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半竜の研究者は世界の秘密が知りたい  作者: 紺ノ
信頼と裏切りと金色の二人
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夜、研究者は本が読みたい

初投稿です。

誤字脱字の指摘・ご意見など下されば幸いです。

 ラッドの研究室からメリアを担いで走ること三十分。

 『竜の巣』という看板が掛かっていた。俺とメリアはユビレト滞在中ここに泊まることになるらしい。

 

 宿代はガルパ・ラーデ持ちだ。

 メリア・フィーバー対策で『竜の巣』には俺とメリア、身辺警護をしてくれるクウェイトとハロルドのオッサン以外泊まれないようにしているとのこと。


 部屋は一人一部屋割り当てられていた。

 ベッドと毛布、あとは暗い時に明かりにできる魔石ランプがあるだけの部屋。

 豪勢ではないかもしれないが宿を貸切にしていることを考えると充分だと思う。


 メリアへの配慮が徹底している。

 ガルパ・ラーデもメリア・フィーバーが問題であることを理解しているのかもしれない。


 俺は宿に着いてから部屋に籠もって本――ラッドから借りた『精霊の旅路』――に目を通していた。


 昔、師匠に読み聞かせて貰ったがもう十年以上前の話だ。

 話の流れだけでもさらっておこうと読み始めたが、四百九十四ページの本はすぐには読破できないそうにない。


 夜になっても魔法ランプの明かりを一番強くして本を読む。


 光が部屋の暗闇の居場所をなくしている。


 小さな文字の読み過ぎで目が痛い。

 床の上に胡座をかき、壁を背もたれにしているのも疲れてきた。


「イヴァン、いる?」


 メリアが扉を少し開けて覗いていた。


 風呂に入ったのか、後ろに纏められているはずの髪は下ろされていた。服装もいつもの白衣ではなく、動きやすそうなワンピースに着替えていた。


「入りたかったら入ってこいよ」

「おっじゃましまーす」


 メリアは入ってきてすぐにベッドに飛び込む。

 

 ――なにやってんだよ。


「今日は疲れたよー」

「お前がユビレトに来たくない理由を今日だけで十二分に理解できた。特にあの面倒くさい女な」


『精霊の旅路』から目を離すことなくメリアと会話する。


 内容が面白い面白くないは考えずにただ何が書かれているかだけを読んでいく。 

 多分、物語を読む上では一番つまらない読み方だ。


「ふぁ~あ。ヴェルデさんのことだよね……。悪い人ではないんだけどね。うん、苦手」


 眠そうな声のメリア。

 ベッドの上で足をばたつかせているのが視界に入る。

 

 そのとき生まれる風に乗って石鹸の香りがする。


 ――よろしくない、だろうな。


 対外的なことを考えた結果、俺は牽制してみることにした。


「メリア、お前俺に襲われるとか思わないのか」


 俺の感性は狂っている。

 こと女に関しては特に狂っている。


 綺麗や可愛いといった外見がわからないのだ。しかし、『そういう』知識は持っている。

 ラナティスに入ってマイロと関わるようになって知ってしまったのだ。


 ――そういったことを考えたこともなければ、欲としての実感も沸かないけど。

 

「別にー。だってイヴァンは襲わないもん」

「そういう話じゃないんだが」

「何も起こらないよ。だってイヴァンは――」


 メリアの足の動きがゆっくりになり、次第に静止した。


「メリア?」


 小さな寝息を立てて寝ていた。 

 精神的に疲れていたのだろう。


 俺はメリアに毛布を掛ける。


「人がお前のことを心配しているのに寝るのかよ」

 

 俺はメリアの落ち着いた寝顔にため息しか出なかった。


 ランプの光を落として立ち上がる。

 メリアが寝ているところで本を読むのは(はばか)れる。


『竜の巣』の中にあるバーのカウンターで続きを見よう。


 俺は物音を立てないようにして部屋を出る。


 ――おやすみ、メリア。


 暗い廊下をランプで照らしていこうとしたが俺はやめた。

 廊下の先にあるバーが明るかったのだ。

 泊まれる人間が限られているのに、何故だろう。


 俺は本を脇に挟んでバーに向かう。

 そこには二人の先客がいた。

 

 クウェイトとハロルドのオッサンだ。


「二人とも何やってるんだよ」

「それはこっちの台詞だ」


 クウェイトがバーのテーブル席から俺を不思議そうな目で見ていた。ハロルドのオッサンも同じだ。

 

 ハロルドのオッサン、いつ来たんだよ。


「俺の部屋でメリアが寝たから逃げてきた」

「イヴァンさんの部屋で!? いや、うん。二人はそういう関係なんだな」

「ハーヴェン隊長、私たちは宿を変えるべきでは?」


 嘘をつく必要はないと思って事実を口にしたのは失敗だった。

 盛大に勘違いされていた。


「俺はメリアに手を出してないし恋人とかでもないからな」


 身辺警護の二人組は疑いの表情だ。


「おい、その顔をやめろ。クウェイト、お前は嘘ついてるかどうか判断出来るだろう」

「今日一日お二人を見ていたが随分と距離が近かったので、ついな」


 基本、メリアが俺に泣きついてきただけのような気がする。


「で、クウェイトたちはこんな時間に何してるんだよ」

「メリアさんの明日明後日の予定から警備をどうするか話し合っていたんだ」


 ハロルドのオッサンはどうやらさっき『竜の巣』に到着したらしい。

 今までガルパ・ラーデのお偉いさんと打ち合わせをしていたのだとか。


 ――どっちが隊長だよ。


「私たちだけでは人手が足りないという結論に至ったので明日、人員の追加をお願いしにいこうと思っている」

「そんな簡単にできるのかよ」

 

 口では簡単に言えるが、人を増やすのは簡単なことではない。

 ラナティスで研究の人員を増やすとなると半月はかかる。


「ルーカスさん、私たちの所属するギルドの支部がユビレトにあるんですよ。そこに直接話を通します」


 ハロルドのオッサンが説明してくれる。

 ラナティスとは違いすぐに増やせるらしい。


 研究組織と護衛ギルドは体制が違うようだ。


「メリアが大丈夫なら俺はなんでもいいさ」


 俺はバーカウンターの一席に座って本を開く。


 ハロルドのオッサンが俺を見る。


「ところで本当に私たちは本当に宿を変えなくていいのですか?」

「あんたなぁ……」


 ハロルドのオッサンを睨む。

 クウェイトとハロルドのオッサンに俺とメリアの関係をちゃんと理解してもらうべきだろう。


 ――本はまた明日続きを読むことにしよう。


 俺は本を閉じて、二人の間違った認識を正すことに注力するのだった。

 

約束通り4/5に投稿できて良かった。紺ノです。


更新してないときもアクセスしてくれている人がいたみたいです。ありがてぇ。


読者がいてくれて良かったよ。ホント、いなかったら「あ、更新しないと人って来ないんだ」とか悲しい思考に落ちていたかもしれません。


基本は自分の書きたいものを書き殴るスタイルでやっていきますが、これからもよろしくお願い致します。


次回更新は4/7です。

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