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半竜の研究者は世界の秘密が知りたい  作者: 紺ノ
竜と盗人とはじまりのお話
3/162

依頼と矛盾

初投稿です。

誤字脱字の指摘・ご意見など下されば幸いです。

 俺はため息をつきながら、二つのマグカップに沸かしたコーヒーを注いでいた。

 薬品臭のする研究室をコーヒーの香ばしい香りが上書きしていく。


 後ろのテーブルでは、呑気にメリアが俺の作ったサンドイッチを食している。


「おいしいよ、これ」

「そうですか」


 コーヒーの入ったマグカップをメリアに渡して、俺もサンドイッチを食べ始める。

 ハムとチーズを挟んだだけだが、味は悪くなかった。

 即席にしては上出来な部類だろう。


「食べながらでいいから、聞いてくれるかな」


 仕事の話をするようだ。

 俺はサンドイッチを頬張りながら、首肯する。


「私が『竜の生態』について研究してるのは、知ってるよね。その研究のために先日まで、とある遺跡の調査をしてたんだよ」


 二ヶ月ほど前から姿が見えないのは認知していたが理由は初耳だ。


「初めはやる気なかったんだけど調査してたら竜について書かれた石版が結構出てきてね。これは結構当たりのトコかなって思って、さらに調査してたら変な文献が出てきたんだよ」


 神妙な面持ちになったメリアは続ける。


「『魔素は人を生かした。代わりに竜を滅ぼした』って、古代文字で書いてあったんだ」


 メリアの口から出た『魔素』とは魔法を使うために不可欠な要素だ。通常、視認することはできないがどこにでもあるものだ。

 ここまで聞くと魔素は不可視の資源だが、一つ問題がある。


 ――魔素は人間にとって、毒である。


 人間には、魔素を分解、浄化する器官が存在しない。

 一定濃度以上の魔素で満たされた空間にいると、見えない力に押しつぶされるような感覚に襲われる。そして、吐き気や目眩と言った症状を引き起こす。

 最悪の場合は窒息に似た状態になり、死んでしまうのだ。


 同じ条件で生存できるのは魔素を分解・浄化する器官を持つ魔物や魔獣といった存在ぐらいだろう。

 竜も魔獣に分類されるので魔素が原因で死ぬことはない。

 文献の内容をそのまま受け取ってしまうと現実と矛盾している。


 ――なるほど、仕事の内容がおおよそ掴めたぞ。


「イヴァン=ルーカス、あなたにこの文献の真偽の調査をメリア=マイアットから依頼します」


 メリアは凛とした表情をしていた。

 人の左腕に頬ずりしていた変態とは、誰も想像できないだろう。


 俺はサンドイッチの最後の一口を放り込んで、頭の中を整理する。

 聞いた情報を何度か再生して整理したが、おそらくメリアは重大なことを言っていない。

 なにより上司としての命令ではなく、一個人としての依頼と言っている。


「受ける前にいくつか質問がある」

「何かな?」

「まず、なんで遺跡の調査なんかにお前がついていくんだ?」


 メリア自身もさっき話していたが、『竜の生態』をテーマに研究している人間が遺跡の調査をするのは何かおかしい気がする。


 俺の質問にメリアは苦笑いをした。


「それは他の研究者との付き合い上、仕方がなくとしか言えないかな」


 やる気がない、と最初に言っていた。嫌々ついて行ったのだろう。

 

 俺は納得したところで次の質問をする。


「遺跡の場所を教えてくれ。調査するにしても情報が足らないだろう」

「それは答えれないかな。上から口止めされてるんだよ」


 ――メリアの上ってあまりいないはずだよな。上から三番目とかじゃなかったか?

 

 すぐには判断できそうにないので、保留だ。


 次は一番気になることを聞いておきたい。


「その文献、何年前のものだ」


 メリアは遺跡を調査した、と言っておきながら、いつの時代の文献か言わなかった。

 おおよそであれ、いつぐらいのものかはわかっているはずだ。


 俺がメリアの目を見ると、目が泳ぎ始めた。

 額を見ると脂汗のようなものが確認できた。


 これは俺の経験上あまりよろしくない。かなりよろしくない。

 今までもこの状態のメリアを見たことがあるが、良い思いをしたことがない。


「メリアさん?」


 俺は声を低くして、脅すように顔を近づける。

 メリアは観念したように声を絞り出した。


「えーっと、何と言いますか、千と二百年ぐらい前、なのかなって」


 俺はその数字を聞いて、頬が引きつった。


 ――おい、触れちゃいけないところだろ。

 

 学者の中では、触れてはいけない空白の時代と言われている内の一つだ。


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