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半竜の研究者は世界の秘密が知りたい  作者: 紺ノ
竜と遺跡と国の秘密
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銀色の泥棒

蒼竜(サイファ)のヤツに遅れて外に出ろって言われたから出てきたが、なんだこれ」


 蒼竜(サイファ)に教えてもらった出口から顔を出すと灼けた大地が広がっていた。

 地面を触るとまだ温かい。ガラス状の欠片もある。砂が溶けて固まったものだろう。


「ねぇ、ラッドさん……」

「言いたいこと分かるぜ。ここはキャンプが設置されていた森だ」


 森と言われてもピンとこない。

 近くを見ても黒い塊か砂しか見えない。


「なんでわかるのん。目印になるようなものなんてないのん」


 トリトンの言葉にメリアが黒く焦げた遺跡の上を指差す。

 指先には石像があった。羽を広げた鳥を模した像だったのだろうか。右羽が折れてしまっている。


「鳥の石像があるでしょ? ここでね、ご飯食べたんだよ。おしゃべりしながら」

「誰とだ」

「色んな連中だぜ。魔法師も騎士もいたぜ」

「……そうか」


 メリアとラッドの表情を見て、俺は質問をやめた。

 人間がいた痕跡がすべて焼かれてしまった。何も残っていない。残らない。


 ――これが『紅い竜』か。


「まだここにいたんだね!」


 天から声がする。

 見上げると写本が浮遊していた。


 紅い竜と戦って生きている写本に尊敬半分恐ろしさ半分の目を向ける。


「……お前、やっぱ化け物だわ」

「いきなり失礼だな、黒竜くんは。って、そんなことより早く逃げよう!! なんか人間たちがぞろぞろと来てるんだよ!」

「紅い竜が出たんだからそりゃ人間も抵抗しようと騎士団動かすだろう」

雑賀(さいが)とエリーが人のいないところまでグレンを運んだからもういないんだ。なのに、まだ来てる」

「どおりで上に竜の影どころか雲がないわけだ」

「呑気なこと言ってる場合じゃないってば!?」


 騒がしい写本を無視してメリアとラッドの様子を確認する。

 二人ともまだ周りを見渡している。


 ないと分かりながらも探してしまっているようだった。


 ――もう少しだけ、落ち着く時間がいるかもな。


「もう知らないから! お休みっ」


 写本が俺の胸に許可なく飛び込んでくる。

 また俺の身体の中に入ったらしい。


「まぁ、なんだ。おつかれ。あと、ありがとさん」


 聞こえているかもわからない。それでも俺は口にした。

 待っても返事がない。


「寝たか」


 それからしばらくして、人間たちがやってきた。

 想定通り国からの騎士たちだ。

 写本の知らせで聞いていたが、二十人程度だったので数の少なさに少し疑問を持った。

 紅い竜を退けるためであれば数千の人間が来てもおかしくないはずだ。


 ――俺は疑問を持った時点で逃げるべきだった。


「なんでアンタらが生きてるんだ。お前もなぜいるんだ研究者」


 出会ってすぐに想定外の言葉を発したのは遺跡調査に俺が参加することを拒んだあの騎士だった。


「そういうこと言うってことは俺たちを助けにきてくれた感じじゃなさそうだな」

「最初から私たちを紅い竜に食べさせるつもりだったのかな!」

「冗談であって欲しいのはこちらだ。お前たちが大人しく食われていれば森は焼かれずに済んだ」


 騎士たちが俺たち三人を円状に囲んだ。

 剣を鞘から抜き始める。


「まさかと思うけど、ここで殺すとか言わないよな」

「『遺跡に入って生きていた者を殺せ』それが紅い竜からの命なのだから!」


 俺は即座に竜化する。


「あはは、殺される側になることは頭になかったのん」


 トリトンも戦闘態勢をとっていた。


「おいおい、冗談キツいぜ」

「もう何がどうしてこうなってるのかな!?」


 メリアとラッドに近づけないように斬りかかってくる連中を吹き飛ばしながら戦う。

 手応えはあるのに騎士たちにダメージがあまり入っていないように見える。


 ――やっぱりあの魔法陣が刻まれた鎧でダメージ軽減してやがる! 肉体強化の魔法もかかってるのか動きがけっこう早い!


 俺だけなら確実に生きられる。一人だけなら、かばいながら戦って逃げられる。二人を守りながら逃げるとなると無理だ。

 二人を抱えて走ることになって両手が塞がる。ただでさえ、隠れる場所がない今の場所で手が使えなくなると、トリトンに攻撃をすべて防いでもらうことになる。


 トリトンを横目で見る。

 

 ――魔法を一度も使っていない。いや、使えていない。相手を押しのけるだけで精一杯か。


「戦えるのはあの研究者とギルドマスターだけだ! アイツらを二人から引きはがせ!!」


 相手の的確な命令に俺は舌打ちをする。


 騎士たちが俺と他の三人の間に入り込もうとしてくる。

 対抗手段を持ってない二人への攻撃を主に守ってる俺が分断されるのは一番まずい。


「くそったれが!」


 隠し玉として少しずつ騎士たちから奪っていた魔力を使って弾を作り出す。


 ――奪った量が少なすぎる。三発が限界。でも今すぐ全弾打たないと二人と切り離される。


「ふっとべ! 生成(ライズ)!」


 魔力弾は騎士三人を吹き飛ばして道を作る。


 作った道に新しく騎士が入ってきた。

 憎い顔もある。


「残念だったな」


 振り下ろされる剣を両腕で防ぐ。


「アンタは命令だけしてろよ、紅い竜の言いなりが!」


 目端にメリアに斬りかかろうとする騎士が目に入った。


 トリトンも俺と同じように分断されてしまっている。 


 ――わかる。間に合わない。届かない。俺は、守れない。


「なんて顔してるんサ」


 俺の横を魔力弾が飛ぶ。

 

 メリアを切ろうとした騎士の前で曲がり、顔面にヒットした。


「諦めるんじゃないサ」


 聞き覚えのある声だ。

 ムカついて仕方がない。


「銀色の長髪にその大剣は数年前に宝物庫から盗まれた宝剣」


 知っている。見なくても分かる。

 忘れたことなんてない。


「キサマ、オリフィスか! なんでこんなところに!!」

「泥棒は盗むことが生業なもんサ。だからお前たちが奪おうとしている命を奪いに来たんサ!!」



10/17更新予定

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