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半竜の研究者は世界の秘密が知りたい  作者: 紺ノ
信頼と裏切りと金色の二人
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お説教、そしてーー

 ラッドの研究室まで俺とヴェルデは連行された。そして、ソファに二人並んで座らされている。


 左腕の疼きはまだ少しあるが、勝手に竜化するようなものではない。


 お説教とのことだが、俺は今回何もやっていないので連行された意味がわからない。荒波を立てていたのはヴェルデと師匠を馬鹿にしたあの男だ。

 

 どうにも納得いかない。


 ラッドが俺とヴェルデを観察するような視線を向けながら座った。

 ヴェルデの方はイライラしているようで腕を組んで、そっぽを向いている。


「お前らも災難だったな」


 開口一番にラッドから出てきた言葉は説教とはかけ離れたものだった。


 面倒くさそうな顔で頭を掻いてラッドは言葉を続ける。


「絡んできた男はガリオン。ルヴィアにある魔法学校の先生で、まぁ、なんだ。人柄はさっきの通りだぜ……」


 ルヴィアと言えば、魔法学校や騎士団学校のある街だったはずだ。サルベアが研究者の街ならあちらは学生の街と言ったところか。

 

 俺がもし、教科書を作ったら使ってもらいたい場所だ。


「魔法学校の先生がなんでメリア様のパーティーにいるんです!」


 ヴェルデが両手で机を強く叩いた。


「なんだっけ、イヴァン君が見つけたアレ」

魔素乱調(マギ・パニック)か」

「そうそれ。それが使われた実験をしたから詳細を聞きたいとかなんとか聞いたぜ」

「そんなのメリア様の論文と資料を読めばいいじゃないですかね! あんな奴ルヴィアから出てこなくていいです! 牢屋かどっかに監禁されていればいいんですよ!」


 すごい剣幕で捲くし立てる。

 怒りは全然収まらないらしい。


「俺個人としても嫌いな部類の人間だが、ガルパ・ラーデの副代表としては魔法学校との関係は良好でいたいんだぜ」

「ガルパ・ラーデは竜の研究が主だろう。魔法学校と何かやり取りすることがあるのか」

「……情報交換とかですよ」


 俺の質問にヴェルデが苦虫をつぶした様な顔で答えた。

 確認の意を込めてラッドを見ると頷かれた。


「魔法学校の授業は学校外で実施される物がある。そのときに遺跡や竜の巣を発見したら優先的に情報を流してもらえるようにしてるんだぜ。他には研究で魔法師の人手が欲しくなったら、魔法学校経由で卒業生を紹介してもらったりとかな。こっちは代わりに竜の知識やら素材を提供してるんだぜ。てか、ヴェルデ、その当たりの事情わかっててあんなことするなよ」

「ムカつくものはムカつくんですぅ! 人を見下した態度とか、人への決めつけとか!」


 ――ガキかよ。


 心の中で俺は呟く。

 口にしたら、怒りの矛先が俺に向くのは想像に容易い。


 俺が連れ出られたのはあの事態を収拾のためか。


「ヴェルデ、お前さんは後日なんかの形で反省してもらうぜ」

「なんでですか!」


 獣のように歯をむき出しにしているヴェルデにラッドは頭を横に振った。


「俺は事態の収拾のためか」

「半分はな」


 含みを持たせた言い方に俺は上半身を前にした。

 ラッドも同じような姿勢になる。


「なーんか外から魔法師が街に入ってきてるみたいだぜ。それもそこそこの数だ」

「具体的な人数は」

「わかってるだけで十人だぜ」


 変な人数ではないような気がする。

 

 サルベアの街全体ではどうか知らないが、ラナティスでは大規模な研究で魔法師を呼んだりすることはある。呼ぶときは大体二十前後だったはずだ。


 十人で変だと言われれば、ラナティスの研究で召集される魔法師の数は異常な人数となってしまう。


「魔法師をそんなに集めるなんて、何かあったんです?」


 ヴェルデは俺と違うらしい。


「十人って多いのか」

「多い、と言うか今は魔法師が来るようなことがないんです。ガルパ・ラーデは今回の催し中、研究厳禁。竜の調査もないから護衛に呼ぶようなことも――って、なんでワタシ、アナタに教えなくちゃいけないんですぅ!」

「勝手にそっちが喋っただけじゃないか」


 淡々と言葉を返す。


 俺を睨んでくるヴェルデは今にも襲ってきそうだ。


「ごほん」


 ラッドが咳払いをした。

 

「護衛ギルドの方にはもう連絡してある。あっちも何か変な気配を察知して動いてくれてるらしいぜ。一応、イヴァン君も頭に入れといてくれ」

「わかった」


 話は終わったようで、ラッドが立ち上がる。


「俺も着替えて、パーティーに顔出すとするぜ。お前さんたちはどうする?」

「このまま帰るかな。ああいう場所は苦手だ」


 この燕尾服もいい加減脱ぎたい。


「ワタシ、用事があるので」


 ヴェルデも戻る気はないらしい。

 

「そっか。メリアの嬢ちゃんには宿に帰ったって言っておくぜ」

「頼む」


 早めにパーティーから抜け出せるということは、また本が読める。

 気が進まないが大事な手がかりだ。


 そこでふと、本のことをラッドに聞いてみたくなった。


 ヴェルデが横にいるが、記録石(スフィア)の話題ではないから大丈夫だろう。


「ラッド、『妖精物語』の冒頭酷くなかったか」


 木の板となっているドアを開けようとしたラッドが動きを止める。

 冒頭を思い出そうとしているのかそのまま固まった。


「あ、冒頭って妖精の王子が剣の練習してるところだよな?」


 ラッドは探るような物言いだった。


「悪魔が世界へ恨み言を言い続けるところだ」

「悪魔なんて冒頭にいなかったはずだぜ」


 ページ全体が負の感情で塗りつぶされていたのによく忘れられるものだ。

 神経を疑う。


「もしかして、副代表の部屋に置いてあった本のことですか?」


 ヴェルデから質問が飛んできた。しかも合っている。


「そうだけど、読んだのか」

「ワタシ、暇なときにちょこっと読みましたけど、ラッドさんの言っていることが正しいです。メリア様の部下は記憶力が残念です」


 どういうことだ。

 俺の読んだ内容と二人の内容が明らかに違う。


 二人が俺に嘘をつく可能性は低い。メリットがない。ラッドにおいては記録石(スフィア)の内容を知りたいという意見が一致している。


 では、俺が記憶違いをしている可能性。――否だ。


 ならば想定しうるものとしては、二つとも真というクソみたいな結論だ。


 ――アルタミア=サルミアート、あんたはとことん曲者だなっ。

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