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半竜の研究者は世界の秘密が知りたい  作者: 紺ノ
信頼と裏切りと金色の二人
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間違い探し、魔力探し

「性別に年齢、身長と体重。それから――」


 ラッドと俺の違いを声に出す。

 俺は宿に戻ってすぐに一人部屋に籠もり、『どうして本の内容に違いが出たか』の原因を特定しようとしていた。


 いつも着ている白衣と服は俺が着替えたときのまま無造作にベッドの上に置かれている。

 ラッドから借りている二冊の本が服の下に潜り込んでいた。


 着替えようと思ったが、頭の中にあるモノたちを吐き出すことにした。

 何かをしている間に忘れてしまったら、思考した時間と思い出すための時間、二重で無駄な時間を生み出してしまう。


「ラッドだけじゃなくてヴェルデのやつも俺とは違う内容を読んだから、こうか」


 紙の中心に大きな円を一つ書く。少しだけ重なるように同じ大きさの円を二つ書き足す。

 共通項があれば円が重なっている場所に書き込む。


 まだ始めたばかりなので先ほど口にした『性別』『年齢』『身長』『体重』しか書いていない。


 もう一枚紙を取り出して、頭に浮かぶ特徴を手当り次第に殴り書いていく。頭の中が空っぽになるまでずっとだ。最後にまた共通項の部分をまとめていく。


 燕尾服姿で胡座を掻いて作業を続けた。紙が文字で埋まれば次の紙を取り出す。インクがどんどん減っていく。


 どれぐらい時間が経ったかわからない。一通りまとめ終わったところで紙を手に立ち上がった。


 紙にはもう書くところがほとんどない。最初に書いた円からはみ出した言葉がいくつかある。


「とりあえず、これを使って考えるか」


 足下で紙が擦れる音がする。

 気がつけば、紙の湖の中心に俺がいた。


 ――しまった。研究室のノリでやってた。片づけるのが面倒そうだ。


「ま、あとでいっか」


 俺は燕尾服を脱ぎ始める。


 が、俺はイライラし始めていた。


 ボタンというのが厄介すぎる。便利なのかもしれないが、いつも着る服には付いていないので留めるのも外すのも一苦労だ。

 そしてもう一つ厄介な点がある。

 

 ――俺の左肩にある黒竜の鱗だ。

 

 肩に一枚だけどう足掻いても人間に戻らない鱗がある。この鱗にうっかり布を引っかけてしまうと簡単に裂けてしまう。

 大体、服を駄目にするときはこの鱗のせいだ。


 俺はメリアから貰った服を傷つけないようにそっと脱ぐ。そしていつもの少し大きな服と白衣を身に纏う。こちらの方が遥かに楽だ。


 白衣の下から出てきた二冊の本。

『妖精物語』の方を手にして、ぱらぱらと頭から開いていく。

 

 ――やっぱり悪魔の話だよな。


 確認がとれたところで先ほどまとめた紙を注視する。


 性別と言う話であればヴェルデとラッドで同じ内容を見ることはない。年齢となれば、ヴェルデと俺は年齢が近いはずなのでこれもない。魔法が使えるかどうかというのも紙に記載したが、おそらく関係ない。使うだけなら魔石があれば誰でも出来る。

 

 俺とラッドとヴェルデ。この三人で俺のみに当てはまることがあるのは『竜であるか否か』という一点か。もしこれが正解なら解せない。竜に読ませて何になるというのか。


 どんな仮定をしても、結論が見えてこない。

 思考がどんどん沼に嵌まっていく。


 俺はベッドの上に倒れ込む。


 そこそこ良いベッドだからだろう。身体が少し沈んだ。


「そういや、ヴェルデのやつちゃんと戻れたのか」


 ヴェルデは何故か突然パーティー会場に戻ると言い出したのだ。

 時間が時間なので気にはなるが、いい歳をした人間だから大丈夫だとは思う。


 メリアのベッドへ被害が出なかったのは良いことかもしれない。


 ――さて、また考えるか。


 インクの残りが少ない。また紙に何か書くかもしれない。

 部屋の隅に置かれている鞄から予備のインクを取り出そうと手を入れる。

 鞄の中でガラス製の薬瓶たちがぶつかった。がちゃがちゃと音を鳴らす。奥の方にインク瓶が落ちているのか全然出てこない。


 ――くそ、絶対アレが邪魔なんだ。


 いつもなら鞄に入っていないものが入っているからスムーズに取れない。

 俺は邪魔になっているデカブツを鞄から取り除く。


 手には本――ではなく記録石(スフィア)の入った本型の入れ物。『妖精物語』に勝るとも劣らない大きさ。これが邪魔にならないはずがない。


「取れた取れた」


 俺は予備のインク瓶をベッドの上に置く。

 邪魔な記録石(スフィア)の入れ物をまた鞄の中に入れようとする。


 ――ん?


 本型の入れ物の口からうっすらと青い光が出ている気がする。

 灯りがあるとわかりづらいので魔石ランプを完全に消してみる。


 ――出ている。


 暗い部屋の中に青い光の筋が出来た。


 また魔石ランプを付ける。

 他の光源があると、目を凝らさないと認識できないほどの光が漏れているようだ。


 過去に記録石(スフィア)が光ったのは解析の時だけ。そして、記録石(スフィア)が光るということは魔力の供給を受けているということに他ならない。


 ――お前、どっから魔力を受けているんだ。


 魔力を操作する魔導の応用で魔力の根源を探る。

 かすかな経路(パス)があった。


 ――おいおい、どんな仕掛けだよ。


 俺は微量ながら魔力を発する二冊の本に頬を引きつらせた。

 

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