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半竜の研究者は世界の秘密が知りたい  作者: 紺ノ
竜と魔導と教師のお仕事?
111/162

語らない、ですか?

 ―― ◆ ―― ◆ ――


 俺は手に持っているブラシを力強く動かした。


「あぎゃあああああ!!」

「そら、もう一回行くぞ」

「ちょっと待て! 心の準備をいでででででで!!」


 黒い毛で埋まった人間の背中を容赦なくブラシで擦る。

 

 ブラシはブラシでも牛や豚の動物に使うごつくて毛先が硬めのものだ。


「変に動くと毛がブラシに絡まるぞ」


 椅子に座っている男が痛みからか背中をくねらせる。

 

 保健室内に散らばる大量の黒い毛。 

 数度ブラッシングしただけで毛が層になっている。


「しかし、本当にこれで人間に戻れるのか?」

「さぁな」

「はぁ!? あんちゃんが言い出したんだろ!!」


 ――俺っていうよりも写本なんだよな。


昨日の戦闘後、写本が獣人となった人間にブラッシングをしたら人間の姿に戻るとひっそりと教えてくれたのだ。

 行動そのものは半信半疑だが写本は嘘を言わない。


 魔素乱調(マギ・パニック)後に起こった魔素の再構成ついても詳しくきいたが『教えない』の一点張り。

 俺がわかっているのはあの再構成後、魔法師たちが正気に戻ったこととボロボロのはずの身体が完全に治ったということだ。

 血までは戻ってないらしいので出血が多い魔法師たちは貧血状態で立つのもやっとだった。


 ――医療系の魔法でもありえない速度の回復。魔素の再構成ともいうべき変質。あれはまるで生き物だった。『魔素』はただの力の源じゃないのか?

  

「お」


 無心でブラッシングしていたら毛が抜けたところから肌色が見えていた。


「やっと人間の肌が見えやがったぞ」

「マジで!!?」

「と言っても金貨一枚分の大きさだけどな」

「それでも嬉しいぜ。起きたらそこのババアがお前らは魔獣になったって変なこといってきてよぉ」


 壁にもたれかかっているネルシアの婆さんをまだ毛だらけの手で男は指差した。


「孫弟子、やりな」


 黙ってブラシを背中に押し付け、俺は上下に細かく動かす。


「あ、やめ! 削れる! 毛が抜ける前に肌がなくなる!!!」


 ごっそり毛が抜けたところから肌が見えたが少し赤くなっている。


「ここに、いたんだ」

「おはようございます」

 

 ロシェトナと校長のオッサンへ挨拶代わりに俺はブラシを持った右手をあげた。


「今回のことはどうするつもりさね」


 ネルシアの婆さんが校長のオッサンに詰め寄る。


 前に校長室で話していたときのようなフランクな感じはない。

 互いに組織の責任者の顔をしている。


「ラナティスと法団には後日正式に謝罪します。我が校の教師が問題を起こしたのですから」

「元、さね。あとウチに謝罪はいらない。孫弟子が半端なことしたから犯人を逃がしたんだからね」

「ガリオン先生には罪と向き合い、償って欲しかったのですが」


 校長のオッサンが(うつむ)く。


 まだ毛が残っている魔法師が立ち上がった。


「ふざけんな! おれや仲間の身体をこんなのにした奴だぞ。償えるものか! 例え竜神が許してもおれは許さんぞ!」

「それは……」


 校長のオッサンが一歩、後退りした。

 見た目がまだ獣人に近いので圧が強い。


 魔法師の首元から腰まで俺はブラシを一気に振り下ろした。


「あああああああああ!! おい、あんちゃん!?」

「まぁ、落ち着けって。ここにガリオンはいないんだから頭に血を昇らせても疲れるだけだ」

「あんちゃんもあんちゃんだぜ? 助けてくれたことには感謝してるがなんでガリオンを逃がしたんだ! おれ達にヤベーもん飲ませてきたアイツをよぉ!」


 魔法師がホーランド姓のガリオンを呼び捨てにした。

 

