問題児とメリア
初投稿です。
誤字脱字の指摘・ご意見など下されば幸いです。
「やっと解放された」
「こっちは冷や冷やしたよ!」
椅子に座ったまま、メリアが怒鳴った。
原因は俺だ。
俺がオリフィスの偽物を倒した後、ラナティスの警備兵がやってきた。
他にもサルベアの方の騎士団もやってきたが、俺が関与してたのでラナティス預かりの事件となった。
それで終わりだと思っていた。しかし、俺は事情聴取という名目でラナティスの本部まで連行されたのだ。
一時間ほど狭い部屋で面倒な問答をしていたところ、メリアが俺を迎えに来た。
今は本部内にあるメリアの研究室で説教をくらっている最中だ。
本棚にある本にも、テーブルにある書類にも竜の文字が見える。
――何がメリアを竜好きにしたんだろうか。
メリアがテーブルを力強く叩いた。
「よそ見をしない!」
「はいはい」
テーブルを挟んで、メリアの正面の椅子に座る。
メリアは眉間に皺を寄せていた。
「私はね、イヴァンが警備兵に連行された、って聞いて、調査のことバレて捕まったと思ったんだよ!」
「まだ初日でまともに調査もしてないのに、ばれるはずないだろ」
「それでも、依頼した側としては心配するよ! まぁ、行ったらなんかイヴァンが泥棒捕まえたっていうし」
あのオリフィスの偽物は泥棒だったらしい。
何かを盗まれてオリフィスだと認識をした被害者が店の前で声を荒げていた、といったところだ。
「で、イヴァンさ。街の中で『竜化』したでしょ? そっちはいつもの嘘で誤魔化したんだよね?」
「当たり前だ。竜の姿になれます、なんて誰が信じるんだ」
俺の『竜化』が体質であることを知っている人物は数えるほどしかいない。
『竜化』については『竜の姿になる魔法』ということにしている。
隠すにしてもすべてを隠すよりも真実を隠す方が楽だから、とメリアの発案からこうしている。
俺も今回みたいな緊急時に『竜化』できないと困るので、この案はすごくありがたかった。
「信じる信じないはどっちでもいいよ。ただ、イヴァンが狂気じみた研究者に捕まったら確実に最高の実験材料だよ」
「自覚はある」
半竜半人というのは世界のどこを探しても俺以外は存在しない。
ある種の研究者からしたら、喉から手が出るほど欲しい逸材だ。
「とりあえず気をつけてよ。調査だって明日から本格的に始めるんだから」
「それは、そうだな」
メリアに俺は頷く。
もし調査の件がばれたら、と思うとぞっとする。
「そういえば、また警備の方からイヴァンをよこせって言われたよ。断ったけど、毎度のことながら私のものをなんだと思っているのかな」
「誰がメリアのだ。誰が」
不機嫌な顔をするメリアにつっこみを入れる。
俺は俺のものだ。誰のものでもない。
「にしても、警備の奴らはなんで俺を欲しがるんだ」
「わからなくもないけどね。魔法師としてもイヴァンは優秀だし。今回の泥棒事件も魔法で解決したんでしょ?」
「魔法じゃなくて、魔導な」
「その辺は専門外でわからないよ」
メリアが肩を竦めた。
メリアは竜の知識は誰よりもあるが、魔法の知識はないに等しい。
あっても、魔素がなければ魔法が発動しないとか、魔素は空気中・水中問わずに存在しているとか、一般人レベルの知識だろう。
魔法の原理から教えないと、きっと何も伝わらない。
俺がメリアへの説明を考えていると、突然、研究室の扉をノックする音がした。
「メリア博士いる?」
「マイロくんか。入ってきていいよ」
「おっじゃましまーす」
研究室に入ってきたマイロは大きな紙袋を抱えていた。
それをメリアが受け取った。
「ありがとう。毎度おつかいを頼んで悪いね」
「いえいえいえ、メリア博士の頼みならどんなことでも聞きますよ。じゃんじゃん言ってください」
マイロはまた、メリアの頼みを聞いていたようだ。
――メリアの何がいいんだ。にやけ顔が気持ち悪いぞ。
要件が終わったはずのマイロは何故か俺の横の椅子に腰かけた。
なんだ一体。
「イヴァンに聞きたいことがあるんだ。お前が捕まえた奴の供述で気になることがあるから、聞いてこいって言われててさ」
「何を」
マイロが腕を組んで、俺の顔をまじまじと見る。
「なんか、金貨から雷が出たとか言ってるんだけど、どうやった?」
次は早ければ9/28(木)、遅くとも9/30(土)に更新予定です。