手がかり、それは記憶の中
ラッドの研究室で俺とオリバーとラッドがテーブルを囲んでいた。
式は中断され、ガルパ・ラーデ職員が状況確認に追われており、時期に護衛ギルドも応援に来るらしい。
研究室内には気まずい空気だけが漂っていて、誰も言葉を発しない。
――竜の力と魔導を使えたとしても、大切なものは守れないのかよ。
混乱している頭の中、俺の無力さが重くのしかかってくる。
何をすればメリアは攫われなかったのか、最善の行動はなんだったのか。ぐるぐると不毛な思考が湧いてくる。
必要な思考は『メリアをどうやって取り戻すか』のはずなのに、思考がうまく切り替わらない。
「すまない。護衛がまともにできず……」
「謝るぐらいならメリアを取り戻す方法考えてくれ」
「そうだな。すまん」
イライラのあまりオリバーに当たる形になってしまった。
男三人で暗い顔を見せ合うだけになっている。
――時間が無駄に消費されていく。何か、行動しないと。
「失礼するですよ」
ヴェルデが空気をぶち破って入ってくる。後ろにはガリオンが口元を歪ませていた。
ガリオンからかなり希薄だが魔力が感じられる。ただ表彰式が始まる前とは違う魔力だ。
最初に見たときよりも刺々しい。
理由は分からないがガリオンの手が縄で縛られている。
ガリオンが不服そうな顔をしている原因だろう。
「こっちは忙しいから後で出直してくれ」
ラッドが追い返そうとするとヴェルデがガリオンを指差した。
「コイツはイヴァン=ルーカスに魔法打ち込んでたです」
「私はそんなことはしていないと言っているだろう!」
声を荒げるガリオンにラッドが声を掛けた。
「落ち着いて下さい。やった、やってないの話はまずヴェルデの話を聞いてからにしましょう」
歯ぎしりをするガリオン。
ラッドはヴェルデに視線を送った。
「どうもこうもないですよ。空中に飛んでいるイヴァン=ルーカスを魔法弾で狙撃していたんです。まぁ、最終的には返り討ちで床の上で伸びてましたけど」
俺の魔法弾に当たったということか。
「だ・か・ら! 私にその記憶はない!!」
「じゃあ、いつからの記憶があって、いつからの記憶がないんかな」
オリバーが横から言葉を挟む。
「それは――いつつ」
ガリオンが縛られた手を額に当てて膝をつく。
ラッドが駆け寄る。
「どうかしましたか、ガリオンさん?」
「頭痛がしただけだ、問題ない」
ガリオンの周りにあった魔力があからさまに少なくなった。
――これの問題がない? どこがだ。
「よくわからんが何か細工されてんな、アンタ」
オリバーも俺と同じ意見らしかった。
魔力が少なくなる条件は魔法の発生だけだ。霧散ならすべての魔力が無くなるため、微量でも残っているのはおかしい。
それに特定の記憶を思い出そうとして痛みが走るのであれば、人体に影響が出るような魔法がかかっている可能性が高い。
心を読む魔法ほどの負荷がかかってないところを見ると、精神干渉はあれど深刻ではなさそうだ。
「記憶の操作だろうな」
俺はガリオンの額を触る。
「何をする!」
「うるせぇ、黙ってろ」
ガリオンの周りには魔力がまだ微量だが残っている。しかし魔法の解除するだけの量はない。
できる魔法があるとしたら、一番魔力効率の良い身体能力の強化魔法を数秒維持する程度だ。
強化出来る箇所も耳や目といった感覚器官くらいなものだろう。
仮に俺が魔法陣を使って魔力を増やしても、すぐには解除出来ない。
魔法の構成を理解するところからスタートだ。
記録石の解析ほど難しくはないが時間が掛かることには変わりない。
――確か、ルーペで覗くイメージだったか。
アルタミア=サルミアートの写本の言葉を思い出す。
俺はイメージを強固にするために紙に書かれた小さな文字をルーペで拡大するイメージをした。
――これなら三秒はいけるか。
「生成」
いつもの言葉を口ずさむ。
記憶を見る魔法。
初めて使うがやることとイメージさえ固まっていれば、魔法の発動は問題ない。
――発動は、だ。
意識がガリオンに吸い込まれそうになった。
――危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険。
俺の頭の中にガリオンの記憶が流れ込んでくる。
数分前のヴェルデとの会話。表彰前のラッドとの言い合い。昨日酒場で打ち解けた魔法師との魔法論の語り合い。そして魔法師と共に山中にある廃坑を歩く姿。
一日前の記憶を遡っただけなのに、吐き気がする。
周囲の色を、会話を、人の動きを俺が認識する度に妙な浮遊感がある。
――処理が……追いつかない!
俺の中で警笛が鳴り続ける。
魔法は発動したが想定通りのものではない。
制御がまったく効いていない。
眼球の前で光が弾けた。
そのままガリオンの意識から俺の意識が強制的に乖離させられる。
視界にはラッドの研究室の床が映っている。
「ルーカスさん、アンタ何やってるワケ!?」
オリバーが俺の耳元で叫ぶ。
俺は深呼吸をして息を整える。
「記憶を見た」
「魔法でそういうことやったらヤバイでしょうよ!」
「よく知ってるな」
三秒でこの倦怠感と吐き気だ。
本気で相手の心や記憶を探ろうと思ったら確実に死ぬ。探った側も、探られた側も。
――こんなこと二度とやってたまるか。
「笑ってる場合かよ」
感覚が戻っていないのか顔が笑っているのか俺は認識できない。
泡を吹いて倒れているガリオンをラッドが介護していた。
ヴェルデの姿が見えない。
「ヴェルデは?」
「そこの男が倒れたから医者を呼びに行ったの!」
「そうか。ならお礼はあとで言おう」
俺は重い体を動かして研究所を出ようとする。
オリバーが扉の前に立ちふさがった。
「どこいこうとしてるんだよ。フラフラじゃん」
「悪いな。俺は馬鹿な上司のところに行かなくちゃいけないんだ」
――もう、大切な人がいなくなるのはごめんだ。
「それがわからなくてどうしようって話だっただろ」
「ここから西の山の中。廃坑がある。そこでガリオンの記憶が途切れた」
――失敗を悔やんでいる場合じゃない。こんなところで止まっている場合じゃない。
「そこに行けば少なからず手がかりはある?」
オリバーが俺の言いたいことを口にする。
俺はそれに首肯で返した。
三連休遊びまくって更新してなかったので、急いで書いて、更新しました。
年末年始は更新するかわからないです。(2018/12/26)




