追跡、その先にあったもの
◆ ◆ ◆
俺は廃坑の天井に竜化した爪を突き刺して、張り付いている。
「おい、西側の入り口に死体が転がってたぞ!」
下には入り口にいた魔法師の仲間と思われる男が三人いる。
男の一人と出くわしそうになった俺は咄嗟に天井に張り付いたのだが、場所が悪かった。
分かれ道が先にあり、そこから二人現れたのだ。
「見張りの交代がないと思ったらそういうことかよ」
「敵に侵入されてるかもな。探しに行くぞ。あと他のところにいる連中に情報回せ!」
男たちは分かれ道の左へ走っていく。
爪を抜いて地面に俺は飛び降りた。
――確認しておくか。
鞄から魔導陣を書いた紙と何も書いていない紙を重ねて地面に置く。
今感じている魔素の流れを頭の中で明確な形にする。
「生成」
淡く魔導陣が光る。
何も書いてなかった紙に木の根のような黒い模様が入った。
俺が作ったのは簡易的な地図だ。
黒い模様は魔素の流れを表したものだ。流れがあるのは絶え間なく空気中の魔素が動いている証拠。つまり、空気の通っている廃坑の通路とほぼ一致する。
これで道が分岐しようとも、無闇に行き止まりに行くことはまずない。
さっきの男たちが行った左の道はどうやっても行き止まりにぶつかる。
今左へ行ったら戻ってきた男たちと鉢合わせをして戦闘することになる。
装備が心許ないので戦闘はできるだけ避けたい。
竜化で戦っても良いが、廃坑の壁を壊した場合、土砂崩れを引き起こす可能性がある。
廃坑内にメリアがいるかもしれない以上危険なことはできない。
――にしても気になるな。
ところどころ模様が切れている部分がある。俺には流れの切断が故意に行われているようしか感じられなかった。
魔素の流れが自然に切れているのであれば、筆先で線を書いたように少しずつ細く、そして色が薄くなる。
しかし今回は色が薄くなっておらず、刃物で切ったような形になっている。
――何かあるのか?
新しい紙を魔導陣の上に置いて、切れている部分を重点的に探る。
「生成」
黒い模様が紙の三分の二もなかった。
紙の端に少し不自然な切れ方で現れる程度だ。
模様の切れ目を辿っていくと、円形になっているように見える。
俺はそれを見て合点がいった。
――俺が外で感じていた魔力の塊か。
魔素が分解されていて、模様が出てこないのだ。
規模が大きいと思っていたが、魔素の枯渇するまで時間の問題と行ったところだろう。
しかし、これは――。
「メリアの居場所を掴む手掛かりにもならないな」
魔導陣を回収しようと手を伸ばす。
左の壁の向こう側。ねちっこい魔力の反応がする。
地図だと四つ先の壁の通路。
壁を無視して直進しているようだ。
魔力の感触、人間には出来ない動き。
――メリアを攫ったときの魔法だな。
特殊な空間を作って移動するような魔法だろう。
これを追いかければメリアの居場所に辿り着けるかもしれない。
――止まったな。
魔力が俺のいる地点より下で止まった。
俺と直線で結ぶと、右斜め下の方向。
地図を広げて場所を確認する。
不自然に魔素が切れている先端部分だ。
「行くしかないな」
手掛かりが少ない俺は唯一の手掛かりを目指して、分かれ道の右へ。
時折現れる敵の目をかいくぐりながら魔力のあった場所に到着した俺は目を疑った。
地面が見えないほどの高低差と廃坑の中であることを忘れそうな奥行きがある広大な空間。
常識を越えた大きさの土人形が堂々と鎮座していた。
背には蝙蝠のような翼。鱗のように見せているおびただしい数の魔法陣。凶悪な牙を持つ蛇のような顔。
――まるで竜じゃないか。
俺は規格外の代物に頬を引きつらせるしかなかった。