バイバイ、黒竜くん
「返せ!」
俺は宙に浮いている写本の表紙を両手で掴んで記録石の吸収を食い止めようとする。
表紙が俺の妨害を無視してゆっくりと閉じていく。人のままじゃ力が足りない。
手だけ竜化して無理矢理開けるしかない。
写本が破ける可能性があるが、なんでもありの写本のことだ。壊れても修復するような魔法が込められているだろう。
俺の両手に黒い鱗が現れる。
閉じていっていた本の動きが止まる。
「黒竜くんは学習しないなぁ」
写本の周りに光の線が現れる。
部屋の屋根に一本。
ドアに一本。
床に一本と増えて複雑な図形を描く。
光の線が図形は魔法陣を構築していく。
――音、遮断、陣地、封印、強化、毒、拘束。
図形の意味を解読する。
部屋に防音の結界を張った上で俺を動けなくする気だ。
理解した時にはもう遅かった。
問答無用で床へ上半身が引っ張られる。
見えない力で貼り付けられてしまった。
身体が透明な鎖で押さえつけられているような感覚がする。
竜化した手が痺れる。
感じたことのある痺れ。
半年前に実験で感じ、オリフィスとの戦闘を困難にしたものだ。
「竜の毒。くそが!」
「力で拘束解かれたら困るからね」
写本が完全に記録石を飲み込んでしまった。
俺は奥歯を噛みしめる。
真実への手掛かりが俺の手元からなくなってしまった。
「くそがぁ……」
「今にも泣き出しそうな顔だね」
「うるせぇよ。こっちは必死なんだよ」
「夢を追うのは悪いことじゃない。ただ周りを、夢を追う前に周囲の人を見ることをオススメするよ」
「勝手なこと言うんじゃねぇよ。俺が決めた俺の道だ。俺の夢だ」
俺の憧れた師匠の夢で、俺が今やりたいことだ。
「絶対に世界の真実を調べて、教えてやるんだ。未知の面白さを。探求の先にある感動を」
幼い俺が体感したあの時のように。
「人間と竜。その二つの身体を持つ意味を理解した上で言っているんだね?」
「心を読んだり、記憶見たり出来るんだからわかるだろう」
知っているさ。調べたさ。
通常、人間と竜の間に子供が出来ないことぐらい。
竜の研究者であるメリアにも調べるの手伝ってもらって前例なしだったんだ。
わかってるさ。俺は不自然な存在だって。
「そうかい? あまり理解しているようには見えないけれど」
「生憎俺は無知な魔法の研究者なんでな」
皮肉を言うと写本は黙った。
数秒の沈黙の後、光の線が俺の真上に出てくる。
――電気、変換、拡張、人、接続。
視界の範囲に入っている図形を見たが。新しい魔法陣は用途がわからない。
「真実を知る覚悟はあるのかい?」
写本が俺に問いかけてきた。
俺は笑って答える。
「とっくの昔に出来てるさ」
「死ぬ覚悟も出来ているって事だね」
魔法陣から何かが弾ける音がする。
目端に雷の流れが見えた。
「無知には罰を――バイバイ、黒竜くん」
「あが、あ、あああああぁぁぁぁぁっ!!」
俺は激痛に叫ぶ。
雷が俺に流れた。
全身を針で一斉に刺されるような耐えがたい痛み。
竜化したら雷を少しは耐えれるかもしれない。
しかし、竜の毒が部屋には蔓延している。
動かなくなったところをじわじわと嬲られるだけだ。
完全に写本の策に嵌っている。
「なかなか耐えるね。なら、出力をあげようか」
「ああーーーー!!!?」
――俺は、まだ、死ねねぇのに……!
リアルが立て込んできているので、11/18に更新できたらいいなぁ・・・・・ぐらいに思ってます




