背負ったもの、ですか?
観覧席まで走って戻った俺は目を疑った。
「なんでこんなことになってんだ」
大きな口を開けて舌をだらしなく出した魔法師たちがリオンとダリウスに噛みつこうとしていた。
近距離戦闘をするリオンとダリウスが処理しきれなかった相手はユンとロシェトナが魔法で対応している。
魔法師たちは拳で殴られても、魔法で吹き飛ばされても牙をむく。
地面を四足で駆け、血走った目で唸る魔法師たちは獣そのものだった。
「わかんないよ! でもだんだん動きがおかしくなってきてて」
メリアが慌ただしく手の動かす。
「ありゃ、魔物か魔獣を食ったね」
「食べれるの?」
「薬に魔獣の一部を使うことはあるが……」
自分用の疲労回復のために魔獣の角や魔物の分泌物を使った薬を作る。多く使っても小指の爪先程度の量だ。多量摂取すると身体に何らかの悪影響が出る。
「婆さんの言い方的に食用……だよな」
食用になると聞いたことはなかったが薬に使えるのだから問題はないはずだ。
「特殊な処理をすれば食べれるよ。ただちゃんと処理しないと魔臓に蓄えられていた未分解の魔素を経口摂取することになるから普通はしないさね」
「仮に魔素中毒起こす危険なものを食ったとしてなんで生きてられんだよ。純度の高い魔素を取り込んだら呼吸困難になるだろうが」
俺は魔素に関する一般常識を口にするとネルシアの婆さんが片目を閉じて唸った。
「詳細は不明だね。魔素が変質して毒性が変わってるとは言われてるさね」
魔素の変質。
俺はその現象をよく知ってる。
魔素乱調。俺が見つけた魔素が変質する現象だ。
――魔獣の中で起こりうるものなのか? どういう原理で、何のために?
疑問が頭をよぎった。
――そうじゃないだろう。今は生徒たちのことを考えろ。
俺は自分の顔を軽く叩いて現実に引きずり戻す。
変質した魔素を取り込んだ魔法師たちに自我らしいものがあるとは思えない。
見えない魔獣が内側から人間を食い散らしているようだ。
直線的な獣の動きは生徒たちも理解しているようで攻撃を凌いでいる。
魔法師たちが痛みを感じないのか血を吐きながらも突進している。
これではいくら凌いでも無駄だ。
生徒たちが戦っている奥の長椅子。
さっき魔法師たちが休憩に使っていた長椅子にガリオンが現れた。
長椅子の上にあった水筒を持ち上げたガリオンが嫌な笑みを浮かべた。
「あの野郎、飲み物に何か混ぜやがったのか!」
俺と目が合ったガリオンが口を動かす。
声は聞こえない。ただ何を言っているかは分かる。
『お前のせいだ』
ガリオンは俺が生徒たちと関わったからだと笑う。
身内であるはずのダリウスも危険に晒す。俺への嫌がらせのためにだ。
――あぁ、これだから人間は嫌いなんだ。
「犯人、ちょっくら捕まえてくるわ」
「生徒はどうするのさ」
「問題ないさ、俺の生徒だぞ。でもまぁ、やばかったら婆さん、頼むわ」
俺は一言残してメリアとネルシアの婆さんと別れた。
◆ ◆ ◆
「『ホーランド』どこに行くつもりだ」
学園の外へ向かおうとするガリオンに向かって俺は怒りの籠った声を出す。
「『ルーカス』こそ、どうしてここにいるのかね?」
「テメェが魔法師どもに面倒なことしたからだろうが」
「私は紅茶の差し入れをしただけだよ。とっても美味しい紅茶のね」
「ならその水筒貸しな。俺が魔素濃度調べてやるからよ」
「ふむ、それは困る。この水筒はそれなりに気に入っていてね。キミのような存在が触れてしまっては二度と使えなくなってしまう」
「魔素まみれでもう使えないくせに何言ってやがる」
ガリオンの張り付いていた嫌な笑みが剥がれ落ちた。
無の表情というには暗く重い表情を俺に向ける。
「『ルーカス』であるお前は何故表舞台に出て来れたのだ。咎人の血縁であるお前がどうして太陽の下を歩いているのだ。お前は苦も無く『ルーカス』でいられるのだ」
「何の話だ。俺は生まれた時から『ルーカス』で『俺』だぞ」
ガリオンが下唇を噛む。
「サルベアで会ったときからお前はそうだった。重くはないのか『ルーカス』という枷は! お前はどうして自分らしく振舞えるのだ!」
声を荒げるガリオンに俺は何かが引っ掛かった。
そして、『ルーカス』と呼ばれる俺は理解する。
「ガリオン、お前……『ホーランド』であることが辛いのか」
次回 6/21更新予定
お仕事が一区切りつきました。




