銀色の影と黒い竜鱗
初投稿です。
誤字脱字の指摘・ご意見など下されば幸いです。
昨夜とは違い、美しい円を描く月が照らす夜。
森の中からフードを被った人間が出てきた。
一人や二人ではなく、十人以上の不審者の団体だ。
俺と護衛ギルドの守る保管庫の周りを囲むように陣形が組まれている。
オリフィスがいないか注視する。
「お前たちは何者だ」
クウェイトが警戒して剣を抜く準備をした。
「オリフィス様の部下だよ。大人しくここにあるお宝たちを渡して欲しいんだがね」
フードを被った不審者たちの一人が一歩前に踏み出してそう言った。
こいつらのリーダーだろう。
ただ、俺の知るオリフィスの声と違う。
オリフィスが他の不審者たちの中にいないか確認していく。
フードを被っていてもオリフィスの銀髪は目を引く。それと細身の身体を目印に確認したがオリフィスの特徴と一致するような奴はいなかった。
――ハズレか。
俺はやる気を失いそうになる。
保管庫の中のものを盗まれたらメリアに文句を言われるので、仕事はちゃんとしよう。
「もし、断ったら?」
「力づくで頂くだけさ」
喋っていた男が手をゆっくり挙げる。
――やれ。
そういう合図だったのか不審者たちは保管庫目がけて走ってくる。
俺は鞄に手を突っ込んで薬を取り出そうとしたとき、月の光を反射する銀色の影が俺の視界に入りこんだ。
「よかったサ。間に合って」
影は銀色の長髪を風に揺らし、背中に大剣が収まっているであろう茶革の鞘を背負っていた。
不審者も護衛ギルドも正体不明の影に硬直する。
俺は左腕が黒い鱗に覆われる。
やる気のなかった頭の中が覚えのある喋り方と容姿を認識して覚醒する。
「オリフィス!」
気がついたら叫んでいた。
周囲の人間がどよめく。
「本物か?」
「なんでここに!」
不審者も何故かオリフィスの登場にたじろいでいた。
「やっぱりヴァンじゃん! お久しぶりサ。ちゃんと大きくなっててお兄ちゃんは感激サ」
オリフィスはおよよ、と鳴き真似をする。
師匠の資料を盗んでオリフィスが姿を消したあのときから身長が伸びて声も変わっているが、昔の面影は残していた。俺が思い描いていたオリフィスだ。
思わず殴りかかろうとしていた身体を理性で押さえつける。
「お久しぶりじゃねぇよ。師匠の研究資料を返しやがれ。そしてくたばれ」
ふつふつと湧き上がる複雑な感情が俺の身体を竜にしていく。
もう左腕に留まらず、左足が竜になろうとしていた。
「その話は後サ。こっちもやることがあるんでねェ」
オリフィスは背中の大剣を抜いた。
刃はボロボロで使い物にならなそうな剣が鞘から顔を出す。長さは子供の身長程度。柄の部分には魔石がはめ込まれていた。
重そうな剣を不審者に向けてオリフィスは睨み付ける。
「――オレの名前を使っていいなんて誰が言ったんサ」
心底不快そうな声で足をタップさせ、地面を何度も叩く。
――本気でキレてるな。
俺はその言葉を聞いて不審者たちが地下牢にいるハゲのおっさんと同じだと理解する。
「イヴァンさん、どうなっているんだ。オリフィスは敵ではなかったのか? あと、オリフィスとは一体どんな関係なんですか・・・・・・?」
クウェイトが俺の横で現状を把握しようとしていた。
オリフィスのことで熱くなり始めていた頭を少し冷やす。
「少なくともオリフィスと不審者が仲間じゃないことは確かっぽいけどな。関係は――後で説明する」
足をタップさせるのは怒っているときのオリフィスの癖だった。
タップの速度で怒りの度合いがわかるのだが、今の音のペースは速い。
