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半竜の研究者は世界の秘密が知りたい  作者: 紺ノ
信頼と裏切りと金色の二人
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パーティー、竜はそこに混じらない

 ガルパ・ラーデの本部にある会議室がパーティ会場として扱われる。

 俺とメリア、護衛のクウェイトとハロルドのオッサンの四名で向かった。

 

 会議室の中に入ると、正装をした人しかいなかった。

 この中で一人白衣を着ていたら浮いていただろう。


 周りの目は気にしなかっただろうけど。


 チラチラとクウェイトが俺のことを見てくる。


「なんだよ」

「いや、なんでもないです」


 ――嘘、か。


 ケイオスが余計なことを言っていたから、咄嗟に判断してしまった。


「いやー、ハーヴェンが君を見ているのは燕尾服だからだよ。間違いないね」


 くくく、と笑いながら男が横から話しかけてきた。

 ハロルドのオッサンやクウェイトと同じような軽装をしている。


 護衛ギルドの関係者だろう。


「増援はオリバーさんでしたか」

「そそ。ハロルドが今言ってたけど、増援にきたオリバーさんですよー。よろしくねー」


 ウィンクをするオリバー。

 マイロの三倍増しで軽そうな男だ。


「で、燕尾服がなんだって」

「大好物なんだよ、ハーヴェンの」

「オリバー!?」

「そんなに慌てなくてもよくない? 事実だもの」


 大好物って、服は食い物じゃないぞ。

 それともクウェイトはおいしく燕尾服を食べてしまえる魔物か何かか。


「わかる! わかるよ、クウェイトさん!!」


 メリアが頷きながらクウェイトの両手を力強く握っていた。

 

「いいよね、燕尾服! 特にイヴァンは普段から白衣にだぼだぼのズボンしか履かないから見た目に落差があっていいよね!!」

「あぁ――同志よ!」


 普段着に何か問題があったのだろうか。

 洗濯はちゃんとしているので問題ないはず。染みついた薬の匂いが問題だったか?


 目を輝かせている女二人は熱い握手をしている。


「なんだこれ」

「女性にしかわからないことでしょう」

「趣味嗜好は人それぞれって話だよ」


―― ◆ ―― ◆ ――


 パーティーが始まるとメリアはすぐに年寄どもに連れて行かれた。

 どっかのお偉いさんだろう。


 クウェイトとハロルドのオッサンはメリアの近くでずっと警戒している。

 話始めて時間が経ってないのに、メリアの周りには人が増えていた。

 警戒対象が増えていって、大変だろう。


 で――俺はというと。


「いやー、研究者のパーティーって初めてだよ」

「あんたは仕事しろよ」

「してるしてる。周りをちゃーんと見てますよ」

「あっそ」


 壁にもたれてオリバーと話していた。


 ごちゃごちゃとした人の中に入りたくないのだ。ここでいうごちゃごちゃ、というのは人がたくさんいることよりも、思惑とか策略とかそういう内側に潜む部分の意味合いが大きい。

 

 昔、師匠に連れられた社交の場の光景が忘れられないのだ。

『魔法の概念を壊す魔導は外道だ』だの『魔法の冒涜者』だの裏で罵っておきながら、師匠の姿を見ると媚びを売り始める。そして、師匠の研究やら知識を盗もうと必死に会話を繋げていた。

 もっとも、そういう輩たちは『腹を割って話せないなら消えな。潰すぞ』と追い返されるのがオチだった。

 

 ――淡々とあの台詞を言う師匠の顔を思い出したら寒気がしてきた。

 

「ここにいましたか。イヴァン=ルーカス」


 紫色のドレスをきた女が俺に話しかけてきた。

 腕を組んで不機嫌そうな顔をしている。


 話しかけられるだけでもありえないのに、名前を呼ばれた。

 誰だ、この女。


「人違いだろ」

「ワタシ、バカではないので会話した人の顔は間違えませんよ」

「本気で誰だよ」

「ヴェルデ! ヴェルデ=トートですぅ!!」

「眼鏡がないからわからん」


 そう、今のヴェルデは眼鏡をつけていない。


 俺の中でヴェルデは『眼鏡を掛けたメリア信仰の狂った女』として記憶されていたので、一致しなかったのだ。


「眼鏡しか記憶されてないんですか!?」


 声がでかい。

 周りの人間がこっちに注目し始めたぞ。


「そこの田舎者たち、静かにしないか」


 変な男が湧いてきた。

 

「田舎者って誰のことですぅ!」


 ヴェルデ、食ってかかるなよ。

 状況が悪化する。


 おい。オリバー、お前しれっと離れていくなよ。

 口だけ動かして俺に何かを伝えようとしてくる。


 が・ん・ば・れ。


 口論を繰り広げる二人と俺を置いて、オリバーはそのままメリアたちのところに行った。


「逃げやがったな・・・・・・」

「イヴァン=ルーカス、あなたも何かこの無礼者に言ってやったらどうですか!」

「事実、俺は山育ちの田舎者だからな」

「例え事実だとしても、言いたいことはあるでしょう?」

「別に」


 ヴェルデが短気なだけだろ。


 男が俺のことを軽蔑するような視線を向けてきた。


「ルーカス、か。貴様は何の研究者だ」

「魔法だ」


 俺の返答に男が鼻で笑った。


「魔法で、ルーカス? 君は随分と馬鹿なようだ。その姓は早々に捨てることをお勧めしよう」


 こいつも師匠のことを悪く言うクチかよ。

 そのムカツク顔を一発殴ってやろうか。


 ――左腕が疼く。


 ここで竜化するわけにはいかない。

 落ち着け。落ち着け。


「あなた、人をバカにするのも大概にしやがれです!」


 ヴェルデが男を引っぱたこうと腕を上げる。

 しかし、その腕が男に届くことはなかった。


「問題は起こすなって言ったはずだぜ? ヴェルデ」


 ラッドがヴェルデの腕を掴んで止めていた。

 この場には似つかわしくないいつもの白衣姿。しかし、纏う雰囲気はいつもの穏やかなものとは違った。


 ラッドの登場に周りがざわつき始める。


「これはこれはラッド副代表」

「ガリオンさん、こっちでこいつの始末はつけさせてもらうぜ」

「どうぞ」


 ムカツク男は何事もなかったようにまた人の中に戻っていく。


 その他大勢も収束に向かっているこの事態に関心を無くしたのか、また喋り始める。


「副代表! 離すですぅ!!」

「ちょっとこっち来い。お説教だぜ。イヴァン君もな」

「なんで俺まで」

「いいから来な。悪いようにはしないぜ」

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