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半竜の研究者は世界の秘密が知りたい  作者: 紺ノ
竜と魔導と教師のお仕事?
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大丈夫、ですか?

「俺と目の前にいる魔獣になりかけている人間が同じか……」


 白竜(ホロン)の言っていた『侵食』と似たことが起こっていたから可能性の一つとして頭にあった。

 

 俺は自分の脚を見た。


 今はズボンで隠れているが下は竜の鱗がある。

 傷をつけることすら困難な頑丈な黒い鱗をいつでも全身に(まと)える。


 すべてを壊せる竜の力が俺にはある。


 ――写本が『侵食』を抑えてくれなければ俺は人間を襲うのか? 関わりを持った人間たちもどうでもいい人間も関係なしに?


「俺は大丈夫だ。絶対にアイツらみたいにはならない」


 まともな証明も参考値もない否定。

 理論的に話すべき研究者にあるまじき否定の仕方だ。


 それでも俺は否定する。


「でも身体の中に、木の根みたいな魔素が、伸びてる……っ」


 精霊眼では『侵食』を行っている魔素の見え方が独特らしい。

 

「エセ教師、来たんなら戦えって! ロシェトナ、お前も防御しろよ!!」


 ダリウスが肩で息をしていた。

 ユンとリオンも体力の限界が近いのか魔力を生成しきれていない。


 試験開始から三十分前後経っている。

 

 山でやった訓練でも三十分以上の戦闘訓練はやっていない。

 

 限られた時間で他のことも教えようとしたら三十分以上の戦闘訓練は難しかったのだ。これ以上の戦闘は生徒がもたない。


 ロシェトナだけは例外だ。

 魔法ではなく魔導を使っていたロシェトナは一番体力を使う『魔素の分解』を一度も行っていない。

 成形(モルド)による防御はまだできるだろう。


「そうだな」


 俺は両腕も竜化させた。


「おい!?」


 ダリウスの背中を掴んで観覧席に投げた。


 俺の腕を魔法師が鋭い爪で切り裂いてきたが服が破けるだけで俺にダメージはない。


「次はお前たちだ」

「先生!?」

「いやっー!」


 リオンとユンもすぐに投げる。

 最初に投げたダリウスが二人を受け止める。


「何しやがる悪魔教師!!」

「お前らはメリアと一緒に倒れた人間の対処してろ」


 ダリウスが何か言おうとしたが不服そうに舌打ちをした。


「メリア! 手当が終わったらさっさと避難しろ。人間の運搬はそこの生徒三人とやってくれ」


 了解と言わんばかりに親指を立てるメリア。

 

 視線を魔法師たち戻すと、ダリウスたちを見ていた。


生成(ライズ)成形(モルド)


 魔法師たちの視線を断ち切るように生徒との間に魔力の壁を張る。


「ウチはまだ戦えるッスけどあんまりアテにはして欲しくないッス」


 苦笑いをするヤシュヤに俺は頷いた。


 痛みを無視した行動をする魔法師たちに武術は相性が良くないからだ。

 近距離攻撃しようにも魔法でヤシュヤの攻撃範囲外から攻撃が飛んでくる恐れもある。


「正直、ヤシュヤとロシェトナには時間稼ぎをしてほしい」

「別にいいっスけど、何の時間稼ぎっスか?」


 ヤシュヤが魔法師の一人を投げ飛ばして他の魔法師に当てる。

 

「魔獣化した人間を元に戻せるなら戻す。戻せなくてもせめて正気には戻したい。でだ、試しに魔法師たちの体内にある魔素を全部分解してみる」

「なるほどッス」

「無理、だよ。人体の中にある、魔素への干渉はほぼ不可能」


 やはりロシェトナは生物の体内にある魔素への干渉について知っていた。

 

 感知ですらできる人間が一握り。体内にある魔素分解の成功例となるとゼロだ。

 魔法医療に関する研究資料を数例見たが全て失敗。場合によっては被験者は死んでいる。


 成功のために万全の準備をしているはずの実験でゼロなのに準備なし前知識なしで今やろうとしている。


「体内にある魔獣の魔素が悪さしてるのは明白だ。やるしかねぇんだよ」


 病気であれば原因に対して適切なアプローチをかければいい。

 俺が薬を作るときに最初に頭で考えることだ。


「ロシェトナは魔素が見えてるんだろう」

「そう、だけど……」


 俺は魔法師たちの体内の魔素がどうなっているか確認する。


 魔獣の魔素が人間に混じっているのははっきりわかる。魔獣の肉体になっている部位に魔獣の魔素が濃いように思える。


 俺が分かるのはそこまでだ。

 ロシェトナが木の根と表現した魔素の形状は感知できなかった。


「ぼんやりとしか俺にはわからない。細かい位置の指示を頼む」

「やっては、みる……」

 

 体内の魔素の分解。

 どこまでできるか想像ができない。


「まず初めにお前から!」


 一番近くにいた魔法師を力任せに押し倒す。


 捕まえるのは簡単だ。

 ここからが本番。


 俺が一人取り押さえている間、ほかの魔法師はヤシュヤとロシェトナが対処している。


「左脇腹と、右の二の腕っ」


 ロシェトナの言った部位に魔素分解用の魔導陣を貼り付ける。


 ――分解、開始!


 周辺にある魔素を分解しないで魔法師の中にある魔素のみの分解を試みる。


 魔導陣が光らない。

 光らないということは魔素の分解が出来ていないという証拠に他ならない。


「くそがぁぁ!!」


 本気で魔素の分解をしようとする瞬間に体内の魔素が凝固するような動きをする。

 魔素を細かく切り分けようとしてもさらに硬くなって分解できない。


 このまま強引に分解すると、人間は死んでしまうのではなかろうか。


「そっち行ったッス!」


 二人の防御をすり抜けてきた魔法師が俺を蹴り上げてくる。

 俺が動いて隙間ができたのか、押さえ込んでいた魔法師が逃げ出してしまった。


「おいおい、これは正解掘りあてるの苦労するぞ……」


次回は8/30に更新予定。



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