やりたいこと、ですか?
キャンプ生活を始めて一週間。
朝食中の生徒たちに俺はとある質問をした。
「魔法師になって何がしたいんだ」
俺の質問に生徒たちが焼き魚を食べる手を止めた。
ヤシュヤも食べることをやめていた。
変な空気が漂う。
「前にロシェトナが精霊の存在を確かめたいとかいってただろう。他の三人も何かあるのか、ふと疑問に思ったんだ」
「僕はお金がたくさん必要だからですよ」
意外にもリオンが一番最初に喋り始めた。
「金のためとかなんだよそれ」
ダリウスが言葉を挟む。
リオンがダリウスを一瞬睨んだ。
「僕の家は農家なんですが、農業は環境に左右されることが多く安定した収入が難しいですよ。だから僕がたくさんお金を稼いで親を楽させてあげたいと思ってます」
「一般的な職の何倍も稼げるからな。悪くない選択だと思うぞ」
ユンが恥ずかしそうに小さく手を挙げた。
「その……魔法で人助けできたらいいなー、って」
「ほう」
「昔、病気になったときに魔法で治してもらったことがあって私もこんなことができたらいいなーとか思ったりー思わなかったりー」
手遊びをするユンは俺に確認するような視線を向ける。
「魔法なら様々なことができる。医療もそうだが、魔物退治で人を助けることもできるし生身ではできない作業を魔法で実行することもできる。ユンはできること増やしていくのがいいかもな」
「はいっ!」
俺を含む全員がダリウスを見る。
「な、なんだよ」
「僕のやりたいことに口を出したダリウスならもっと素晴らしいことを話してくれるのではないかと思ってますよ」
――リオンのやつ仕返しとばかりに嫌味全開だな。
「超えたいんだよ……じいちゃんを……」
「じいちゃんって誰だ」
「ウィリアムのじいちゃんだ。まぁ、家系図で言ったらオレのじいちゃんじゃねーけど……。いつか超えたいと思う」
「魔法師の管理組織『法団』のNo.2だったか。超えたいと思うぐらいすごいのか」
「当たり前だろ!! この世界で一番すごい魔法師だとオレは思ってるね!!」
目を輝かせるダリウスに俺は笑みを浮かべた。
「何がおかしいんだよ!」
「最高だわ、それ。超えろ超えろ。いつかと言わずすぐに超えちまえ」
「叔父上には無理だと言われた……」
「やりたいことだろう。誰に何言われようがやっちまえ。自分の人生だ好きにしろ。最後に責任取るのは自分だ」
――俺を含めて、な。
「次のステップ行くか。お前たちのやりたいことのためにもな」
「何の、話?」
ロシェトナが俺のことをまっすぐに見てくる。
魔導を見せた時にもみせた面白いものを見つけた目だ。
「今日から個別授業をやっていこうと思ってる。どうだ」
「どうってアンタが教師なんだから好きにすればいいじゃねーか」
ダリウスが焼き魚の刺さった木の棒で俺を指す。
横で小さくロシェトナが首を縦に振っていた。
「正直そうしようと思った。でもやりたくない奴に何を教えても無駄だろう。だからこれは提案だ」
「具体的に、何するの?」
「ダリウスとリオンはヤシュヤが、残りを俺が教える。内容は弱点克服ってところかな」
ヤシュヤには昨日の晩に話をしておいた。俺のやりたいことも伝えた。
しぶしぶといった感じだが承諾はもらっている。
「は? オレこいつとか?」
「木の棒で指さないでください」
嫌悪感丸出しのリオンの声でダリウスの口が歪む。
ヤシュヤが後ろから俺に耳打ちをしてくる。
「ウチ、この二人見るのすごーく不安なんスけど」
「どう転ぶか正直俺もわからん。が、頼んだ」
「期待が投げっぱなしっスよ……」
肩を落とすヤシュヤに俺はどんな言葉を掛けたらいいかわからなくなった。
初日からケンカしていた二人だ。
ヤシュヤに訊いたところ、いつもこんな調子らしい。
個別授業で良い方に転んでくれと願うばかりだ。
「私は、やるよ」
「はいはーい。やりまーっす」
ロシェトナとユンはやる気満々だ。
険悪な二人は視線がぶつかり合っている。
リオンが小さくため息をついた。
「僕も弱点は克服したいですし、やるのは賛成ですよ。一応……」
一応、と言葉からもダリウスと一緒なのが嫌だということが受け取れた。
「多数決的に言えば決定だが、ダリウスはどうしたい」
「その個別授業でじいちゃんは超えれるのか?」
真剣な表情で俺を見るダリウス。
「お前の本気度次第だ」
「いいぜ、やってやるよ。どんな地獄でも乗り換えてやる」
俺の煽るような返しにダリウスは意欲を溢れさせているらしい。
「というワケで、今日から個別授業主体でやる。――後悔するなよ」
俺が念を押すと、生徒たちが青ざめた表情をした。
「せんせいが、悪い顔してる」
「僕も同じこと思いました」
次回、5/10更新予定




