同類、ですか?
「一応聞いておくが、お前は人間が魔獣になることを知っていたのか」
魔法の消滅後特有の金属をぶつけたときのような高い音だけが耳に響く。
俺の質問に対して答えるべき相手の答えがない。
「お前に訊いてるんだぞ、写本」
「え、そうだったんだ」
姿は見せず俺の頭の中から写本の声が聞こえる。
「他に話す相手がいるかよ」
メリアはさっき怪我人の手当てで離れた。生徒とヤシュヤは試験場の中央で戦闘中。ネルシアの婆さんも魔法を対消滅させることに神経を割いている。
「で、俺の質問に対する返答は」
「もちろん知っていたよ」
写本は威張るような口調だ。
「なら魔獣から人間に戻す方法は知っているか」
「教えるはずないでしょ。僕はあくまで採点者だよ?」
いつものように採点者という写本の言葉に俺は笑みを漏らす。
「そうだな。だからその答えを待っていた」
「待っていた?」
写本の知っていても話さないスタンスは世界の秘密以外にも適応されている。
それは俺の肩にある黒竜の鱗の件から分かったことだ。
「教えないってことは人間に戻す方法はあるってことだろう。あるならこっちで色々実験して正解掘りあてるだけだ」
「そういう確認方法はいただけないね」
写本はげんなりしたような声を出した。
「緊急事態だ。少しはサービスしとけ」
「お断りだね。今回は手伝わないよ」
「そっちは期待してねぇよ」
――写本の奴は外に出せる状況じゃねぇよ。
ネルシアの婆さんが近くにいる。
写本の存在がバレれば間違いなく俺はラナティスを追い出される。
俺の中にいる分には写本の存在は簡単に認知されない。生物の体内にある魔素や魔力は外から感知するのが困難なのだ。これは同じ生き物である魔物や魔獣にも当てはまる。
「俺の身に何かあったら他の連中を助けてやってくれ」
「キミを失うぐらいならあそこにいる魔法師たちを全員僕が殺すけど?」
冷たく、澱みのない言葉に俺は寒気を覚える。
写本が時折見せる容赦のなさは俺と似ているようで全く違う。
重くて胸に刃物を突き刺されたような痛み。
――俺と写本が繋がってるから感情も流れ込んできてるのか?
「どうにかしようとしているときに物騒なこと言うんじゃねぇよ」
「僕は本気だよ」
「本気だって分かるから困るんだろうが」
俺は観覧席から魔法弾を放つネルシアの婆さんに近づく。
「犯人はどうしたんさね」
「放置してきた」
目線を合わせることなく質問をしてきたネルシアの婆さんに簡潔に返す。
数秒、睨まれた。
また魔法が外に飛びそうになったのを見て対消滅させる魔法弾を放つ婆さん。
「……説教は後さね。今はあの魔獣みたいになってる魔法師たちを大人しくさせるのが先さ」
「そのことで確認が一つある」
「なんだい」
「魔獣の魔素は変質するとか言ってただろう。アレはいつ頃わかったことなんだ」
『人が魔獣になることを上層部が揉み消していた』とガリオンは言っていた。
上層部とはどこの組織の上層部か。
ガリオンが上層部と接触し、情報を得ることができる組織。
――法団に決まってる。
仮にガリオンの言葉が真実なら魔素の変質する現象である魔素乱調は俺が見つける前に見つけている奴が法団にいるかもれない。いるならその人間は世界の真実を知っているかしれない。
「孫弟子が魔素乱調を発表してからの話だよ。まだ仮説の段階さね」
「そうか……」
「なんだい、急に落ち込んだ声なんか出して」
「別に。もしもの話なんだが法団のクソみたいな連中が今回みたいに人間が魔獣化することを黙ってたとしたら、婆さんはどうする」
婆さんは無言でロシェトナが反射した三つの魔法弾を対消滅させにかかる。
しかし、魔法の衝突角度が悪かったのか対消滅は起こらず爆発した。
俺は近くにある魔力を集める。
「生成、成形」
魔力の壁を作って爆風が誰にも当たらないようにする。
「婆さん、ミスんなよ。俺の壁なかったら周りの人間怪我するぞ」
「アンタが集中乱れさせるようなこと言ったんじゃないかい!」
「まぁ、そういう反応だよな」
「冗談言う場面じゃないさねっ」
「本当に冗談だったらいいけどな」
俺は竜化した脚でジャンプする。
そのまま魔獣化した魔法師の一人に飛び蹴りを当てる。
人間を蹴っているはずなのに異常に硬い。深くに入れば入るほど硬い線のようなものに威力が防がれている。
「エセ教師!?」
「ルーカス先生!」
蹴られた魔法師は吹っ飛んだが受け身を取っている。
「弱めに蹴ったけど、竜の力だぞ。受け身とれるのおかしくないか」
普通の人間なら首を折っていてもおかしくない。
外見の造りは人間。中身は完全に魔獣だ。
普通の人間なら首がもげてもおかしくない。
「ヤシュヤ、お前よくこんなの蹴って身体持ってるな。普通蹴った側が脚痛めるぞ」
「だからパンチやキックじゃなくて投げ主体で戦ってるッス」
ヤシュヤが別の魔法師の肩に手を絡ませて地面へ叩きつける。
「先生の脚がいつもと違いますよー?」
「竜の姿になる魔法だ。この状態なら肉弾戦でも早々負けねぇよ」
ユンが竜化した俺の脚を見て不思議そうな顔をする。
「せんせい、どうして……」
表情をあまり変えないロシェトナがユンの隣で青ざめていた。
「なんだ、どうかしたか」
「魔獣に、なる。せんせいが、魔獣に……!」
「ならねぇって。なんでそんなことになるんだよ」
ロシェトナの様子がおかしい。
何の根拠もなくおかしなことを言うような子ではない。
――では、なぜ?
「脚が一緒、だもん。試験の魔法師さんと、おんなじなの! せんせい、なんでっ!!」
取り乱したロシェトナに魔法師たちが魔法を打ち込む。
「生徒に手を出させねぇぞ! 成形!」
魔力の壁で魔法をはじき返す。
ロシェトナは真っすぐ俺に向かって走ってくる。
そして、そのまま抱き着いてきた。
「……せんせい、どうして。せっかく、仲良く、なったのに」
ロシェトナの右目の眼帯から涙がこぼれている。
頭が追い付いていないながらも整理していこうと思考を切り替える。
――ロシェトナは俺の脚と暴れている魔法師たちが同じだといった。何が同じなんだ。
俺の脚は竜化した状態のため、骨格がごつくなり、黒い鱗で覆われている。
対して魔法師たちは体の一部に獣の毛を生やし、正気を失って人間を襲っている。
共通しているのは身体の変化だ。
そしてロシェトナだけが反応した理由。
他の生徒になくてロシェトナにあるもの。
――魔力や魔素を視認できる精霊眼。
どうやら俺は精霊眼を侮っていたらしい。
「もしかしてロシェトナ。お前、竜化がどんなものか分かるのか」
俺の胸の中で小さくロシェトナが頷いた。
「そっか、そっか……」
ロシェトナが言うには俺の竜化は魔法師と同じ。
つまり、目の前にいる魔獣化した人間と俺はどういうわけか『同類』ってわけだ。
次回 8/9に更新予定




