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半竜の研究者は世界の秘密が知りたい  作者: 紺ノ
弟子と師匠と始まりの場所
144/162

集まる四人

「まさかいきなり殴られるなんて思ってなかったサ」


 一発だけ俺はオリフィスを殴った。

 竜化なしで。ただ、殴った。


 オリフィスが本気なら俺のパンチなんて避けられる。それをオリフィスはあえて受けた。

 

 気が晴れるどころか、イライラが溜まるばかりだ。


「知りたきゃ教えてやるってテメェが偉そうに言ったから来ただけだ。師匠の研究資料を燃やした件、許す気はねぇぞ」


 俺は家のドアを開ける。

 

 家の中は片付いていた。床は一度抜けたのか、上から木の板を打ち付けて補修している。壁も布で隙間風が入らないように塞いでいた。

 俺がいたときにはなかった布だ。

 

 外の様子から察するに家の中までオリフィスが手入れをしたらしい。


 丸太を切っただけの天板と適当に脚をつけたテーブルと膝ぐらいの高さしかない三つの丸太が、目に入った。


 俺、オリフィス、師匠の三人で暮らしていたとき使っていた机と椅子替わりの丸太がそのまま残っている。

 ご飯を食べるときも、座学もすべてこの机と椅子だった。


 頭の中にある幸せだった光景が目の前の風景と重なる。

 ありえない光景に手を伸ばしそうになった俺は舌打ちをした。


「さぁさぁ、お三方、長旅ご苦労様サ」


 オリフィスが担いていた丸太をテーブルの付近において、そのまま腰を下ろした。

 テーブルの下から鞄をオリフィスは取り出した。

 鞄から出てきたのは服だ。それも護衛ギルドで見たことのある軽装だ。


「今からの話は長くなるサ。座るといいサ」


 残っている丸太を椅子にしろ、ということらしい。


「グリムワンドではあの男に助けられたが、オリフィスと言えば大泥棒だぜ。何か罠があるかもしれないぜ?」


 俺の後ろで止まっているラッドが耳打ちをしてきた。 

 オリフィスの噂を知っている人間なら誰でも警戒して当然だった。


「じゃ、おじゃましまーす! 疲れてたんだよねー」


 ちょこん、と一番近くにあった丸太にメリアが座った。


「お前はもっと警戒しろよ」

「大丈夫だよ。二回も助けてくれたんだよ?」

「メリアの嬢ちゃん、チョロすぎだぜ」

「だからラッドは記録石(スフィア)の調査をメリア経由で俺に渡したんだろうが」

「それはそれ、これはこれだぜ」


 ラッドも丸太の一つに腰を落ち着かせた。


 俺は扉を閉めて、壁にもたれかかる。


「座らないんサ?」

「テメェと同じ空気を吸ってるだけで死にたくなる。そんな俺がテメェの近くにいくかよ」

「随分と嫌われたものサ」


 オリフィスは軽装の内側から二通の封筒を取り出した。

 テーブルの上を滑らせて、俺の方へ飛ばしてきた。


 俺はしぶしぶ封筒を取りに行く。


 一つは魔法陣の印が押された封筒だ。魔法陣そのものに魔素を分解する力も魔法を意味する図もない。魔法的には意味のない印だが、意味はちゃんとある。法団から公式手順で発行された手紙という証明だ。

 法団から俺宛てに手紙をもらうことなんてありえない。ただ、宛先がおかしい。

『護衛ギルド:グリムワンド本部所属の魔法師イヴァン=ホーカス』となっている。


 もう一つは無地の封筒。こちらは情報が皆無だ。郵送の際に貼られる切手すらない。


「一つは法団のウィリアム=ホーランドから。もう一通はトリトンからサ。しゃべる前にそれ見てもらったらいいサ」


 無地の封筒をテーブルに置いて、先に法団の封筒を破った。

 雑に破いたため、紙が四枚、地面に落ちた。


 すべて筆跡が違う。


 一番上にあった丁寧で読みやすい筆跡はウィリアムのオッサンからだった。

 軽く読む。


 冒頭三行で、ウィリアムのオッサンの意図をを説明してくれていた。


「護衛ギルド宛てにして機密文書扱い。でもって、オリフィスを仲介に俺に届けたのか」


 ホーカスという姓はパーバルの婆さんが付けた適当なものだ。つまりこの封筒にパーバルの婆さんも一枚噛んでいるということだ。


「イヴァン=ホーカスなんて名前はグリムワンド支部にいないだからヴァンのことだと分かったんサ」

「なるほどな」


 俺は手紙を読み進める。


 法団内部の派閥争いが激化し、手助けできそうにないことへの謝罪。俺が担当していた生徒たちが魔法師の試験を合格したことが書かれていた。そして追記として『精霊眼の少女が魔導を使っていた。私の下で働かせることにしたので安心したまえ』とある。


 さすがにウィリアムのオッサンは誤魔化せなかったようだ。


「そっか。あいつらちゃんと魔法師になったか」


 残りの手紙はパーバルの婆さん。アーバンヘン魔法学校の校長。そしてロシェトナからだった。

 全員が全員、俺の心配をしてくれていた。


 ロシェトナの手紙に『ウィリアムさんに精霊眼と魔導のことを話した。ごめんなさい』と弱々しい筆跡で書いていた。


 ――謝ることなんてないのにな。がんばれよ。


 手紙をすべて丁寧に折って、鞄にしまう。念のため、濡れないように防水仕様のポケットに入れた。

 

「随分といい顔になったサ」

「黙れ。お前と喋ると台無しになる」


 俺はトリトンからの封筒を破る。今度は紙が落ちなかった。

 落ちるようなモノが入っていない。

 

 封筒を覗いたが、空っぽだ。


「なんだこりゃ」

「あの緑帽子いわく『ごちゃごちゃ書くよりオリフィスが話した方が早いのん。だから詳しいことは全部オリフィスに訊くといいのん』らしい」


 トリトンの声真似をしたオリフィスが呆れていた。

 

「オリフィス。テメェが護衛ギルドに戻ってトリトンに会ったら殴っといてくれ」

「何発サ」


 オリフィスの目を見ると、トリトンをさらに殴りたそうだった。


「二発を二人分だ」

「四発ね。了解サ」


 余裕が有り余っているようなトリトンの奇行に怒っている俺が馬鹿らしくなった。


 オリフィスに『話をしろ』と俺は目で合図をする。

 対してオリフィスは『立っているなら暖炉をつけろ』と目と顎で返してきた。


 メリアとラッドのことを考えると暖炉はつけた方がいいだろう。外と違って壁があるとはいえ、普通であれば肌寒い。


 暖炉は魔導具だ。手順を踏んで魔石さえあれば周囲を温めてくれる。

 壁の下にある円柱の白い魔道具に魔石があるか確認した。


 問題なさそうなのでそのまま稼働させる。

 ほんのりと白色に赤色が混じる。

 

「ねぇ、さっきから二人とも目だけで会話してるけど、本当に仲悪いのかな」

「「良くはない(サ)」」


 オリフィスと同じ言葉を発してしまい、誰の目にも合わせられず、俺は口を固く閉じた。


 

次回2/13更新予定

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