不審者のリーダーが不敵な笑みを浮かべる。
「オリフィス。本物がまさか来るとは思わなかったよ」
「ハッ、何言ってるんサ。オレにいろんな色んな濡れ衣着させといてサ!」
オリフィスの剣についている魔石がほんのりと発光し始める。
魔素を分解してる。
――戦う気満々じゃないか。
「イヴァンさん、あの、これは一体」
「俺たちはアイツの魔法に巻き込まれないように少し離れて大人しくしていた方がいいな。クウェイト、みんなに下がるよう言ってくれ」
「わ、わかった」
クウェイトはギルドメンバーにオリフィスから距離をとるように指示を伝えに行った。
俺は一人残ってオリフィスと不審者たちを観察する。
「お前たち! 行くぞ! 本物をぶちのめせ!」
不審者のリーダーの言葉に従って、ある者は魔法で、ある者はダガーでオリフィスを攻撃しようとする。
オリフィスは剣を構えて俺のよく知る言葉を呟いた。
「――錬成。付与」
オリフィスの大剣に風が纏わりつく。
そして誰も攻撃範囲にいない中、大剣を横に薙ぎ払った。
「吹っ飛びナ」
大気の爆発。前方に荒れ狂う風が発生する。
木々の葉が宙を舞う。
吹き飛ばされないように不審者たちは草や木にしがみついて絶叫していた。
不審者の存在を許さない風は止むこと無く、襲いかかり続ける。
俺はオリフィスの背後にいたせいか、頬にそよ風を感じる程度だ。
「ホレ、もういっちょサ」
今度は縦に大剣を振り下ろした。
大剣の纏っていた風が地面に暴風を叩きつける。
先ほどまで舞っていた葉が切り刻まれた。
二回目の振り下ろしで風の刃が追加されているようだ。
不審者たちの肉は無作為に切り付けられていく。風が鮮血を運び、周囲を赤く染める。
絶叫が増していく。
「やめて! もうやめてくれ! 助けてくれ!」
阿鼻叫喚の中に命乞いをする声が混じる。
でも、オリフィスは真顔で言った。
「アンタらには罰が必要サ。オレの名前は軽くないんサ」
オリフィスの大剣についている魔石が光を失った。
風は静かになっていく。
命乞いに応じたわけではない。俺の前方にいた不審者は全員始末したから魔素の分解を止めただけだ。
ただの肉と成り果てた元人間が地に落ちていた。
酷いものは四肢が完全に切断されている。
「なんだよこれ」
「た、助けてくれ! 死にたくねぇっ!!」
運良くオリフィスの後方にいて、魔法に巻き込まれなかった不審者の一部は腰を抜かしている。動ける奴は悲惨な光景を見て逃げ出した。
「逃がさんサ」
「待てよ」
追いかけようとしたオリフィスの前に俺が割り込む。
「ヴァン、お兄ちゃんは今仕事中サ。邪魔するなヨ」
オリフィスが足を一度タップした。
「俺もお前に用があるんだよ」
「後にしてくれないかなァ」
オリフィスが足を二度タップする。
「師匠の資料を返せ。もしくは場所を教えろ」
「ムリ」
オリフィスが足を三度タップする。
「オリフィス!」
「だってもうどこにもないんサ」
――は?
オリフィスは淡々と続けた。
「だってすぐに燃やしたからサ」
お昼寝のつもりが十時間睡眠していました。紺ノです。
まーた(個人的には)長くなってます。
いいんかね、これ。
あとで加筆修正するときにさらに増えて3000字オーバーしそう。
商業作家さんはすごいね。ちゃんと描写したものを書いてるんだから。
私はできてるかわからんです。章ごとにちゃんと見直さないとわからんのですよ・・・・・・。
最後になりましたが、読者の方々毎度アクセスありがとうございます。
なんとかかんとか紺ノはやっていくので、よろしくお願いします。