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半竜の研究者は世界の秘密が知りたい  作者: 紺ノ
竜と遺跡と国の秘密
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緑のお薬

 遺跡の深部に向かうにつれて、俺とトリトンの進行速度が遅くなっていく。


 瓦礫も多くなって歩きづらい上に、空気の通りが悪いのか息苦しい。

 明かり代わりの魔法陣も途中からは一つもなく真っ暗だ。

 調査という観点から言うと遺跡の環境は最悪に近い。

 一番の問題は魔素が少しずつ濃くなっていることだ。

 

 遺跡には魔素を集める性質がある。ワムから聞いた言葉だ。

 魔物や魔獣、人間といった魔素を操る生物ではない遺跡が魔素を集めるはずがないと思っていた。


 ――ゆっくりと奥に奥に魔素が吸い込まれてる。でもなんだ。嫌な感じというか毒々しさを感じないぞ。


 俺の前を歩いていたトリトンが突然、足を止めた。


「この先に誰かいるのん」


 目先には十字路。

 右側の道で明かりが揺らめいている。


 足音や石を蹴る音が反響した。


「変なのに見つかったら面倒だな」

「隠れるのん」


 トリトンが近くにあった大きな瓦礫を指差す。

 すぐに俺とトリトンは瓦礫の裏に隠れた。


 瓦礫の横から明かりの正体を盗み見る。


 メリアたちを見送ったときにいた若い魔法師たちだ。


「遺跡に向かった法団の魔法師だ。メリアたちが近くにいるかもしれない」

「いたのん。後ろ後ろ」


 魔法師の後ろに口元を布で覆っている白衣が二人いた。

 周りが暗くても猫背のラッドと金髪のメリアは目立つのでわかりやすい。

 足取りが重く、疲れているように見えるのが少し気掛かりだ。

 

「二人とも無事そうなのん。何してるのん?」


 俺は背中のバッグから白い紙と薬品を取り出していた。

 

「嫌な予感がするから念のための確認をな」


 白い紙を適当にちぎり、魔素濃度判定に使う薬液を紙に付けて地面に置く。


 魔素に反応すると赤くなる。

 紙はみるみる赤く染まっていく。最後には湖に映る夕日のごとく綺麗なグラデーションを作った。


 より赤くなっているのはメリアたちがいる方角だ。


「空気中でこの濃度は普通に危険地帯だぞ。これ以上濃くなるといつ魔素中毒になってもおかしくない」

「すぐにでも行くのん。このまま紅い竜の餌になられるのはいやなのん」


 トリトンの声は弾んでいた。表情ひとつ変えずに。


「さっさと僕たちもおさらばしないと魔素中毒になっちゃうのん」

「これ飲んどけ。魔素酔いと魔素抵抗上げる薬だ」


 俺が緑の液体の入った試験管を一本渡すとトリトンが口元を曲げた。

 

「準備良すぎないのん? 本当にウチのギルドに来る気ないのん?」

「こんな時にスカウトしてんじゃねぇよ」


 俺は自分の薬を一気飲みする。

 

 ハーブのような爽快感の後にくる嫌な薬草の匂い。酔い止めに使った薬草は強い効能を選んだ結果だ。

 美味いと言いかけて裏切ってくるこの匂いはしばらく取れないのが難点だ。


「ふ、ふぐぅ……! ふなっ!? 呼吸をしたくないのん……」


 奇妙な声を発してトリトンがしなびていた。

 

「ほら、さっさと二人を回収しにいくぞ」

「あいあいさー、なのん……」


 トリトンが翡翠色の魔石を取り出した。

 記録石(スフィア)ではない普通の魔石だ。 


「――眠るのん」


 遺跡の中で甘い風が吹く。


「妖精のささやき……睡眠誘導の魔法か。遺跡の入口付近にいた守衛たちもこれで黙らせればよかったんじゃないか」

「眠ってない人に見られたらコトなのん」

「それもそうか」


 人が倒れる音が通路の奥で聞こえる。


「え!? なんでみんな寝ちゃったの!? 起きてよぉ!!」

「メリアの嬢ちゃん、そんなに頬を叩いたら別の意味で気絶しちまうぜ!?」


 メリアとラッドだけは眠らないようにしていたらしい。


 無理やり寝かせた人間たちをメリアに叩き起こされる前に行かないといけないようだ。


 早歩きで近づくとラッドがメリアを取り押さえていた。

 地面には顔の腫れた男が一人。


 ――さすがに殴りすぎだ。俺の方で治療しておこう。


「お二人さん、お久しぶりなのん」


 ラッドとメリアの動きが一時停止した。


「なんでこんなトコに護衛ギルドのトップがいやがるんだ? てか、イヴァンくんまでいるじゃねぇか。どういう了見か教えて欲しいぜ」

「話せば長くなるんだ。話をする前にこれ飲んでくれないか」

「その緑の液体はなんだ?」

「魔素中毒にならないようにするための薬だ」


 魔素測定に使って赤くなった紙を俺は二人に見せた。


「この辺、魔素が濃すぎるんだよ。このままだと死ぬぞ」

「メリアの嬢ちゃんが身体の調子がちょいとおかしくなってるぜ。魔素の影響だったなんてな」


 ラッドとメリアは薬の入った試験管を一本ずつ受け取った。


 薬を飲む二人の横でトリトンが悪い笑顔を浮かべていた。


「あの匂いに苦しめばいいのん……」


 仲間を増やしたいだけだった。


「ぷはっ。随分と飲みやすいぜ」

「美味しい! おかわり!!」

「薬はそういうものじゃねぇよ」

「な、なんでなのん!?」

「味覚や嗅覚が死んでるんだろうな。中毒症状としちゃ中度のものだ」


 ――割と症状が進行してて笑えないぞ。


5/23更新予定


モンハンとかポケスナ落ち着いたからまた更新していくよ

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