金色との再会
―― ◆ ―― ◆ ――
約束通りに護衛ギルドの本部へ行くと、エントランスでトリトンがいた。
日が沈んで暗くなってきたからか、ランタンに火を灯していた。
「――で、図書館に行って何か収穫はあったのん?」
「収穫はあったが、取捨選択する判断材料がないから正直困ってる」
本で読んだ内容はある程度覚えている。しかしどれが遺跡調査を隠匿する理由への手がかりになるか見当がつかない。
ウィリアムのオッサンの話からも魔法の知識を豊富に持っている人物ことは明らかだ。
他にも何か情報があれば何か見える気はする。
「なるほどなのん。詳しい話は中で話すのん」
独特の口調で話すトリトンが護衛ギルド本部の扉を開けた。
扉を開けてすぐのところにカウンターがある。
小綺麗な服を着た女と俺の目が合った。
「ギルド長、後ろの方たちは?」
「お客さんなのん。あとで部屋までお茶を持ってきて欲しいのん」
「わかりました」
カウンターを通りすぎるときも視線を感じる。
トリトンが階段を上ったので俺も上る。
後ろからパーバルの婆さんが付いてくるかと思ったが、パーバルの婆さんは足を止めたままだった。
「わたしゃここらで帰らせてもらおうかねぇ」
「あれ? お茶飲んでいかないのん?」
「年寄はもう少しで寝る時間じゃ。ここで寝るわけにもいかんじゃろ」
「部屋ぐらい貸すのん」
「気持ちはありがたいが、魔石の展示会のことで明日は忙しいんじゃ」
――そういや博物館で展示会のこと言ってたな。ガルパ・ラーデから運搬してきた巨大な魔石が大きな目玉だとか。
「エルシーのせがれや、今日はありがとうねぇ」
「何言ってるんだ。感謝なら俺がする側だろう」
俺の置かれている状況なんて知らなかったのだから。
「展示会の準備であまり会えないかもしれないが何かあったら頼っておいで」
パーバルの婆さんが外へ出ようとすると、カウンターにいた女が扉を開けていた。
「師匠の周りに良い人間がいたんだな」
魔王と呼ばれ、魔法界を追放された師匠。あまりネガティブな発言をしなかったのは、人間関係において不自由していなかったことが要因かもしれない。
「さて、こっちはこっちで話すのん。今日、キミを追いかけていた連中のこともなのん」
護衛ギルドの本部は三階建てらしく、三階の一室に通された。
一組の机と椅子しかなく、机の上には大量の紙が積まれていた。
ネルシアの婆さんの事務机と似たようなことになっているので、おそらくトリトンの事務作業を行う部屋なのだろう。
「物が無さすぎじゃないか」
「昔から必要最低限の物しか持たないのん。昔からの癖なのん。とはいえキミを立たせっぱなしにするつもりはないのん」
トリトンは机の下にもぐると下から椅子を取り出してきた。
「どういう造りになってるんだよ」
「床下にお客さんを招いた時用の道具を入れてるのん」
クッションや焼き菓子も飛び出してきた。
――お茶会でも開くつもりなのか?
トントン、とドアを優しくノックする音が聞こえた。
「お茶だと思うのん、悪いけど受け取っておいて欲しいのん」
トリトンはまだ机の下で何かをしていた。
「客に取らせるのはどうなんだ……」
渋々俺はドアを開ける。
「イヴァン、さん?」
聴いたことのある声だった。
声の主を見ると短い金色の髪の女がキョトン顔をしていた。
「……クウェイト」
「うわぁぁぁぁぁ!!??」
「お茶がこぼれるだろうが!」
ティーカップとポットをトレイにのせたまま暴れるクウェイトから俺はトレイを奪い取る。
「んふふー、ドッキリ大成功なのん」
聞き捨てならない発言が後ろから飛んできた。
トリトンが机の下から顔の上半分を出していた。下半分は見えないがニマニマと悪い笑みをしているのが手に取るように分かる。
「トリトン! お前ドッキリってなんだドッキリって! 危うく二人とも火傷するだろうが!! クウェイトも何か言ってやれ!」
「え、あ、えぇ……?」
クウェイトが顔を真っ赤にして腰砕けになっていた。
目線もトリトンではなく俺に合っている。
よく見るとクウェイトが来ている服は前まで来ていた軽装ではない。さっきカウンターで見た女が着ていたのと同じ小綺麗な服だ。
軽装のときと比べて少し脚の露出が多い。防御面を期待できそうにない。
――護衛以外の仕事はこの服が正装なのか? いや、それよりもクウェイトは精神干渉を魔法で受けて歩くことが出来なくなっていたはずだ。
「お前、歩けるのか?」
クウェイトの脚を触診する。
「突然触るなぁぁ!!」
「いって!?」
吹き飛ばされた俺は壁に背中を打ち付ける。
「あ、まずいのん」
トリトンが天井を見上げていた。
「あ、あれ……」
俺の手にはトレイだけ。
のっていた物はない。
上を見ると湯気の出ている茶色の液体が視界に広がっていた。
――あ、これは避けれない。
俺はすべてを悟り、目だけ閉じた。
「あぢぃぃぃぃぃぃ!!!!!!」
「すまないイヴァンさん!」
「あー……。これはやりすぎたのん……」
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