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半竜の研究者は世界の秘密が知りたい  作者: 紺ノ
信頼と裏切りと金色の二人
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銀色の男、敵か味方か

 ◆ ◆ ◆


「うんしょ、うんしょ」


 私、メリア=マイアットは手枷の付いた手で壁の土を掘っていた。

 手枷には鎖が付いており、鎖の先端は土壁の奥に埋まっている。


 枷が付いているのは手だけ。

 鎖の先端さえ掘り返してしまえば自由に動けるようになる。


 捕まってからどれぐらい経ったのかわからないし、いつ手枷を付けられたのかもわからない。

 ただわかっているのは、どうにかして逃げ出さないといけないということだけだ。


 周りには私と同じように繋がれている人が見えているだけで十人いる。

 ただ、全員やせ細っていて、顔色も良くない。

 虫の息、というものだろう。

 

 ――私もきっとこうなってしまうのかな。


「うんしょ、うんしょ」

 

 私は逃げ出したい一心で手の皮がボロボロになっても掘り続ける。

 

 ――逃げ出せなかったらどうなるのかな。


 死が頭にちらつく。

 同時に浮かぶモノもあった。

 

「イヴァンに会いたいよ……」

 

 地面に涙の跡をつけながら土を掘る。

 少しずつ。少しずつ。


「――なぁ、何やってるんだメリア」


 とうとう幻聴が聞こえ始めた。

 イヴァンの声が後ろで聞こえる。


「おいこら無視かよ、迷惑上司」


 私は掘る手を止めて後ろを見る。

 呆れた顔で私をみる白衣の青年がいた。


「イヴァン!?」

「何泣いてるんだよ。ほら、手枷外すぞ」


 イヴァンは針金を背中の鞄から取り出して手枷の鍵穴に突っ込む。

 何回か針金を回したかと思うと手枷が外れて地面に落ちる。


「よかった。本当にメリアが無事でよかった」


 イヴァンが私を抱きしめた。

 優しくて温かい。

 

 ――でも、私の知るイヴァンはこんなことしない。

 

 腕に力を入れて押し離す。


「アナタ、誰?」

「どういう意味だよ」

「本物のイヴァンはね、私に抱きつかないよ」


 ――イヴァンはいつもどこか距離を置いてくるから。


「それにね。イヴァンは鍵開けなんてできないんだよ。本物は枷を魔法か何かで壊すんじゃないかな」

 

 私の中の想像の話。

 でもそういうイヴァンの方がしっくりきた。

 もしかしたら竜化して、強引に壊すかもしれない。


「――知らない振りして大人しく助けられてはくれンか?」


 イヴァンの偽物は私の言葉に困った顔をして足で地面の土を二度踏んだ。


「知らない人についていかないっていうのは子供も知っていることだよ」

「思ってたよりしっかり見てるねェ。こっちは見た目も声も口調も完全にコピーしてたのにサ」


 イヴァンの偽物は頬を掴んだと思うと力強く引っ張っていく。

 紙のようなものが破れる音ともに男とも女とも取れる様な顔が現れた。

 髪も長い銀髪でどちらか判断しようがない。


「これでわかるかねェ?」


 声はお世辞にも女の物とは言えないが、男にしては高い方だ。


「えっと……男?」

「まずそこからなンか!? まぁ、オレの見た目的なことだから言いたいことはわかるけどサ……。ヴァン――いや、イヴァンから何も聞いてないンか?」


 思い当たる人は一人いる。でも、ここにいるはずはない。

 イヴァンの話だと地中に埋まったはずだ。


「オリフィス……?」


 恐る恐る答えると銀髪の青年は笑った。


「正解サ。さて、これで知らない人ではないサ」


 手を差し伸べてくるオリフィスに私は距離を取る。


「なんでオレから逃げるサ」

「だってイヴァンの敵だもん!」

「例えそうでも、今は猫みたいに威嚇してこなくてよくないかねェ……」


 オリフィスが周囲の人を眺める。

 眉間に皺を寄せて足をタップさせた。


「随分な状況だなァ。ん?」


 おもむろにオリフィスが一人の男性に近づく。

 男性は他の人に比べると遥かに健康的な顔色をしている。

 何よりも目に力があった。


「なるほどなァ。ハーヴェンのやつが変な行動に出た意味がわかったサ」


 オリフィスは男性の肩に手を置いて、私のよく知る言葉を呟いた。


「――錬成(ライズ)


 何かが弾けるような音と共に男性が深呼吸をする。


「すまない。魔法で拘束されていて動けなかったんだ」

「いいサ。それよりも何でハーヴェンの兄貴がここにいるワケ?」

「え、この人、クウェイトさんのお兄さん!?」


 確かに言われて見ればなんとなく顔立ちが似ている。

 髪の毛の色も一緒だ。


「た、けて」


 擦れた声が聞こえる。

 今の光景を見ていたのだろう。

 

 鎖でつながれた人たちがオリフィスを見つめている。

 まるで英雄を見る様に。


「慈善でやってるワケじゃないサ。オレはオレの目的のためにメリア=マイアットを助けに来ただけ。ついでにハーヴェンの兄貴を見つけたから助けるだけ。お前らのことなんて知らないサ」


 オリフィスが早口でまくし立てる。

 

「助けてやってはくれないか?」


 お兄さんがオリフィスに頭を下げた。


「ここにいるのは男の計画に反抗したものや邪魔になったものたちだ。催眠系の魔法で操られて強制労働させられている。催眠が切れる頃になったらご覧の通り鎖に繋がれる。そしてまた落ち着いたら魔法を掛けられる」


 男と言われて出てきたのは土塗れの白衣の男だった。計画というのは竜を創るという話だろう。


「だから? オレには関係ないサ」


 オリフィスはお兄さんの手枷を針金一本で外した。


「ほら、行くサ。これ以上長居してたら誰かにバレるサ」

「助けてあげてよ」

「アンタもかッ!」


 ――もしかしたらあちら側だったかもしれない。

 

 そう思うと、私だけ助かるというのは後味が悪かった。


「ったく、なんで皆ワザワザ面倒な選択をすんだろうねェ」


 オリフィスは針金を手に私に歩み寄る。

 表情は真剣そのものだった。


「オレがこいつらを助ける代わりに一つ約束しナ」

「私に出来ることなら」

「イヴァンに夢を諦めさせナ。そうしたらここにいる奴らを助けてやるサ。無理ならアンタが諦めナ」

思ってたより長くなりそうだったので分割します。

次回もメリア視点からです。


あと、しばらく休日出勤が続くので更新に時間がかかるかもです。

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