反対の、ですか?
「体内の魔素への干渉はほぼ不可能なのは知っていたが分解するときに魔素がここまで硬質になるなんてな」
干渉不可能と言われている意味を身をもって理解した。
硬い岩を無理やりツルハシで砕こうとするのと一緒だ。
岩が砕ける前にツルハシを握る俺の体力がなくなる。
「わたしも、見てた。一気に、色が変わった」
「何の色が変わったって」
「魔素の、色。魔獣の魔素は赤っぽい、人の魔素は青っぽい。せんせいが、分解しようとした部分だけ、真っ青になった」
――なるほど。俺の竜化を見破ったのも色と木の根に見える魔力で判別したのか。
「人間の魔素ってのは蓄積した魔素か」
ロシェトナは首を横に振った。
「わからないけど、みんなの身体にある」
眼帯の奥にある精霊眼は魔素が見えるだけ。
他人の中にある魔素がどういう経緯で存在しているかまでわからないのは当然とも言える。
「お前の言う赤い魔素は青い魔素に影響を与えるところ見ていたりはしないか」
魔法師たちが獣のように伸びた爪を俺に向ける。
俺は周囲に漂う魔力をすべて集めた。
――考える時間が欲しい。一瞬の防御では意味がない。
俺は集めた魔力を操って魔法師たちの四肢に絡める。
「情報収集の邪魔だ。 生成、成形!」
紐のようなに魔力を成形する。
魔法師たちは全員、俺の作った紐に体の自由を奪われていった。
地面を転がり、噛んだり爪で引っかいたりして紐を切ろうとしている。
「最初からこうすればよかったんじゃないんスかね?」
「魔獣四体を拘束する魔法を使えたとしても長時間は維持しきれない。今動けなくしてる魔導も気休めぐらいの強度しかない」
「今すぐにでも両手広げて地面に寝っ転がりたいッス……」
ヤシュヤの言葉はふざけているよう思えるが表情はいたって真剣だ。
息を整える時間ぐらいはあるが五分は俺の作った紐も持たないだろう。
「すまん。俺の我儘に付き合ってくれ」
「……いいっスよ。人殺しなんて生徒に死んでもさせてくないんで」
「そうだな」
魔獣化した人間を殺すことが一番楽な道だとヤシュヤも分かってる。
最悪の場合、ヤシュヤも魔法師たちの始末をするつもりだ。
――そんなことにならないように俺は答えを見つけなくちゃいけない。魔法師たちを元に戻す方法を探さなきゃならない。
「せんせい、せんせい」
「なんだ」
「さっきの質問の、答え。赤い魔素は、青い魔素を赤く染めてた」
『侵食』というだけあって体内の魔素を変質させていっていたらしい。
ガリオンの言っていたことと一致もしている。
ロシェトナたちが模擬戦をする前はかなり弱かったが人間の理性を持って戦っていた。
時間が経つにつれて侵食が進行。体内の魔素が比率が一定以上、魔獣になったため理性が保てなくなったのだろう。
俺は魔法師たちの身体を観察する。
外見的には爪や牙、人間にはない分厚い体毛がある。これらは時間経過による変化だった。外的変化も魔素の比率が関係していると考えられる。
体内の魔素の比率を人間に偏らせることができれば意識ぐらいは戻せるはずだ。
――では、どうやって戻す?
魔獣の魔素を分解し、取り除こうとしてダメだった。
答えは出ている。
だが俺一人では無理だ。
敵は四人。俺が今やろうとしている魔獣化解除できるのは一度に一人だけだ。
残りの魔法師を抑え込む時間稼ぎ役と俺のサポート役、そして魔獣解除の環境づくりをする役がいる。
最悪、ヤシュヤ一人に時間稼ぎをしてもらうとしてもサポートに魔素が見えるロシェトナを置くと頭数が足りない。
「ネルシアの婆さん! ちょっと手伝ってくれ」
「年寄使いが荒い孫弟子ださね」
観覧席にいたネルシアの婆さんが模擬戦場に入ってくる。
「何か思いついたんだね?」
「思いついたというか、単純に魔獣化と反対の変質現象を起こしてやろうと思ってる」
ネルシアの婆さんが訝しげに片眉を動かした。
魔獣化の仮説から説明している余裕はない。時間が経てば魔法師たちはまた俺たちに襲ってくる。そして、体内の魔素がすべて魔獣に侵食されたら俺のやろうとしていることは不可能になる。
「変質現象ってまさか……。魔素乱調を起こすとか言わないだろうね?」
俺は小さく舌を出した。
「本当に変なところばかりエルに似てきて頭にくるさね」
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