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半竜の研究者は世界の秘密が知りたい  作者: 紺ノ
信頼と裏切りと金色の二人
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勘違い、泥棒か誘拐か?

 飯を食い終わった俺とメリア来たときと同じように屋根の上を走って宿に戻る。

 宿の前でメリアを背中から下ろして中に入るとクウェイト・ハロルドのおっさん、トリトンの三人が困った顔をしていた。


「何かあったのか」


 クウェイトが何やら言いづらそうな顔をしていた。


「メリアさんが何処かにいってしまってな。探しているのだが見つからずに――メリアさん!?」


 俺の横にいるメリアに気がついたようだ。

 ハロルドのおっさんとトリトンが勢いよくこちらを向く。


「よかったのん。護衛対象が消えたとか聞いたときは冷や汗ものだったのん」

「私と隊長もですよ」


 そういや何も言わずに外に出たんだった。

 クウェイトが俺の前に立ちふさがる。


「イヴァンさん、どういうことか説明して貰いましょうか?」

「え、俺がか」


 護衛ギルドのみんなが俺を睨んでくる。メリア失踪事件の主犯は俺なのか。

 事実を伝えるにしても何故止めなかったのかと聞かれそうだ。


「ただいまー。マイアットさんの情報ナシなんだけど。麻袋にでも入れられてさらわれたんじゃないか?」


 宿の扉を開けて入ってきたのはオリバーだった。お手上げ、というポーズを俺たちに見せると固まった。


「いるじゃん。え、どゆこと?」

「これからそれをイヴァンさんに聞くところだ」

「うわ、ハーヴェンがお怒りモードだ。近寄らんトコ」


 オリバーがトリトンの隣に座る。

 傍観して楽しむつもりか。

 そしてトリトンお前、殴りたくなるくらいのいい笑顔だな。俺が困ってるのがそんなに楽しいか。


「メリアと外に飯を食いに行ってただけだ」

「護衛をしている私たちに一言もないのは問題ではないですか?」


 ド正論。

 否定の余地なし。

 メリアがみんなの視界に入らない所で手を合わせて口を動かす。

『ごめん』だそうだ。

 俺は目を瞑る。


「そうだな。以後気をつける」


 俺の答えにクウェイトは頷く。

 何かまだ物足りなさそうだったが俺の態度から言うのを止めたのだろう。


 ――俺はクウェイトたちに許可貰おうとはしたんだぞ?


「そうしてください」

「護衛対象が無事なのはわかったのん。でもなんで部屋荒らされていたん?」

「まったくの別件……なのでしょう」


 部屋が荒らされている、というのは穏やかじゃないな。


「泥棒でもきたのかな? あ、でも今日は竜の研究物持ってきてないからよかったー」

 

 メリアが勝手に安堵しているとクウェイトが首を横に振る。


「荒らされていたのはイヴァンさんの部屋です」


 俺はそれを聞いて腰のあたりにある鞄を触る。

 鞄の上からわかる記録石の入った入れ物の硬い感触。


 ――記録石狙いか?


 盗まれて困るようなものはなかったはずだ。強いてあげるならラッドから借りている本とメリアに渡す予定の髪飾りぐらいだと思う。

 本は鞄に入らなくて置いていったし、髪飾りはメリアに急かされたときに忘れてしまった。


 考えていると白衣の袖を誰かに引っ張られる。

 メリアが俺に耳打ちをしようとしていた。

 身長差があるからしゃがめ、ということらしい。


「イヴァン、片づけせずに外に出たからじゃない?」

「あー」


 クウェイトたちが今後の護衛について話している横で俺は納得の声を上げる。


「急に声を出してどうしたのん?」

「俺の部屋が汚いのは実験して後始末してなかっただけだ」

「あそこまで汚せるものなのですか?」

「集中するとイヴァンは部屋の床を紙とインクと薬品塗れにするよ。今回は床が見えてる分マシかな」


 メリアの言葉にみんなが呆れた表情をした。

 オリバーだけが一人馬鹿笑いしている。

 汚れてても研究・実験が可能なら続行するだろう。基本、すべてが終わった後に片づければいい。


 実験中の俺のことを部屋を汚す奴という風に言っているがメリアも大概だ。

 それはラナティスの研究室を見たら一目瞭然だろう。


「なら誘拐も泥棒もなかったってことか。いやー仕事増えなくてよかった」

「オリバー!」


 クウェイトが怒鳴りつける。


「へーい、黙ってますよ」


 今度はトリトンがクスクスと笑った。

 

「一番心配してたキミだよねん? だから率先して外で情報収集してたわけだしねん」

「そういうの恥ずかしいから黙っててくんない?」

「黙ってたら滅多に見られないキミの困った顔が見れないしねん」


 オリバーが足で木の床を二回鳴らした。


「くたばれトリトン」


 今度は立ち上がったと思ったら、そのままふらっと外に出ていく。


「いいのかあれ」


 俺の独り言にトリトンが反応した。


「大丈夫。居心地悪くなったからギルドに戻っただけなのん。支部長へ無事だったって報告してくれるといいんだけどねん」

「あいつはこの宿に泊まらないのか」

「緊急の増員だから宿側に準備できないと言われました。護衛の観点からなんとかしたかったのですがね……」


 ハロルドのおっさんが補足してくれた。

 頷くトリトン。


 俺の白衣の袖がまた引っ張られた。


「メリアなんだよ」

「……眠い」


 どこまでマイペースなんだ。

 部屋に戻るなら勝手に戻ればいいだろう。


「……おんぶ」


 まともに開いてない目で俺の背中に乗ろうとする。

 さっきまで乗せていたがさっきはさっき、今は今だ。

 俺は容赦なく振り払う。

 

「しないから。ほら歩け」

 

 メリアの背中を押して歩かせる。


「じゃ、悪いが明日もこいつの護衛よろしく」

「わかりました。おやすみなさい」

「クウェイトさ……おや……み」


 俺はまともに返答できないメリアを押しながらゆっくりと歩く。

 メリアの部屋は俺の部屋より奥にある。

 面倒だが、きっちり送らないと廊下で寝かねない。


「着いたぞ。ちゃんとベッド寝ろよ」

「うん」


 部屋に入って行くのを俺は見届ける。

 扉の隙間から部屋の中が散らかっているのが見えた。


「やっぱり俺といい勝負じゃないか」


 思わず欠伸が出る。

 実験をするにしても、部屋の片付けをするにしても一回睡眠を取った方が良さそうだ。

 運動をした後だからよく寝られるだろう。


 ――そういや、髪飾りはさっき渡せばよかったんじゃないか?


 タイミングを逃した俺はメリアが入って行った扉を見た。

 きっともう寝ているはずだ。

 俺はもう一度欠伸をする。


 ――明日にしよう。


 俺はそのまま自分の部屋の扉を開けた。




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