婆さんと解説講座
初投稿です。
誤字脱字の指摘・ご意見など下されば幸いです。
クウェイトは敗北に納得したのか、晴れやかな笑顔を俺に向けてきた。
手合わせ中に見ていた戦闘狂の顔は消えてしまって別人のようだ。
「イヴァンさん、あなたを警備のメンバーに加わることに賛成します。いえ、是非入って下さい!」
俺はいきなりクウェイトに手を握られた。
何故だろう。
クウェイトの目から尊敬の念を感じる。
「ハーヴェン隊長は認めた相手にはいつもこうなります」
後ろからハロルドのオッサンが説明してくれた。
手合わせが終わったからか、婆さんとマイロも俺の後ろにいた。
てか、クウェイトは力の上下で態度が変わるのか。犬か何かなのか。
「しかし、イヴァンさんはどのように魔法を発動させたのですか? 私には叫んでいたようにしか見えなかったのですが」
叫んでいた――『生成』のことか。
あれは一種のトリガーだ。俺が魔導や魔法を使う時に意識の切り替えを容易にするために口に出しているにすぎない。
「魔力操作と薬師の知識の複合技、とでもいうのかね」
クウェイトの質問に答えたのは俺ではない。
婆さんだ。
「金髪娘の作った魔力の残り滓を利用したんさね」
自慢げに説明していく婆さん。
一瞥で俺のやったことを看破してくる婆さんは化物染みてる。
師匠の師匠、というのは伊達ではない。
「魔法構成の『現象の発生』の際、使う魔法に応じて魔素を分解しているかい?」
全員が無言で返す。
婆さんは数秒沈黙した後、力強く結論を述べた。
「答えは簡単さね。絶対にそんな無駄なことをしない」
『魔素を分解して魔力を生み出し、魔力を使って魔法を使う』という一連の流れの中に魔素の分解の加減は必要ない。むしろ加減したことで魔法の効力が弱まったり、操作不能になったりする。最悪、魔力不足からの不発だ。だから魔法を行使する上では魔素を分解できる限り分解する。
そこが魔導で付け入る部分だ。
「では質問さね。さっき金髪娘が魔法を使ったとき、魔法に消費されなかった分の魔力はどうなっている?」
「金髪娘とは……私のことか?」
婆さんは遠慮も確認もなく適当な名前をクウェイトに付けたようだ。
俺の態度の悪さは婆さんのそういう所が師匠に伝染って、俺に伝染ったのではなかろうか。
「で、質問の答えはわかったかい?」
クウェイトは俺の前で首を傾げている。
他の三名――団長、マイロ、ハロルドのオッサンも頭を悩ませていた。
「未消費の魔力は霧散するまでの数秒間、存在し続ける」
婆さんの意地の悪い質問に俺が答えた。
たちまち婆さんが不機嫌な顔になる。
「アンタが答えてどうすんだい」
「普通わからないだろうが」
俺と婆さんがにらみ合っているとマイロが声を発した。
「えっと、魔力が残ってるってことは魔法が使えるって認知でいいんすかね」
「そうさね。ただ注意しておくと、一朝一夕じゃ出来ないことさね。孫弟子は魔素の分解が下手すぎるから『他人の作った魔力を操作する』なんて邪道を長年かけて身につけているからね」
「婆さんの言い方だと語弊がある。魔石を使用した魔素の分解が駄目なだけだ。あと、邪道じゃねぇ魔導だ」
魔法陣による魔素の分解なら人並み以上にできるからな。
「なるほど。だから魔石も魔法陣もなしの魔法を可能にしているのか。では、あの薬品は?」
「あれは全部混ぜるとスライム状の液体ができるだけ。それを魔法で引き延ばして強度上げただけだ」
クウェイトの疑問に俺が簡潔に説明する。
混ぜた薬品の説明をしてもいいが、不必要だろう。
「なるほど。勉強になります」
クウェイトは意味の分からなかった点がすべて解消できたようだ。ハロルドのオッサンは顎に手を当ててまだ頭の中を整理しているみたいだ。団長さんとマイロは頭から煙を出していた。
あれ? 数日前にもこんなことがあったような?
「団長はここにいますか!」
訓練場に一人の警備兵が慌てた様子で走り込んできた。
「どうした。何かあったのか」
あっという間にいつもの団長に戻っていた。
「あの、部外者の方もいるようですが……」
「構わん。報告しろ」
「はっ! 実は地下牢の一つが壊されていたであります!」
「何?」
穏やかではない報告だった。
読者の方々、いつもありがとうございます。紺ノです。
アクセス数が伸びてるぞー! いやっふぅ!
――とか言ってました。
更新すればちゃんと見てくれる人はいるんですよね。ありがたやありがたや。
さて、今回は戦闘後の解説講座になりました。こんなに長くなる予定ではなかったんだけどなぁ……。
次はオリフィスが壊した地下牢のお話。
この感じだとまた1ページまるっと使いそうな予感です。
更新頻度は体調と仕事次第ですが今後ともよろしくお願い致します。