外道、夢語るべからず
俺はまだ竜化していない部位を竜化させていく。
白衣の男が土で汚れた顔で笑っていた。
「予定、とやらは知りませんが私の雇った見張りたちが役に立たなかったことだけはわかりましたよ。えぇ、いい金の無駄遣いでした」
「黙れ。メリアはどこだ。クウェイトに胸糞悪い魔法をかけたのはどこのどいつだ」
「ふむふむ。貴方はあのメリア=マイアットを取り返しに来たといったところでしょうか?」
挑発するような物言いでをする白衣の男に俺の鱗がざわつく。
「彼女のおかげで私の夢はあと一歩で叶います。助けるのなど後にして私の竜の完成を見ていくといい!」
「夢、だと」
鱗のざわつきが一層強くなる。
「私の夢は己が手で竜を創りだすこと! そして、手始めにガルパ・ラーデを潰します。えぇ、私の夢をコケにして、追放処分にした奴らは絶対に許しません。特に副代表のラッド! あの男は絶対に許しません!!」
興奮した白衣の男の発言に俺の身体がさらに火照る。
「――それのどこが夢だ」
ただの復讐を『夢』と語ることに腸が煮えくり返る。『メリアのおかげ』と言うあたり強弱はともかく催眠系の魔法を使ったのだろう。
表彰式の会場で助けられなかった俺自身に腹が立つ。
――情けない……!
「凡人たちが達成できないことを私が私のために望んで実現させる。これを夢と言わずしてなんというのでしょうか?」
「外道の分際で『夢』を語るな」
白衣の男が表情がなくなる。
「うーん、貴方が何故そのような顔をして怒っているか私には理解できませんね。利用できるモノは人も物も全て利用する。それが一番合理的だ。それは理解していますか?」
誰にとっての合理性なのか。
合理的であれば何をしても良いことの理由に為りえるだろうか。
俺はクウェイトを見た。
剣を持って、入れ墨の男に跪く。
そこには『街を守りたい』と言っていたクウェイトの姿はない。
――自分の夢のために他人の夢を奪うことが許されるだろうか。
同じ夢に向かって競っていたわけでもない相手に夢を奪われていいはずがない。そんな不条理が納得出来るはずがない。
「合理的? 笑わせるなよ。夢のために自分が不幸になるのは勝手だ。自己責任だ。でもな、自分の夢にために他人が不幸になるのは話が違うだろうが!」
「誰が不幸になろうが知ったことではないですね。私には関係が――」
白衣の男が喋り終わる前に俺は地面を蹴る。
「カーグ! イルクを隠せ!」
突然、頭上で魔力が吹き出した。
右上の壁。
目端に黒い塊が映る。
俺が追ってきた影のようなもので移動する魔法だ。
影が壁の上を自由に動いている。
今まで見た中で一番動きが早い。
――まだいたのか影使い。
イルク、と呼ばれたのは土で汚れた白衣の男だろう。
入れ墨の男は俺がイルクを狙って行動と推測して影使いに指示を出したのかもしれない。
しかし、俺の狙いは違う。
俺は入れ墨の男の横にいたクウェイトの身体を持ち上げて全力で掻っ攫う。
クウェイトを人質にできないであろう距離を取って、ブレーキをかける。
「何だ! 何を――」
影は壁から白衣の男の足下へ移動していた。
暴れる白衣の男を影の沼へと飲み込む。
クウェイトが持っていた剣が音を立てて地面に落ちた。
俺と影の移動距離と状況から察するに俺が早さでは勝っているらしい。
「は、なせ!」
俺に担がれたクウェイトが藻掻き始めた。
竜の力に普通の力じゃ抵抗できないので何をされても俺の腕は動かない。
「少し眠っといてくれ」
魔導で影使いの残した魔力を集める。
「生成」
クウェイトに睡眠の魔法を使う。
催眠状態が継続しているが、眠っていれば心身に不要な負担はかからないはずだ。
動きが止まった。
俺は眠ったクウェイトをゆっくりと壁際に下ろす。
「今の動き……メリア=マイアットの助手よ。お前何者だ」
入れ墨の男が剣を拾いながら俺を睨む。
「ただの夢見がちな研究者だ」