも、魔素対策としては一般的なものだ。
「次にこっちの止血用軟膏。実はすり潰したマキラネトの種が入ってる」
「マキラネト?」
――こっちはさすがに知らないか。
「大きな効果はないが、魔素を遮断する植物だ」
分厚い葉の中に魔素を遮断する粘液を持つ植物だ。
傷口から魔素が入ってはいけないから、止血をする薬には大抵混ぜてある。
「この二種の薬を塗った金貨は魔素や魔法への抵抗がある金属になる。これに魔法が当たると魔法の滞留現象が起こるんだ。この滞留した魔法に俺が少し手を加えて射出したってのが回答になるんだが――」
俺がマイロを見ると頭から煙が出ていた。
「オウ、オレ、リカイシタ」
――できてないだろ。絶対。
メリア、面白いからとマイロをつついて遊んでいる。
首を横から押して戻ってきて、押したら戻ってくる
――教えた意味、あるのだろうか。
その光景を見た俺は自分の説明がどこまで伝わったのか、疑問に持つのだった。