追走と魔導
初投稿です。
誤字脱字の指摘・ご意見など下されば幸いです。
昼頃、俺が器材の買い物を終えて、残った金をメリアに返しに行こうとしたとき、それは起こった。
「オリフィスだ! オリフィスが出たぞ!」
人混みから悲鳴が聞こえる。
ローブを着た何者かが逃げるように路地裏に入り込んだ。
――逃がすかよ。
俺は両足に意識を集中させ、竜化させた。
足の変化に耐えきれなかったのか、靴が破ける。
俺はそれを気に止めることなく、周囲の建物の壁を駆けだした。
周りが俺を指さしたり、驚いた声を上げたりしてうるさいが関係ない。
俺はただオリフィスを追いかけた。
俺が追いかけていることに気がついたのか、オリフィスは路地裏を右へ左へ曲がって撒こうとする。
こっちは竜化をして、肉体の強化をしているため、距離が縮まる一方だ。
数分の追走劇の末、逃げ道のない場所まで追いこんだ。
「逃がさないぞ、オリフィス!」
「ははっ、ははははっ!!」
狂ったように笑い始めるオリフィス。
しかし、なんだ。
俺の記憶と違う声だ。
「そうさ、俺がオリフィスだ! 恐れろ! そして、慄けっ!! はははは!」
ローブが脱ぎ捨てられ、出てきたのはハゲたおっさんだった。
俺の思考が一時停止する。
笑い声のあとに、沈黙がおとずれた。
「おいどうしたガキ、怖くて声もでないか。ん?」
「違う」
「あん?」
「お前は、オリフィスじゃない」
オリフィスじゃないなら、追いかける必要はなかった。
――メリアに会って、金を返して、帰ろう。
「テメェ、何帰ろうとしてるんだよ」
「俺が会いたかったのは、あんたじゃないからな」
「そうかい。でも、顔を見られたからには」
「見せたのあんただろ」
再度の沈黙。
「ハメやがったな!?」
「何の話だ」
おっさんがローブの中から杖を取りだした。
光る石――魔石がその先端についているってことは。
「くらいやがれ!」
雷撃が杖から放たれ、俺の方に一直線に飛んできた。
俺はそれをジャンプして回避する。
躱された雷撃は建物の壁に焦げ後を作っていた。
俺は思わずため息をつく。
「おっさん、あんた魔法師崩れか」
「だったらなんだ?」
「魔素の扱いが下手すぎる」
さっきの雷撃はちゃんとした使い方をしたら壁に穴を開けることが出来る。
なのに、壁を焦がしただけ。
魔法の研究をしている身としては見ていて悲しくなる。
「知った風なことを!」
雷撃の雨が降り注ぐ。
俺はそれを左右のステップだけで躱す。
「事実、知っている。原理から基本、応用まで師匠に叩き込まれた」
俺は鞄に手を突っ込んで、親指と人差し指にそれぞれ違う薬をつけた。
「なんで、避けれるんだよ。雷だぞ。光の速さだぞ……」
「魔素への干渉と変換。俺という標的への照準。雷撃という現象の発生。どれも遅すぎる」
魔法師崩れと言ったが、それ以下だ。
魔法の発生までが遅ければ、竜化した俺が被弾することはない。
反撃だ。
俺は袋から金貨を一枚取り出す。
そして、薬のついた指でおっさんに向かって弾く。
コインはおっさんの顔を目がけて一直線に飛んでいく。
「コインによる狙撃ってか? そんなもん撃ち落としてやる!」
おっさんは宣言通りに金貨を雷で撃ち落とす。
俺はにやりと笑った。
「――生成 。炸裂」
俺の言葉がトリガーとなり、撃ち落とされた金貨から"雷撃"が放たれる。
「あがぁぁぁっ!???」
驚いた表情で悶絶するおっさん。
雷撃で全身痺れて、まともに動けないだろう。
「ま、ほう? ませき、や、まほう、じん、なしで……」
意識まで飛んでいない。
――やっぱりな。あの程度の魔法を利用したらこんなものか。
「おっさん、一ついいこと教えてやる。オリフィスはハゲていない」
「どう、でもいい」