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半竜の研究者は世界の秘密が知りたい  作者: 紺ノ
竜と遺跡と国の秘密
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緑の嘘つき

「本当にすみません!」


 クウェイトが床に頭を擦り付けていた。


 俺は俺で椅子に座って、氷袋を火傷した場所に当て続ける。

 少しヒリヒリする。


 こういうときに魔法で治せればいいのだが、医療に関する魔法は得意ではない。

 下手に魔法を頼るよりも薬の方が信頼できる。後で自前の薬を塗れば痕は残らないはずだ。


「謝るなら俺だ。よくよく考えたら許可もなく脚触ったんだからそりゃ驚くだろう」


 脚の調子が気になってしまって手が勝手に動いてしまった。


 クウェイトが気まずそうに顔を上げた。

 そして、脚をお茶を載せていたトレイで隠す。


「わかったのん。クウェイト、動けなかったころと比べて脚が太くなったから――へぶぅ」

「あなたはなんでそういうコトを口にするんですか! というかなんで知ってるんですか!?」

「トレイを投げないで欲しいのん……」


 顔を紅潮させたクウェイトは咳払いをして俺に向き合う。


「なぜここにイヴァンさんが?」

「それは――」

「お茶に招待しただけなのん」


 トリトンが訳の分からないことを言い出して俺は眉をひそめた。


「彼、国からの依頼でここにいるんだけど、護衛ギルドと彼はなんだかんだで関係深くなってきたのん。だからこれからもご贔屓にとね」

「私をおもちゃにしたかったの間違いでは?」

「そうとも言うのん!」

 

 ため息をつくクウェイト。


「イヴァンさん、何かあったらすぐに呼んでくださいね。この害虫に沸騰したお湯を直接口へ放り込むので」


 物騒なことを言ってクウェイトは部屋を出て行った。

 トリトンは笑顔で手を振っている。


「クウェイトに嘘をついたのはなんでだ」

「あの子、脚がまだ本調子じゃないのん。重たいものを急に持ったらふらつくし長時間走れないのん」


 確かにクウェイトの脚を触ったとき、筋肉の張りに違和感があった。


 筋肉の付き方のバランスが悪いと言えばいいのだろうか。

 おそらく歩けなくなる前の動きを今もしていて使う筋肉に偏りが生じている気がする。


 もう少し均等に使えばすぐにでも前の俊敏な動きが取り戻せるはずだ。


「そんな彼女が命の恩人であるキミの命が狙われているって聞いたらどうするかなんて明白なのん」

「俺を護衛する、か。ならそもそも俺とクウェイトを会わせなければいいじゃないか」

「それこそ後が怖いのん。彼女は今はリハビリがてら事務員として働いているから僕は毎日、顔を合わせるのん。それでネチネチ言われるのは嫌なのん」

「クウェイトがそんなことするか」


 トリトンが「さぁ?」と言わんばかりに肩で返事をした。


「さてさて、本題に入るのん。キミを尾行していた奴のことなのん」

「何かわかったのか?」

「とりあえず二人とも捕縛して尋問したのん。で、わかったことが二つあるのん」


 トリトンは竜の爪を模した金属製のネックレスを二つ俺の目の前に垂らした。

 竜神教の信徒が身に着けているネックレスだ。


「これ、わかるのん?」

「竜神教の連中が付けてるネックレスだな。まさか俺を狙ってるのって竜神教なのか」

「まず間違いなく。でももう一個の方が興味深いのん。――紅い竜って知ってるのん?」


 身体の奥から何かが湧き上がってくる。

 竜化はしていない。しかし内側からやってくる感覚は間違いなく感情に反応して竜化するときのものだ。


 ――俺の感情じゃなくて黒竜(ズー)の鱗が反応しているのか?


「どうかしたのん? 険しい顔をしてるのん」

「なんでもない」


 今は状況の整理が先だ。身体の反応は後回しだ。


「紅い竜のことは少しは知ってるぞ。グリムワンドのことを調べたときに出てきたからな」

「なら見たことはあるのん?」

「いやないな」


 あるとしたら白竜(ホロン)ぐらいだ。

 左手首についている白い腕輪をなでる。


 俺が人違いならぬ竜違いをされないようにするために白竜(ホロン)がくれた腕輪だ。


「どうも紅い竜が夢に出てきて竜神教の信者にキミを殺せって言ってるらしいのん」

「なんでだよ!」


 ――また竜違いされてないか? 腕輪の効力ないんじゃないか!? なぁ、白竜(ホロン)!!


「本物の紅い竜かはともかくキミへの殺意は本物なのん。竜神教の、それもグリムワンドで紅い竜と言えば竜神として祀られている竜なのん。利用するにはうってつけなのん」

「俺、図書館出るときに竜神教の女に絡まれたんだけどアイツが犯人とかじゃないよな」

「なんの話なのん?」

「赤と白の修道服きた女が話しかけてきたんだよ。強引に教会に連れていかれそうになった」


 トリトンが顎に手を当てて目を瞑った。


「騒がしめの女の子だったのん?」

「あー、多分そうだな」

「キミの前に現れたってことはそういうことなのん?」

「トリトンはアイツのこと何か知ってるのか」

「知ってるも何も御子と呼ばれる存在なのん。この街にいたら誰でも知ってるのん」


 ――あれが、御子? 舞を踊るって本に書いてあったあの?


「御子って自由に出歩けるのか。知らなかった」

「そんなのできるはずないのん」

「でもアイツ一人で図書館に来てたと思うぞ」

「明日、一緒に教会に行くのん。そうしたら全部わかるのん」


 トリトンはそれ以降何も詳しいことは話さなかった。

 今まで見たことないような深刻そうな顔をしているトリトン。


 俺は今、想定しているよりもはるかに大きな『何か』に巻き込まれているのではなかろうか。


 ――明日の教会訪問ですべて分かるといいのだが。


 




次回1/31に更新予定

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