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半竜の研究者は世界の秘密が知りたい  作者: 紺ノ
竜と遺跡と国の秘密
128/162

灰色の陣

「お前たちの魔素中毒が悪化する前に脱出だ。――の前に」


 俺は腰のカバンから薬の入った試験管を出した。

 倒れている魔法師たちの横に置いていく。


「お優しいことなのん」

「見殺しにできないだろうが」


 薬の在庫が最後の一人でちょうどなくなった。

 

 多めに作ってきたのに、あまりがないことに俺は焦る。


 今回用意した薬は無理やり魔素抵抗力を強化した即興品だ。

 正直、効果時間まで考えて作っていない。長くみて二時間前後、短ければ三十分。


 メリアとラッドは薬が切れればすぐにでも魔素中毒で呼吸困難になってしまう可能性がある。


「手持ちの材料だけで作ったのはミスだったか」


 何かがリズムよく硬いものとぶつかる音がする。

 しかも複数だ。


「まずいのん。竜神教側から誰かが走ってきてるのん」

「竜神教がなに?」


 俺とトリトンが竜神教で暴れたことを知らないメリアが戸惑っている。


「メリア! ラッド! とにかく走るぞ!」

「魔法師さんたちは?」

「俺の作った薬置いてるし、竜神教の連中がどうにかしてくれるだろうさ」

「走るのは構わないぜ。でもどの道よ?」


 ラッドの質問はもっともだった。

 俺たちは十字路にいる。竜神教の教会に繋がっている道を省いたとしても選択肢は三つ。


 一つはラッドとメリアが歩いてきた道だ。確実に出口があるが、出口で調査に参加している魔法師や兵士に出くわす。遺跡の中から部外者の俺が現れたら間違いなく捕縛しようとしてくるだろう。


 残り二つはよくわからない道だ。

 片方は魔素の気配が少なくなっていっており魔素中毒という意味では安全そうだ。問題は出口からかけ離れているかもしれないことだ。

 

 俺はワムから出口を教えてもらうとき、遺跡の構造が頭に入ってきた。すべてを把握していないが方角的にまず出口はない。


 もう一方は魔素が濃くなっていて出口があったとしても、魔素中毒が進行している二人に通って欲しくない。


「魔素の濃度が少なくなってる道を行こう。こっちだ」


 俺を先頭に四人で駆けだす。

 

「人影発見! お前たち、動くな!!」


 背後から声が飛んできた。


「見つかったのん」

「止まった方がいいかな」

「メリア止まるな。こんなところにいたら紅い竜の餌になる前に捕まって何されるかわからないぞ」

「餌? 捕まる? さっきからイヴァンくんの言ってることはまったくわからんぜ?」


 出口があるかもわからない通路をひたすら駆ける。


「貴様ら、どこへ行く!!」

 

 走りづらかった朽ちた石の床が灰色の滑らかな床に変わっていく。

 教会から遺跡に繋がる道で見た床だ。

 

 分岐する道などなく一本道を進んでいくと壁だけの空間になった。 


「行きどまりだぜ」

「もう無理。疲れたよぉ~」


 へばっている二人をよそにトリトンが地面に耳を当てていた。


「まだ追いかけてきてるのん。数は一、二、三……四人」

「仕方がないから戦うか。下手したら遺跡壊れてみんな下敷きになるけど」


 俺は両手を竜化させて構えを取る。

 トリトンも観念したのか、魔石を取り出していた。


「やるときはやってやるのん」


 疲れている二人を俺とトリトンの背中に隠した。

 

 ――本格的に『ルーカス』は悪者だな。


「検知――黒竜(ズー)ノ魔力――照合――被検体オルガヲ認識――権限ナシ」


 壁から響く無機質な声。

 

「な、なにこれ。頭に直接くる」


 俺だけが聞こえているわけではないらしい。

 メリアたちも困惑している。


「再度検知――プロフェッサー・エリカヲ検知――権限レベル五――解錠(アンロック)――ラボヘ転移開始」


 声が止んだと思ったら灰色の床と壁に線が浮かぶ。

 一定の速度で動き続ける線は複雑に絡み合う。


 編み出されていく幾何学的な模様たち。

 

 何度か見た写本の魔法陣の制作過程と酷似している。


「移動、座標指定、固定、肉体、再構成――マジかよ、おい。どういう神経してやがるんだ」

「イヴァン、さっきからぶつぶつ何言ってるの?」

「全員、移動先でミンチになりたくなかったら絶対動くなよ」


 俺の忠告で三人の動きが止まった。

 

 魔法陣を編んでいた線も停止する。

 

 魔素の分解を開始した魔法陣は青白く発光する。

 無機質な声がまた頭に響く。


起動(ライズ)

 

 それは俺の良く知る言葉だった。

 

次回更新は6/6予定

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