戦闘、研究者としての立ち回り
「ただの研究者がたった一歩で人を一人担いでかつ高速で動けるものか」
鼻で笑った入れ墨の男は剣の先端に付いている赤色を指でなぞる。
男は一歩と言った。
確実に俺の動きが捕らえられていたということだ。
「これは研究者、貴様の血だな」
入れ墨の男は舌を出して血の付いた指を舐める。
舌の上に魔法陣があった。
――なるほど。そういう魔法か。
入れ墨型の魔法陣だけで何の魔法を使うか分からなかった事に納得がいった。
顔と舌の魔法陣がセットで意味を成す『連動式魔法陣』だ。
「こいつの相手はオレがする。カーグは行け」
影がまた壁を這う。
俺は竜化した脚に力を溜める。
「逃がすかよ!」
「貴様の相手はオレだ」
影と俺の間に入れ墨の男が入ってきた。
入れ墨型の魔法陣が光っている。
魔法を使う気らしい。
それでも魔法の発生よりも俺との衝突の方がわずかに早いはず。
「どけ!」
入れ墨の男を撥ねのけようとする。
男の胸に俺の肩が当たった。
――動かない。それどころか押し返されてる。
「どうした。追いかけるんじゃなかったのか」
影はさらに地下へと潜ってしまった。
入れ墨の男に視線をやる。
重い魔力を発して立ちはだかっていた。
想定していたよりも魔法の発生が早すぎる。
「魔法間に合ってるんじゃねぇよ」
俺はそのまま回し蹴りを男の顔に入れる。
男は顔色変えずに俺を見た。
良いのが入ったはずだった。それも竜の脚を使った一撃。
普通なら頭が粉々になってもおかしくないような威力だ。
一度、間合いをとって仕切り直す。
男の魔力が俺の攻撃を受けて減っていた。
「否定、城、盾。あと舌の上にあったのは血と増幅だったか」
俺が魔法陣に書かれていた内容を口にすると男は目を大きくした。
魔法陣を解読するやつなんて今までいなかったのだろう。
「確実に当たっている攻撃が効いていない。つまり防御あるいはそれに近しい魔法が発生したことになる」
「オレの魔法を解き明かすか、研究者!」
入れ墨の男が慌てて俺に殴り掛かってくる。
回避はいくらでもできるが、今は敵の使う魔法が知りたい。
俺は攻撃を敢えて喰らう選択をする。
両腕を交差させて守りの体勢に入る。
腕に男の拳が当たる瞬間、拳の前に透明な板があった。
――魔法によって生み出されたであろう板が正体か。
入れ墨の男が拳を振り抜こうとする。
俺は耐えようと試みたが、地面の上を滑るだけだった。
男が破れた白衣から見えた俺の鱗をまじまじと見ていた。
「その腕、貴様も何かの魔法で強化していたか。お互いなかなか傷つかないとなると長期戦になるな」
俺は受けた攻撃から得た新しい情報を頭に入れて、古い情報と組み合わせる。
今まで蓄えてきた魔法の知識を総動員して該当する魔法がないか検索する。
――ある。酷似する魔法が一つだけ。
「長期戦にはならないしさせないさ」
「何?」
「お前の魔法がどんなものか理解した。検証の一回、本番二回。計三回の攻撃で終わらせる」
――魔導使いに魔法がバレたことを後悔しやがれ、クソ野郎。
次回更新は3/30(土)予定です。