兄妹、想いと夢
初投稿です。
誤字脱字の指摘・ご意見など下されば幸いです。
パンが焼ける良い香りが漂うリビング。
涼しい風がその中を吹き抜ける。
アルヴ・スースの店員もといクウェイトの兄が鼻歌交じりでキッチンに立っていた。
――何がどうしてこうなった。
問答無用で椅子の上に座らせられた俺は目の前にテーブルに顎をついた。
クウェイトも俺同様に椅子に座っている。
ただ顔が青い。
「どうして俺たちは家に上げられたんだ」
クウェイトにだけ聞こえるように小声で話す。
「おそらく、私が四年近く兄のところに顔を出していなかったからだろう」
「そっか」
なんで、とは尋ねない。
世界の真実や魔法のことなら躊躇なく尋ねたが、今回はクウェイトのことだ。
理由があって顔を出さなかっただけのことだ。
変に首を突っ込む必要もない。
「紅茶でよかったかな?」
クウェイトの兄が俺に微笑みかける。
兄妹というだけあって笑うと目元がそっくりだった。
「構わない……です」
俺はたどたどしく敬語を使う。
基本、敬語は使わないし使えない。しかし、クウェイトの兄は敬語を使わなくてはいけない気がした。
「気楽にしてくれていいよ。さて、クゥ」
「はいっ!?」
「怒るつもりはないよ。でも、顔ぐらいは出してくれても良かったんじゃないか?」
キッチンからトレイを持ってクウェイトの兄はやってくる。
ポットとティーカップが三つ角砂糖が入っている小瓶がトレイの上に載っていた。
「ですが」
「反論かい? 聞こうじゃないか。言ってごらん」
クウェイトは押し黙った。
カップに紅茶を注がれていく。
紅茶の香りが現状とミスマッチすぎる。
――居辛い。
「黙っていてはわからないよ。私は思考を読めるわけではないからね」
優しい口調でクウェイトをゆっくりと責めていっている。
諭す大人と黙る子供に見えた。
隠しても黙ってもわかられている気にさせられる。
これが『兄』という存在だ。
銀色の長髪が頭を過る。
――思い出したくもない奴を思い出しちまった。
「仕方がない。少しクゥは外にいてくれないかい? 私は君とお話がしたい」
「俺?」
「わかり、ました」
クウェイトが言われた通りにリビングから出ていこうとする。
覇気のない動きで扉を開けて、音もさせずに閉めた。
――俺にどうしろと言うんだ。
「すまないね。私の我儘に付き合ってくれないかい?」
「どういうこと……ですか」
クウェイトの兄は苦笑いをした。
「先に自己紹介をしておこうか。私はケイオス=ハーヴェン。クウェイトも言っていたが、あれの兄だ」
「俺は――」
「敬語は無理して使わなくていいよ」
背中がぞわぞわする。
笑みを浮かべるケイオスに俺は目を逸らしたくなった。
クウェイトも同じ感覚に襲われていたに違いない。
「イヴァン=ルーカス。ラナティスの研究員をしている」
「研究員か。なるほど、通りで白衣を着ているわけだ」
白衣を摘まんで確認する。
――サルベアでは白衣着てウロチョロするの普通なんだけど、違うのか。
「まぁ、なんだ。クゥのことを少しばかり聞きたくてね」
恥ずかしそうに頬を掻いた。
「聞いてもいいけど俺はあんまりクウェイトのことは知らないぞ」
「え、クゥの彼氏じゃないのかい?」
「え」
「だってクゥが男を連れて行動してるんだよ?」
――だって、って言われても知らない。
「ハロルドっていうオッサンがクウェイトと一緒にいつも行動してるぞ」
「クゥはオッサン趣味だったのか……」
「違うって」
俺は暖かい紅茶を飲んで喉を潤す。
世の中の連中は男と女が一緒にいたら、やはり番だと思うらしい。
メリアと行動するときは気を付けよう。
「では、君は一体クゥのなんだい?」
何と答えたものだろう。
恋人ではない。それはさっき答えた。
では、友人か。多分違う。
適切な表現が見つからない。ただ、今の関係を表すなら――。
「元仕事仲間かな」
「ほう。詳しく聞かせてもらえるかな」
―― ◆ ―― ◆ ――
クウェイトに出会ってからオリフィスの事件の終幕までを簡単に説明した。
ケイオスは時折おっかなそうな顔をしていた。
「そんなことがあったのか」
「俺が知るクウェイトはこんなものだ」
「あれの戦い好きな部分は剣術の練習にクゥを付き合せていたからなんだ。研究員に剣を向けるとは思わなかった。申し訳ない」
頭を下げるケイオス。
「そこまで気にしてない。ただ魔法を教えるなら手加減を覚えさせてくれたほうがありがたい」
「いや、私が教えたのは剣術だけだ。魔法は教えてない」
――クウェイトの魔法の先生は別にいるのか。
「そうか。クウェイトは護衛ギルドで隊長と呼ばれるまでになっていたか」
ケイオスは安心したのか息を吐いた。
穏やかな表情をしている。
「本人の前でその顔を見せてやれよ」
「それは出来ないよ。クゥが護衛ギルドに入ったのは私の夢をクゥがやろうとしているからね」
――兄の夢を妹が?
首を突っ込むべきではない。しかし、どこか自分と重ねてしまった。
「どういうことだ」
質問をしてしまった。
「僕は騎士団にいたんだよ。でも、肩を怪我してやめたんだ」
右肩をケイオスは押さえた。
「私は子供の頃から街に住むみんなを守りたかったから騎士団で仕事をするのが夢だったんだけど、こんな身体では守れないからね」
夢を追って為した結果は納得のいくものではなかっただろう。でも、ケイオスは笑っている。
「クゥは騎士団をやめた話をどっかから聞いたのだろう。私がやめる頃には護衛ギルドに入って家から姿を消していたんだ」
ケイオスは紅茶の入ったカップを持ち上げて、カップの中の紅茶を眺めていた。
「私はクゥの未来を変えてしまった気がしてならないよ。女の子に生まれたのだから結婚して幸せに暮らして欲しいものだよ。まぁ、これも私の勝手なのだけれど」
そう言うと紅茶を一気に飲み干した。
――師匠もそんなことを考えていたのだろうか。
やらかしたぜ。どうも、紺ノです。
あぁ、酒って怖いわ。
頭痛くて書けなくなるもん。
―― ◆ ―― ◆ ――
読者の人、いつもありがとうございます。
なんとかかんとか続けています。
今後の予定(?)なんですけど、HJネット小説大賞用を一本書くために更新頻度が減ります。
まぁ、週末には更新するようにしますので、週1~2になるカンジです。
だらだらとやりたいこと書き殴っていくので、今後ともお付き合い下さいな。




