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半竜の研究者は世界の秘密が知りたい  作者: 紺ノ
竜と魔導と教師のお仕事?
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助ける、ですか?

 試験会場から人間たち慌てて逃げ出している。

 俺は走って流れに逆らう。


「魔力の感覚が魔獣じゃねぇか。クソが」


 魔獣のような反応をさせている試験官の魔力は時間が経つにつれて密度と量が増えている。お粗末だった一つ前の試験試合とは別物だ。


 対して生徒たちの魔力は小さくなっている。

 魔素分解をする体力がなくなってきているのだろう。

 

 相手がワンパターンでも疲れ知らずで恐れ知らずだとしたら体力が有限な人間は絶対に勝てない。


 理由はわからないがネルシアの婆さんの魔力はほとんど感じない。

 魔法を時折使っているのはわかるが、戦闘をしているようには思えない。


「婆さん、何やってんだよ!」


 観覧席で仁王立ちしている婆さんを見つけて声を張り上げた。


 綺麗に並んでいた椅子がいくつも壊れており、法団の魔法師と思われる人間が何人か倒れていた。


「イヴァン! 薬ちょうだい!」


 メリアが俺に向かって走ってくる。


「やっべ!」


 回し蹴りで魔法を弾いたダリウスが悲鳴に近い叫びをあげた。


 メリアに向かって魔法弾がまっすぐ飛んでくる。


「しゃがめ、メリア!」


 メリアは俺の言うことを聞かずに走ってくる。


 ――っち、俺がどうにかするしかないじゃねぇかよ。


 慌てて脚を竜化させる。


「間に合えっ」


 力いっぱい地面を蹴って、メリアの回収を試みる。


 想定していたより魔法弾のスピードが速い。


 ――間に合わねぇ!


 魔法弾がメリアに当たる瞬間、別の角度から魔法弾が弧を描いて飛んでくる。

 衝突二つの魔法弾。

 

 魔法弾は爆風もなく対消滅した。


 俺はメリアを抱えて地面の上を転がる。


「今の角度は……婆さんか」


 ほぼ同じ魔力量の魔法弾をぶつけて完全に相殺した。

 

 ただ守ったり弾いたりしたらどこに被害が出るかわからない。それを防ぐための選択だったのだろう。


 ぐったりして倒れている法団の魔法師たちを考えたら最善策と言える。しかし、少しでも判断をミスすれば対消滅は起こらない。

 最悪メリアに魔法弾が当たっている。


 一歩も動かないネルシアの婆さん。


 おそらく、さっきの要領で流れ弾をずっと捌いていたのだろう。


「魔力量も角度も完璧かよ……」 

「痛いよ」

「すまん」


 とっさのことだったので力強く抱きしめていたメリアを解放する。


「婆さんが周り守ってる感じか」

「うん。魔導を使う女の子が魔法から仲間守ってたんだけど時々魔法が飛んでくるのネルシアさんが止めてる」


 生徒たちを物陰から覗く。


成形(モルド)……!」


 ロシェトナが魔導で魔法師たちの魔力を操作して、壁を作って他の生徒を守っている。生徒たちは守りの要であるロシェトナを中心にして円になって戦っている。


 生徒たちの横で一つの褐色の影が動く。

 魔法師の股下をスライディングで抜け、もう一人の魔法師を殴らせる。


 そのまま足を引っかけて体制を崩して一発蹴りを入れていた。


 魔法師が壁に激突する。

 だが、あまり効いていないのか何事もなさそうに歩いている。


「いやいや、ホンキもホンキなんスけど硬すぎないっスかね?」


 影の主は苦笑して、もう一度構える。

 一人で二人を相手にしているらしい。

 

 ――ヤシュヤも入って抑え込んでるのか。

 

 数回に一回ロシェトナの作った壁にぶつかった魔法師の攻撃があらぬ方向に跳ね返されている。


 飛んで行った魔法は婆さんの魔法で対消滅させてられている。


「なるほどな。ロシェトナが使ってるのは魔導だから魔法師どもが魔力生成すればするほど防壁の質も再展開するまでの回転率も上がる。が、不意に起こる反射まで計算してられないねぇよな」

「途中までは飛んでこなかったよ」

「……計算追いつかなくなっただけかよ」


 経験が浅い人間が周囲に神経使いながら戦うなんて普通できない。

 ロシェトナはそれを四人を守った上でやっていた。


 短時間でも出来てたっていうのが信じられない。


「で、周りにいる魔法師どもはどういうことだ」

「試験中断させようと割って入って、返り討ち。私は怪我した人いないか確認中だよ」

「もう少しまともな魔法師を派遣しやがれよ」


 法団だから魔法師の質がそれなりにあると思っていたがそうではないらしい。


「とりあえず痛み止めと止血の塗り薬は渡せる」

「包帯もちょうだい! 足の骨折れてる人がいるの!」


 言われた通りに薬と包帯も鞄から出してメリアに渡す。


「イヴァンはどうするの?」

「どうって何を」

「生徒さんたちを助けると思うんだけど、あのおかしくなった魔法師さんたちはどうするのかなって」


 横目で魔法師たちを確認する。


 服の上からでも分かる筋肉の隆起。動物の毛のようなもので覆われた腕。涎が口の横からあふれ出ている。


「法団って、イヴァンのお師匠さんを追放したところでしょ?」


 助ける義理はない。

 

 法団を憎んでいるという話ではなく、ただ関わりを持たないただの他人だから。


 ――俺にとって無価値な人間だから。


「いつものと同じなら俺は『どうでもいい』って切り捨てるんだが」


 俺の頭の中にこびりついたガリオンの台詞(セリフ)が俺の答えの邪魔をする。


『お前のせいだ』


 俺のせいだと言われて『助けない』と答えたらそれこそ俺のせいだ。


「やれることはするつもりだ」

「そっか。なら私も出来ることをする!」


 薬を持ったメリアは(うずくま)っている魔法師に駆け寄る。


「さて……やれることをするとは言ったがな」


 ――どうしようか。ヒントも何もないから対策思いつかんぞ。

次回更新予定は7/26です。


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