打開、魔導使いの立ち回り
「くだらない。ハッタリもいいところだ。俺の魔法を理解したというなら三回で終了というのは無理な話だ」
首を横に振って男は俺を睨んできた。
俺に魔法を解明されると焦っていたときとは打って変わって、落ち着いている。
「その魔法の原点は『暴君の鮮血城』だ。血によって相手の行動に制限をかける魔法。というよりも呪法だな。改変したのがあんたの魔法だろう」
駄目押しに魔法の名前を挙げると男の顔が曇る。
魔法を曝かれて良い顔をする魔法師はいない。魔法師にとって魔法を知られることは対魔法師戦において絶対避けたい事の一つだ。
バレるということはコピーされたり、対抗魔法を構築される可能性がある。だから戦いの中では死んでも魔法だけは解読されるわけには行かない。それが対魔法師戦闘における暗黙のルール。
「手の内がバレて驚いたか。魔法陣見たらある程度は察することが出来る。血を使った魔法は五万とあるが、血と城を組み合わせた魔法は現在把握している魔法の中では八通り」
男が魔素を激しく分解する。
殺気が増している。
――感情的になって魔素の分解量が増えたな。
「その中に防御に運用可能なのは二種。後は防御の系統が反射なのか、軽減なのか。反射なら俺はふっとばされているが、そんなこともなかった。となると軽減だ」
男が『暴君の鮮血城』に加えた改変は盾と否定。動きや魔法の性質を見るに攻撃にも転用するために盾のように小型化し、制限の部分を否定という行いにしている。
――血を喰らった相手を徹底的に否定し、己の行いを全肯定する暴君の盾。
「お喋りな研究者だ!」
男が俺の顔に回し蹴りをしてくる。
俺は慌てて躱す。
何か攻撃をまともに喰らったら間違いなく『俺が立つことを否定』される。
最初の攻撃は俺の竜化を侮っていたから否定しきれなかっただけ。次はもうない。
「魔法の制作者はオランヴィトラ二世。数百年前、戦場の暴君と呼ばれた男だ。彼は遁走する敵軍を確実に仕留める魔法が作れないかと思った。その上で自分の軍のみ優位になる戦場を作れないかと」
俺の頭にある知識を吐き出していく。
「戦場では絶対に血が流れる。これに着目したオランヴィトラ二世は血を媒介にした魔法を思いついた。それが『暴君の鮮血城』だ。オランヴィトラ二世は血を吸い、相手を手当たり次第、なぶり殺しにしていた。結果、彼が戦場に出る度に戦士の骸が城よりも高く積まれたと記録されている」
男は俺への攻撃をやめない。
殴りと蹴りのラッシュを俺は必至に回避する。
「オレの魔法を解説してばかりで攻撃してこないではないか。やはりハッタリか」
男がそう言った瞬間、男の魔力が右脇腹で爆発した。
爆発で男の足取りがぐらつく。攻撃が止まった。
戸惑う男は脇の怪我を確認している。服が破け、焦げた皮膚を押さえた。
「何をした」
「魔力の急速な霧散による爆発現象だ。お前も式場で見てるはずだ」
俺が空中で魔力を爆発させた光景を。
「魔法じゃない、だと」
想定した現象と現実に起こった現象に齟齬が起こって否定できなかったのだろう。
――そして今、認知した。
「純粋な爆破現象だ。魔法の発生時間がない分、爆破までの速度は速いぞ。あと、魔法じゃなくて魔導だ」
「これが一回目。二回目はオレの盾が勝手に守る」
男はさらに魔素を分解し始める。
魔法の強度をさらに上げる気らしい。
――否定の効果範囲と爆破力は今ので大体わかった。あとは最後まで俺の言葉を聞いてもらうぞ。
「防げないさ。だってもうお前の盾はヒビが入っているんだから」
「ありえんな! オレの盾は魔法で作っ――っだ!?」
爆破した。
男が言葉で否定する前に魔力が爆破した。
連続で二回。それもさっきよりも激しく。
「何故だ。今のは完全に爆破そのものを否定していたのに……!」
――さぁ、さっさと片付けよう。