 ――状況一つでこうも変わるかのか、人間。


 保健室にいる人間全員が俺に視線を向けていた。


 俺は息を吐く。


「アイツの言っている言葉を理解してしまったからだ」


 居場所がない者の辛さは俺なりの理解しているつもりだ。


 俺は師匠を亡くし、兄弟子には裏切られた。

 半竜半人というのは本来ありえない存在であると知り、孤独感を味わった。

 

 周囲の人間を憎むようになっていたら俺もガリオンのようになっていたかもしれない。そう考えるとあまりガリオンを責める気にはなれなかった。


「ガリオンがやったことは許されないと思う。俺もアイツは嫌いだ。でもな、順当だと思ったんだ。他人を恨むのも俺を恨むのもな」


 筋が俺の中で通ってしまったのだ。


「同情じゃねぇか」

「――他人から居場所が提供されてる奴には分からないだろうな」


 舌打ちをして魔法師は椅子を軋ませながら腰かけた。


 苦虫を嚙み潰したような顔を大人はしている。

 ロシェトナは困っているのか目を反らした。


「おはよーみんな。あれ? なんか空気重くないかな?」


 メリアに聴かれなくてよかったと俺は胸を撫でおろした。


 聴いていた人間がマイナスの感情丸出しになるようなことだ。またサルベアの時みたいに変な気を遣われかねない。


「あー、ロシェトナたちの試験どうすんだ」

「そちらはおそらく来期の試験を受けることになるでしょうね。特例で実技試験をやるなんてことは聞いたことがないですから」


 俺は目を合わせてくれないロシェトナの頭を撫でる。


「がんばれよ。他の連中にも言っといてくれ」


 撫でている左手の袖を小さな手に掴まれた。


「居場所、せんせいはあるよ」

「そうだな」

「あとせんせいは、わたしの居場所だからね?」


 ――精霊眼のこと知ってる数少ない存在だから居場所と言えば居場所かもしれない。


「そうかもな」


 妙な返答になってしまった。

 そしてメリアから嫌な気配がする。


「俺はラナティスに戻ってのんびり仕事するか。あ、床に散らばってる毛を捨ててくるわ」


 黒い毛をさっさと集めて保健室から逃げる。

 俺ができる最大の回避だ。


 保健室を飛び出してゴミ置き場に向かう。


「イヴァン」


 背後からメリアの声で俺は固まった。


「さっきから逃げようと必死すぎ。棒読みになって演技下手すぎないかな」

「研究者にするダメ出しじゃないぞ」

「そうだね。だから一つ質問」


 メリアの目付きが変わった。

 仕事の話をする場面でもないはずだ。


「イヴァンの居場所は見つかったの?」


 顔を手で覆いたかったが大量の毛で手が使えない。

 目を瞑ることしかできなかった。


「お前……聴いてたのかよ……」

「入ろうとしたら聞こえただけだよ。で、答えは?」


 唇を尖らせて薄ら笑いをするメリアを薄目で見た俺は止めていた足を動かし始める。


「最悪だ」

「何それ!?」


 たった二文字に色んな気持ちを込める。

 詳細は語らない。


 語ったところで仕方ないのだ。

この章はこれで終わりです。


次回は10/4更新予定です。


以下、次章のあらすじ(?)です。


―――

竜専門の研究組織『ガルパ・ラーデ』から依頼が入るメリアとイヴァン。

それは『ガルパ・ラーデ』の副代表ラッドが言っていた国からの極秘調査員としての参加依頼だった。


調査対象は首都『グリムワンド』の地下遺跡。遺跡へ調査をしようとすると依頼主である『グリムワンド』からイヴァンが遺跡に入るを禁止される。しかし理由が『魔法の研究者であるため』という理由。


ルーカス絡みでもなければ魔導絡みでもない理由から不審に思ったイヴァンは独自で調査を進めることに。

調査をしていくと『グリムワンド』の在り方の疑問を持っていく。


――絶対に何かを隠してるぞ。


次回『竜と遺跡と国の秘密』




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