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半竜の研究者は世界の秘密が知りたい  作者: 紺ノ
信頼と裏切りと金色の二人
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急転、悪夢の始まり

「皆さん、私が辞退する理由を聞いて下さい!」

 

 混乱する会場でメリアが声を張り上げた。

 治まる気配のない野次。

 物が投げられていないだけマシだが、普通なら心が折れているだろう。

 何がメリアを動かしているのか俺にはわからない。 


「今回の研究は私一人では為し得ない物でした。私は私一人の成果ではなく、私ともう一人の研究者の成果にしたいんです! だから、私だけの表彰は辞退します!」


 身勝手すぎる言葉に俺は頬が引きつる。


「もう一人の研究者って、アンタのことだろ? いい上司じゃん」


 オリバーは笑って俺の背中を叩いた。


「メリアが馬鹿なだけだ。無駄なことはやらなくていいんだ。自分だけの成果だと思われているなら自分だけで掻っ攫えばいい」

「さすがに捻くれすぎだろ」

「俺の率直な意見だ」


 話を切り上げるとラッドがまた舞台に出てきた。

 タイミングが良すぎる。

 ラッドも承諾済みで今回の騒動を巻き起こしているようだ。

 

 ――質が悪すぎる。


「えー、皆様。今回のメリア=マイアットさんの論文を一読でもされた方は既知だと思いますが『魔素乱調(マギ・パニック)』という魔素現象が記載されています。こちらを発見された研究者にも私たち、ガルパ・ラーデは表彰したいと考えています」


 新人司会者の進行が急にベテランに変わった。

 さっきまでのぎこちなさが嘘のようにすらすらと喋るラッドに俺は呆れる。

 

 ラッドが出てこいよ、と手でサインを送ってくる。

 メリアを見ると、優しく頷いた。


「なんか、さっきと印象が違うんだけど? どうなってんの?」

「……ハメられた」

 

 メリアもラッドも始めから俺を舞台に上げる気だったようだ。

 

 何の得もないことをしてどうするんだ。


「では、舞台へどうぞ。――イヴァン=ルーカス」


 してやったり顔のラッドが俺の名前を呼ぶと再度会場がどよめく。


「ルーカス?」

「なんで異端の名前が?」


 ――さすがに『ルーカス』を知っている人はいるか。

 

 どうやって面倒を回避するか俺は思案する。


 舞台に上がらないかぎりこの表彰式は終わらない。

 主役と司会が終わらせる気がないのだから当たり前だ。しかし上がるのも覚悟がいる。


 魔法の世界で異端者と呼ばれた『ルーカス』がまた表に出るのだ。

 今後、どうなるか予想できない。


 他にも半人半竜の問題もある。

 

 ――今の面倒と後の面倒。どっちを取るか、か。


 問題の回避が事実上、不可能だと理解した俺は半ばヤケになって舞台へ歩く。


「どうなっても知らないからな」


 小さくぼやいていると、鳥肌が立つ量の魔力を感じ取った。


 粘着質な魔力が足下を這いずる。

 

 魔力の発生源は出席者の足下を抜けてメリアの後ろの壁に張り付いた。

 俺は目を凝らして壁を見る。

 

 ――人間の右腕が生えていた。


「メリア! 前に走れっ!!」

「え、何、イヴァン?」


 背後の変化に気がついてないメリアはきょとん顔だ。

 俺は脚に意識を集中して、竜の状態へ。そのまま全力で床を蹴り上げた。


 ――間に合え!


 出席者全員の頭上を飛び越える。


 ――メリアのいる舞台に着地すれば何とかできる。


 俺のそんな考えは甘かった。

 会場中で魔力の発生を感知する。

 感知した数は二十を超えていた。 


 俺の真下で女の悲鳴が聞こえる。


 火球に氷の礫、純粋な魔法弾。

 遠距離に特化した魔法が下から俺を狙っていた。


「放てェ!」


 誰かの合図で魔法が飛んでくる。

 

「邪魔だ! 生成(ライズ)!!」


 残り滓の魔力をかき集めて、足下で魔力を爆発させた。

 爆風で強引に魔法の軌道を変える。

 ただ、俺自身の勢いも殺してしまい、会場のど真ん中で着地してしまった。


「メリアは!」


 舞台を見上げるとメリアがフードを被った男に口を押さえられて捕まっていた。

 会場にいる人間は俺に視線を向けていて舞台の状態に気がついてない。


「クウェイト! 舞台の上だ! 仕事しやがれ!!」


 舞台の横からクウェイトが剣を抜いて現れる。

 フードの男まで数歩の距離。

 

 ――クウェイトの速度なら間に合う。


 手合わせしたときにクウェイトの早さは知っている。

 フードの男はクウェイトの手で片が付く。


 俺は周りの魔法師たちをどうにかしないといけない。


 まだ魔力が霧散せずに残っている。

 薬がなくても魔導を駆使すれば俺でも戦える。


「――生成(ライズ)


 二十以上の人間が魔素を分解した結果、生じた魔力を操作する。 

 頭上で大量の魔法弾に変えていく。

 天井を埋める勢いで生成を繰り返す。


「お前らの魔力だ! 返すぜ!」


 俺に向かって魔法を行使した連中のみを対象に魔法弾を発射する。

 次々に魔力弾の餌食になっていく。


 抵抗もなく、的に当てる感覚。

 あっさりしすぎていて納得がいかない。


「おい、クウェイト――」


 ――何かがおかしい。


 言葉を発する前に俺の背中で金属がぶつかり合う音がした。

 オリバーが長く息を吐く。


「ハーヴェン、答えろよ。なんでルーカスさんを刺そうとしてるワケ?」


 両手に持ったダガーでオリバーがクウェイトの剣を止めていた。

 俺の背中の肉が貫かれるまで布一枚の隙間があるかないかのところだ。


「撤収ゥ!」


 魔法の合図を出した時と同じ声がする。


 会場にいた魔法師たちが一斉に動き始める。

 ある者は窓ガラスを割って外へ、ある者は会場の入り口から脱走する。

 

 クウェイトは剣を収めるとオリバーに蹴りを入れて窓から去って行った。

 

 ――待て、クウェイトが俺を刺しに来ていたってことはメリアは!


 舞台の上を確認すると、男もメリアもそこにはいなかった。

 いないという事実が俺の身体を熱くする。


「何がどうなってんだよーー!!」


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