「さて本番だ。お前の魔法は血を摂取した上で完全な否定をすることで初めて盾の力が発揮されるものだ。完全な否定をするためには事象を完全に理解しないといけない」
俺は指で軽く頭を叩く仕草をする。
「爆破の原理はさっきも言ったが魔力の強制霧散が原因。ぶっちゃけ魔力操作のミスで起こる暴発現象と一緒だ。そこまでは理解してるが、否定するにはまだ足りない。原理がわかっていても爆破の威力が計算できないんだからな。『想定を超越した攻撃』は軽減できても無力化まで出来ないんだろう」
魔法に想像力が必要不可欠。
否定しようにも否定する『何か』を想像して否定しなくてはいけない。
パンチやキックなら素直に見たものを否定すれば終わりだ。しかし、高速で発生する爆発は目で認識することはまず出来ない。
想像よりも早く。そして、その想像を超える威力で爆破された場合、否定の隙はどこにあるだろうか。
「何のために細かく説明しながら戦ってると思ってるんだ。そのお前の認識と想像を歪ませるためだ」
「超越しようが歪ませようが関係ない! すべてを否定し尽くしてやる!!」
また魔素を分解している。
魔力が渦を巻いて男の身体に圧縮されていくのがわかる。
――それじゃ、対策にはなりえない。
「さぁ、これでお前の爆破なんて効かないぞ!」
竜化した脚で俺は踏み込む。
自信をもって胸を張る男の懐でブレーキを掛ける。
――さっきの話を聞いて魔力を大量に作ったのは失策だぞ。
両手は鱗を纏って、伸ばす。
伸ばした先には男の鳩尾。
男の魔力を魔導で己の魔力のように自由に動かす。
可能な限り圧縮して、圧縮して、圧縮して強制的に魔力を開放する。
「爆散」
俺の手の中で魔力が弾けた。
男は爆風に耐えようと踏ん張る。
高圧縮された魔力が次々に爆発していく。
一回、二回と爆発の回数を重ねるごとに威力が増している。
連続する爆発が二十を超える。
入れ墨の男は爆発の発生してからその場を動かなかった。俺に『耐えきったぞ』と言わんばかりの笑みを見せる。
俺の肩を掴んで、倒れた。
竜の鱗で守られている俺の手が傷だらけだ。反動を耐え続けた結果、感覚が麻痺して痙攣を起こしている。
到底、常人が想像できるような爆発ではない。
「魔力の強制霧散ってことは魔力があればあるだけ威力が上がるんだ。あんたは魔力を創るべきじゃなかったんだ」
――って、あれ?
「おい待て! 気を失うんじゃねぇよ! メリアの居場所吐いてから気を失いやがれ!!」
胸倉を掴んで揺するがピクリともしない。
「マジかよ、おい」
地面が下から突き上げるような動きをした。
片膝をついて揺れが収まるのを待つ。
揺れは一向に収まる気配がない。
ゆっくりと寝ているクウェイトに近寄る。
「さっきの爆発で洞窟のどっか壊したのか」
俺の責任かと思っていると、地面が割れた。
慌ててクウェイトと入れ墨の男を抱えて安全そうな上の通路までジャンプする。
俺が立っていた場所が崩れて、生き物の爪のようなものが現れる。
ようなもの、というのは生き物にしては動きが鈍く、人形のように一連の動きをすると一度止まるのだ。
「人形……。あ、竜型土人形が動いてやがるのか!」
問答無用で洞窟を壊して上に這い上がろうとしているのか、爪を壁に突き立ててもがく。
さっき逃がした二人が起動させたんだろう。
「次から次へと面倒な……」
メリアを助けに来ただけだった俺にとって事態が面倒な方に流れていることに嫌気がさす。
「「「キャーーー!!」」」
複数の人間の悲鳴。
明らかに聞きなれた声が混じっていた。
「メリア!」
俺は声の聞こえた方へ二人の人間を抱えて疾走する。
色々遅れました……。
別にチョコボのダンジョンが忙しかったとかじゃないです。某ハンティングゲームでベヒーモス狩るのが楽しかったとかじゃないです。ホントです。
次回更新予定は4/7です。