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半竜の研究者は世界の秘密が知りたい  作者: 紺ノ
竜と遺跡と国の秘密
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無色の球体

 グレース=パーバル――魔法陣の応用と魔導具の開発において数多の功績を持つ存在。

 一番有名なのは『魔法陣の新しい図法』だろう。


 円や多角形を用いて魔法的に意味のある図を作り出すのが魔法陣だ。共通の図形を使うので知識さえあればどんな魔法が発動するかが分かってしまう。

 魔法戦闘において、魔法を他者に知られることは死に直結する。それを防ぐ方法を編み出された図形を崩して模様のように描く『パーバル陣』だ。


 魔法の研究者である俺が知らないはずがない。しかし、こんな大物と出会っていた記憶もない。


 ――いつ出会った?


 俺が外に世界に触れあう機会があったとしたら師匠の生前だ。

 幼い俺は竜化が安定しておらず、力の加減が出来なかった。

 長期間一人にするのは危なっかしいからと遠出する師匠に引っ付いて行動していた時期がある。

 

 例え、出会っていたとして俺は自分から名前を名乗ったことが一度もないと思う。

 グレース=パーバルと名乗っているが本物であるかも分からない。


「もうすぐ着くのにまだついてくるねぇ……」


 俺は魔力感知してみるが、尾行者は魔法を使っていないらしく居場所を感知できない。


「婆さんよくわかるな」

「経験の差だねぇ。ほれ、あそこが国立博物館じゃ」


 杖で道の先にある大きな石造りの建物を指し示す婆さん。

 建物の石が左側は少しくすんでいるのに右側は真新しさを感じる艶のある石がいくつかあった。


「裏口から行くしかないかねぇ。付いといで」


 婆さんに対しての警戒もしつつ俺は言われた通りに婆さんの後ろに続く。

 

「おや、パーバルさん。今日もこちらに何か御用で?」


 扉の前にいる男が親し気に婆さんに話しかけた。


「ちょっと約束をしててねぇ」

「後ろの男性は?」

「知り合いのせがれさ。厄介事に巻き込まれそうなんで引っ張ってきたんじゃ。ちょいとすまんがこの子も中に入れてやってくれんかねぇ?」


 俺と男の視線が合う。

 

「いいですけど、関係者口から入るなら名前をあそこの紙に書いてくださいね」

「あいあい、わかっとるわかっとる」


 婆さんは名前をスラスラと紙に書く。

 そして『イヴァン=ホーカス』と別の行に名前を書いた。


「おい婆さん、俺の名前は――いて」


 杖で足を叩かれた。


「行こうかねぇ『ホーカスのせがれ』や」


 関係者口に婆さんがそそくさと歩く。

 俺も慌ててついていくと、入ってすぐの曲角で婆さんが俺を待っていた。


「名前はわざとじゃよ。エルシーの姓なぞ書いたら入館拒否されてしまうんでねぇ」

「やっぱ『ルーカス』は嫌われ者か」

「お前さんの考えてる理由とは違うねぇ。エルシーのバカタレはここの博物館を何度も壊してるからエルシーそのものがここじゃ指名手配されてるのさ。修理費用なんて今まで払わずとんずらしてるからねぇ」


 思わず俺は顔を手で覆った。


「何やってんだ師匠は……。てか指名手配も何も師匠は」

「死んどるんじゃろ? それを何人が認知しておるかのぉ」

「なんで師匠が死んでることを……」


 俺が言わなければネルシアの婆さんすら師匠の死知ることはなかった。

 師匠の死は俺発信でしか知りえない情報のはずだ。

 

「手紙の返事が来なかったのさ。一年待って返事がなけりゃ察するじゃろ」


 師匠がたまに手紙を面倒くさがりながら書いていた姿は何度も見たことがある。


「婆さんが手紙の相手だったのか」

「エルシーほどの魔法師が法団を除名処分になったからといって魔法界そのものから追い出すのはもったいないじゃろ。だからわたしゃが細いながらも外との繋がりを保っていた。手紙は字が汚くてたまらんかったがねぇ」


 最後の言葉がどこか強がっているように聞こえた。


「婆さん、俺が言うのもおかしいかもしれないが――ありがとう。気を遣ってくれて」

「……不思議だねぇ。体格も声も違うのにお前さんが言うとエルシーに言われたのかと思うねぇ」


 しわくちゃの顔が笑みでさらに皴が濃くなった。


「あの世でエルシーに会ったらわたしゃより先に死んだことをで説教するつもりだったけどお前さんに免じてよしといてやるかねぇ」


 けけけ、と笑うパーバルの婆さん。

 俺もつられて頬が緩んだ。


「昔話もいいがこれからの話もせにゃならん。お前さんの状況とかの話をねぇ」

「俺に会わせたい人間ってのも関係してくるのか」

「そうなんだけれどさっきの入館者の欄に載っておらんかったねぇ。来るまで少し暇つぶしに博物館の中を見て回るかねぇ」


 パーバルの婆さんは杖をカンカンと鳴らしながら進んでいった。


 案内されたのは本来は見ることのできない博物館の裏側らしく、一般展示されていない魔法に関する書物や石板がガラスの入れ物に保管されていた場所だった。

 その一角に無骨で巨大な緑色の塊が鎮座している。


「魔石、だよな」

「それはガルパ・ラーデから回収依頼があった魔石だねぇ。今度の行う魔石の展示会の目玉だねぇ」

「ガルパ・ラーデから……あぁ!!」


 竜の土人形(ゴーレム)を動かしていた規格外の魔石だ。

 どこにいったのかと思ったら博物館にあったとは思わなかった。


「運搬にどれだけ時間かかったんだ、これ」

「百人の魔法師でゆっくり運んで半年だったかねぇ」

「魔法で持ってきたのか。まぁそうじゃないと無理だよな」


 巨大な魔石の周囲をぐるりと一周していると魔石を並べている棚があった。

 人の顔ほどの大きさの魔石が数えられないほどある。


「なんだこれ」


 魔石の中に魔力を感じない玉があった。

 無色透明の綺麗な球体。反射の仕方からガラスであることは明白だ。


 ただ変な模様が刻まれている。


 それが九個、同じようにならんでいる。


「なんか記録石(スフィア)みたいだな」

記録石(スフィア)の模造品じゃよ」


 俺は真顔でパーバルの婆さんに質問する。


「模造品ってことはもしかして本物がここにあったりするのか」


 あればこっそりと調査できるかもしれない。


「ないねぇ。いや、あったというべきかねぇ」

「重要なものだから別の場所に保管しているとかか」

「いや、盗まれたんじゃ。オリフィスにのぉ」


 俺はここに来てその名前を聞くと思っていなかった。


次回11/15更新予定

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