講義は続く、魔法に想像力は大切です
初投稿です。
誤字脱字の指摘・ご意見など下されば幸いです。
「――例えば『本を食べれるようにしてください』って言われた場合、クウェイトはどうする」
クウェイトは眉間に皺を寄せて立ち止まった。
質問の答えを思案しているようで顎に手を当てていた。
俺も歩みを止めて、クウェイトの回答を待つ。
紙袋に入っている食料が中で揺れる。
俺は抱え込んでいる紙袋を持ち直した。
「そんなことはできない。できるはずがない」
首を横に振ったクウェイト。
「それが想像力の限界だ。クウェイトは今、可能性を捨ててしまったんだ」
「無理なものに無理と言っているだけだ」
クウェイトの口調がやや喧嘩腰だ。
「それができるんだよ。『本を食べれるようにしてください』ってことに条件がないから『本をパンに変える』なんて方法でクリアできる」
「狡くないか?」
「……だよな」
要は食べ物に変えてしまえばいいのだ。
ただ『本をパンに変える』というのは簡単なことではない。
熟練の魔法師にクウェイトにした質問の答えを教えて、実際に『パンに変える』魔法を行使して貰うという実験がある。
実験対象数は延べ二千人。成功者は六人。
あまりにも少なすぎる。
「ここからが想像力の話だ。本をパンに変える事が出来る人と出来ない人には決定的な違いがあったんだ」
「パンに変える方法を思いつくか否かではないのか?」
「それだけじゃないんだ。本をパンに変える事が出来る人は――パンを作る工程から食べるまでを想像していた」
小麦粉に材料を加えて、練って、発酵させて、焼成する。そこからパンの生地の硬さ、風味、温度、食感――パンを構成する全てを想像していた。
六人の成功者たちが作ったパンの種類は異なっていたらしい。
想像したパンが魔法師によって違ったことが要因だと結論づけられている。
この実験から『魔法の限界は人間の限界が生み出している』と言われるようになった。
「随分と頭を使うんだな」
「クウェイトだって俺と戦ったとき槍を出していただろう。あれも相当な想像力を必要とするはずだ」
空中に浮かぶ幾千の槍。ラナティスの訓練場で目のしたときは死が頭にちらついた。
手合わせと聞いていたのに殺傷性の高い魔法が俺を襲おうとしていたのだから当然だと思う。
クウェイトは穏やかな顔でぽつりと呟く。
「想像は柔軟に、そして正確に。あれはそういう意味だったのか」
それは師匠が俺に想像力の限界を説明を締めくくるときによく言っていた言葉だった。
「その言葉、知ってるんだな」
声が震えていたかもしれない。
「私の魔法の先生が言っていたんだ。『槍を出したいなら槍に触れて頭の中に槍を作り出せ。想像は柔軟に、そして正確にしろ』と」
クウェイトの先生か。
いつか会ってみたいものだ。
「とりあえず、魔法の限界についてはこんなものなんだけどわかったか」
「概ね理解出来たとは思う。感謝する。ギルドには魔法師が少なくて教えてもらえる機会があまりないんだ」
魔法師は基本的に『法団』と呼ばれる組織に所属して管理される。
法団に入っておけば高収入で好待遇が約束される。魔素の毒で死ぬリスクはあるが、ちゃんと対策を取ればよほどのことがない限り死なない。
良い仕事だと思う。
ギルドに所属することなんて稀だ。入っているとしたら何か事情がある。
「ハロルドのオッサンって魔法師だよな」
「一応、らしいぞ。ほとんど独学で覚えたため合っているかわからない、と言って教えてくれないんだ」
ハロルドのオッサンの言い分はわかる。
独学の魔法は間違った解釈をしていることがままある。
魔法もその人のみに特化したものになっていることが多い。
クウェイトには正しい解釈で学んでほしいのだろう。
正しい魔法を学ぶなら魔法学園に通った方がいいと思う。
「俺がわかることなら教えるから歩こうか」
俺とクウェイトはまた坂を下り始める。
「そういえば次はマフィンだったか。店の名前はなんだ?」
「アルヴ・スースだとさ」
「な、に?」
クウェイトの顔が強ばる。
――俺、何か変な事言ったか?
PV3000いきました。紺ノです。
魔法の研究者とか面白そうじゃね? 魔法の起源調べたら面白そうじゃね?
そんな感じで始めたこの作品ですが、読者がいてくださるのが嬉しいです。
拙いですがこれからも更新していくのでお付き合いくださいな。
―― ◆ ―― ◆ ――
イヴァン「ここに俺が出てくるの久しぶりじゃないか」
紺ノ「ちょっとお話がありまして」
イヴァン「なんだよ」
紺ノ「魔法の限界ぶち壊して僕に時間をくれぇぇ! 主に執筆時間!」
イヴァン「抱き着くなぁぁぁ!!」