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半竜の研究者は世界の秘密が知りたい  作者: 紺ノ
信頼と裏切りと金色の二人
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走る竜、攫われた研究者

 西にある廃坑に行くにはあまりにも遅い時間なので、明朝に向かうことになった。

 ハロルドのオッサン・オリバー・俺の三人が宿で合流して、調査に行く。


 ――明日まで悠長に待つ気ないけどな。


 宿に戻った俺はすぐに動きやすい普段着と白衣へ着替えようとする。しかし、何かに燕尾服が引っかかって思うように脱げない。

 察しはついていた。


 服を破かないようにゆっくりと脱いでいく。

 

「やっぱりな」


 左の二の腕から腹部が竜の鱗に覆われていた。

 戻そうと思っても人の皮膚には戻らない。

 

 俺自身は落ち着いているつもりだが、深層心理では相当の怒りを抱え込んでいるようだ。

 

 左の太股(ふともも)も変化していた。


「包帯でも巻いておくか」

 

 薬の入っている俺の鞄から包帯を取り出して竜の部分を隠すように巻く。

 包帯を巻き終えると俺はいつもの動きやすい服と白衣を身に纏う。


 鞄の中に戦う上で必要な薬品が入っているか、量はどれぐらいかを確認する。

 戦うことなんて想定していなかったから、記録石(スフィア)の実験後に薬を買い足していない。

 薬瓶に薬が半分以下しか入っていないものだらけだ。 


 ――派手に薬品を使った戦い方はできない、か。


 魔素の分解専用の魔法陣もとい魔導陣を書いた紙は十二枚。

 魔法師以外にはこちらを使って戦うしかない。

 足りなかったら即興で書く。今は魔導陣を書いてる時間も惜しい。


「さて、行くか」


 俺は鞄を腰につける。


 素直に宿の入り口から出ていくのはまずい。

 ハロルドのオッサンも宿に戻ってきているのだ。

 見つかったら確実に止められる。


 俺は宿の窓を開けて、外へ出る。

 

 ――悪いな。二人とも。


 ユビレトの西、廃坑のある山へと俺は走りだした。


 ◆ ◆ ◆


 フードを被った男がドレス姿のメリアを部屋の真ん中に乱暴に投げ捨てた。

 メリアは尻を地面に打ち付ける。


「痛い!」


 メリアの声を無視して男は部屋の隅にもたれ掛った。

 立ち上がるためにメリアは手を使おうとしたが背中で両手が縛られていて立てない。

 半身だけをお腹の力で起こす。


 部屋の油蝋燭(あぶらろうそく)のみ。 

 窓は存在せず、部屋は床も壁も粘土質の土で出来ている。土の表面が滑らかに|均されているので、自然に出来たものではないことをメリアは察した。


 イヴァンが表彰会場で叫んだ理由も今ならわかる。


(私、攫われたんだ)


 男に担がれてからは暗い空間に閉じ込められていた。

 今どこにいるのかわからない。


 部屋の奥の方から土を擦る音がした。


「ちゃんと仕事をしてくれたようですね。いやー、なかなか行動に出ないので焦っていましたよ」


 白衣を着た猫背の男がねちっこい笑みを浮かべてやってきた。

 よく見ると全身土塗れで白衣が所々変色している。

 

「準備には時間がかかる。それはアンタの実験と一緒だ」

「違いありません。――さて、メリア=マイアットさん。私の研究を手伝って貰いましょうか。そうすれば前回のことを水に流しましょう」


 メリアは猫背の男に対して首を捻った。


「私、あなたを知らないんだけど」

「ほうほう! あれだけのことをしてきて知らないと! ふざけんなよ!!」


 メリアの頬を強く叩いた。


「お前が資金集めの邪魔をしたんだ! お前さえいなければもっと早くに終わったんだ! あれだけ精巧に作ったのに! くそっ!!」


 頬が痛む中、メリアは思考する。

 猫背の男の『資金集め』と『精巧に作った』という二つの言葉とメリア自身が関係したものが何なのか。

 お金にも創作にも縁遠い存在であるとメリアは自分を分析する。

 興味は常に竜に向いている。


 竜と創作。この二つがメリアの中で結びつく。


「ニセモノ作りの共犯者はあなただったんだ」

「思い出して貰えて何よりです」


 前回、ユビレトに来たときに事件が起こった。

 竜を素材に使った、と謳っておきながら事実はガラスや魚の鱗を加工して似せたものを売るという竜好きのメリアには耐えられない事件だった。

 メリアはユビレト滞在中に紛い物を看破し、制作者の捕縛に貢献したのだ。

 

 事件そのものはそれで収束したが、気になる点があった。それは制作者は竜の知識をあまり持っていなかったことだ。 

 紛い物を制作するにも竜の知識が必要だ。似ている似ていないの判断基準がないのに世間に出回った紛い物は職人や鑑定士の目を狂わせるほどの出来だった。


「いやいや、びっくりしましたよ。私も捕まるかと思いましたから。えぇ、本当に危なかったです」

「なんであんなことをしたのかな!」

「私の夢にはたくさんのお金が必要だったんですよ。えぇ、私は――竜を創りたいのですよ」


 メリアは目を大きく見開く。

 

 ――竜を創る。

 

 興味は惹かれるが、悪事を働いていい理由になるとは思えなかった。

 

「お喋りはこれぐらいにしましょうか。カーグ! カーグはいますか?」


 小柄な男がフードの男の脇から出てきた。


「ダンナ、呼んだかい?」

「他の魔法師同様に操ってください。彼女の竜の知識を全て聞き出します。出来ますか?」


 カーグがフードの男を見る。

 

「ケイオス=ハーヴェンのときはこちらの準備としてタダでやったが今回は別だ」

「お金なら言い値を払いますよ?」


 フードの男が頷いた。


「キシシ、アニキのオーケーが出たんでやっちまいますね」


 魔石を取り出すカーグ。

 魔素が分解され、油蝋燭の光とは違う光が部屋を照らした。


新年あけましておめでとうございます。

1~2週間に1回のペースで更新していきたいと思います。

これからもよろしくお願いします。(2019/1/4)

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