銀色の男、敵か味方か 2
「そんなのどっちも無理だよ」
私は迷い無く答えた。
オリフィスは青筋を立てる。
「アンタ、バカだろ。そんな三つ目の選択肢は端からないサ」
「知ってる。だってこの二択に私の答えたいモノがないんだもん。私はここの人たちをどうにかしてあげたい。だからと言ってイヴァンをどうこうすることは私には出来ない」
私が出会ってからイヴァンはずっと同じ夢を追っている。
叶えられるかどうかもわからないその夢を真っ直ぐに見ている。
今日は記録石が無くなって落ち込んでいた。けど諦める素振りなど無かった。
――探したいって、言ってた。
「イヴァンが夢を諦めたら、それはイヴァンじゃないよ」
オリフィスは口元を一瞬歪ませたが、すぐに魂のない人形のようになる。次に何をするかと思えば、勢いよく土を蹴った。
「ホント、よく見てるサ」
オリフィスは鎖に縛られている女性の近くで片膝をついた。
横から何をやっているか私は覗き込む。
医者が患部を触るように中指と人差し指で首元を触っていた。
「鍵は外してやる。後のことは知らン」
「ありがとう」
私がお礼を言うと、オリフィスが横目で睨んできた。
「あのバカもアンタがいる間は変な気は起こさないだろうからナ。アンタに恩を売っておくのは悪くねェだけだ」
手枷が女性の手首から外れる。
女性は自由になった手で自分の二の腕を触る。次に太もも、足先。
最後は蹲って泣き始めた。
「え、な、何? どうしたの?」
「自分の意思で身体が動くことが確認できて嬉しいンだろ。断続で催眠状態になると、自分が行動してンのか、それとも行動させられてンのか曖昧になるからナ」
オリフィスの言葉を聞いて胸が痛くなる。
私は女性の背中を無言で擦ることしかできなかった。
白けた表情でオリフィスは次に男性の手枷を外そうとしていた。
「ここを出ることができたらヴァンの奴にコイツらを診せナ。催眠魔法のケアをアイツなら知ってるはずサ」
強めの口調でアドバイスをくれた。
後のことは知らないと言っていたのにも関わらず。
「わかった」
――見た目は似てないけど、こういうところ似てるのかな。イヴァンも文句をグチグチ言いながらいつもフォローしてくれるし。
「オリフィス……そうか。盗賊の」
クウェイトのお兄さんがオリフィスを異物を見るような目で見ていた。
私から見たらイヴァンの兄弟子で、イヴァンの師匠の研究資料を持ち去った人物。だけど他の人から見たら泥棒。
当然の視線だ。
「私たちの敵ではない、という認識でいいのかい?」
「今回限定で言えばそうだナ」
無表情のオリフィスは男性の手枷のいじりながら答えた。
クウェイトのお兄さんの視線が柔らかいものなる。
「そういえば、なんで私やクウェイトさんのお兄さんを助けるの?」
イヴァンにまで変装して助けに来るあたり何かあるはずだ。
オリフィスの眉が少し動いた――ような気がする。
「お節介焼きに来ただけサ。ま、どっかの誰かさんに過保護とか言われンだろうケド」
無表情が崩れて、心底嫌そうな顔をしていた。
オリフィスはそこから言葉が少なくなった。代わりに手枷を外すスピードが上がっていた。
私とクウェイトのお兄さんは自由になった人を落ち着かせて、今いるところから逃げ出すことを話す。同時に身体の調子がおかしくないか、歩けるかを確認する。
解放されたのは全部で十四人。その中の一人の女性が立ち上がれなくなっていた。
その人はクウェイトのお兄さんが担いでいく。
「まったく……マジで大所帯になっちまったじゃねェか。二人ならチョロかったのにサ」
オリフィスが針金を鞄にしまう。
「そうかもしれないけど、後ろめたい想いを持ったまま生きていたくないじゃない」
「これは貸し、だからナ」
チリン、と鈴のような音が鳴る。
音はオリフィスから出ているようだ。
オリフィスが険しい顔をして部屋の入り口を見ている。
「やっぱり長居しすぎたナ。罠に掛かった奴がいるサ」
チリンチリン。
今度は二回鳴った。
「三人。ヴァンじゃないンか」
衰弱している人たちにオリフィスが細い目をした。
「……アンタらの帰り道ぐらいは作っといてやるサ」
突然、土煙が舞った。
目に土が入らないように目を閉じる。
耳元に人の息が掛かった。
「ヴァンを頼むサ。あの頑固者が間違った選択をしないように」
ゆっくり目を開けると、オリフィスが立っていた土には力強い足跡だけが残っていた。
『後のことは知らない』と言う言葉は一体どこへ行ったのだろうか。
――この兄弟弟子は本当に似ている。
それにしても『間違った選択』というのは何のことだろうか。
私にはよくわからなかった。




