悪魔教師、ですか?
テントの組み立てと昼食が終わった後、早速特訓を始める。
「今から十分の間、俺が魔弾を撃ち続けるから全員避けろ。あと防御魔法は使用禁止。ずっと魔素の分解を続けること」
俺は太い木の枝に登って、下にいる生徒たちがよく見えるようにする。
「魔素の分解を三十分この前やったから楽勝だな」
ニヤリと笑うダリウス。
静止時と運動時の魔素分解の負担の違いが全く分かっていないらしい。
「楽勝じゃ、ないと思う」
ロシェトナが『やっぱり悪魔教師だ』と言わんばかりに俺のことをジト目で見てきた。
「どこに逃げてもいいんですー?」
「オーケーだ」
「隠れてやり過ごすのもアリ、ですね」
「できるならやってみな。できたら一流の魔法師だ」
俺は魔法陣の書いた紙を一枚手にする。
「生成。さぁ、当たってもそんなに痛くないようにはしておくぞ」
――始まって三分経過。
「なんで隠れてるところわかるんですか!?」
「あのエセ教師ふざけんじゃねぇぞ! クッソ疲れるじゃないか!!」
「魔弾がグニャグニャ追ってきますー! やっぱり悪魔教師ですぅ!」
「逃げ、きれないっ……」
阿鼻叫喚の嵐だった。
スタミナ切れを起こしたところを魔弾が順番にヒットしていく。
俺の魔素感知できる範囲内である限り魔素を分解している人間の位置はだいたいわかる。隠れようと蛇行して逃げようと無駄なのだ。
「魔法のことサッパリなんスけど、みんなそれなりに体力あるはずなんスけどね」
ヤシュヤも木に登ってきた。
武術を教えているヤシュヤは全員の身体能力を把握しているらしい。
「学校じゃ静止して魔法使ってるからスタミナ配分が下手なんだ。魔素の分解と走ることの二つを平行してやるなら分解を三、走る方に七の配分で使うのが効率いい」
走ることに集中して、魔素の分解をあまりしてなかったから魔力少なくてまともな魔法が使えません、とならないようにするための比率だ。これを守らずにやると今の四人のようにスタミナがあっという間になくなる。
今回は魔素の分解だけだが魔力の操作と魔法の行使部分で更に体力を削られる。レベルは生徒たち用にかなり落としているつもりだ。
「最初に教えないんスね、それ」
「初めから楽な方法を教えていい場合と後から教えていい場合がある」
「で、今回は後者なんスか」
「意味も分からず楽なことさせたら意味が分からないままだろうが」
教師として来ている以上、やることはやらないといけない。
「お前らへばってるとこ悪いけど第二ラウンドいくぞ」
「誰か……あのエセ悪魔教師どうにかしてくれっ」
「二時間足らずで、ランクアップっ……」
「休憩したいですー……」
魔弾追いかけっこは第四ラウンドまでやった。三ラウンド目が始まる前にスタミナの配分を休憩がてら話すと生徒たちから大ブーイング。ロシェトナは知っていたらしいが配分がわからなかったらしい。
すべて俺の魔弾が生徒に当たったが全員当たるまで八分かかるようになったので初日の成果としてはいい方だろう。
夕飯の支度もあるので俺は食料を一人で取りに行く。
生徒たちはヤシュヤに任せた。ヤシュヤについて来てもらったのは身体体力の強化もあるが、こういうときのためでもある。
「さて、と」
学校から借りたキャンプセットにあったバケツを持って川にきた。水質確認したときに魚が見えたので、晩飯用の魚を捕ろうと思ったのだ。
「なんでお前も一緒に来るんだよ、ロシェトナ」
「面白いもの、見たさ」
「あっそ」
俺は薬品などが入った腰の鞄から包帯を出した。
ほぐして糸に戻し、道中で拾った木の枝の先端に固定する。
「作ってるのは、釣り竿?」
「当たりだ」
釣り針は自分の魔力で創るしかない。適した素材が見当たらない。針に返しを作るのも面倒だ。
「ロシェトナ、面白いもの見せてやるから魔素分解してくれないか」
「ん、わかった」
ロシェトナが手に持った魔石が淡く光る。
弱々しい光は分解能力が人並みよりもないことの証明だ。
ある程度魔力を作ってもらったところで俺は魔導を使う。
「生成、成形」
俺の手のひらに魔力がどんどん集まり、凝縮していく。半透明の粘土のようになり、形を変化させていく。
大きく湾曲した細い半透明の物体が出来上がる。
「返しもつけて針の出来上がりってな」
「魔法の手順を、無視した……。なんで、なんで?」
「他人の魔力を使う。これが魔導だ。他のやつには言うなよ」
こくこくこくと頷くロシェトナ。
開いたままふさがっていない小さな口で興味深々なのがわかる。
眼帯で片目は相変わらず隠れているが表情は最初の頃よりも読み取りやすくなった。
「魔導が禁忌の理由、間近で見た今ならわかる」
ロシェトナが呟いた。
「魔法師の、天敵。普通の魔法よりも、魔導の方が何倍も早い」
俺は魔導の利点の一つを言い当てたロシェトナに面をくらう。
「前に教室でも、似たようなの見た」
確かにケンカをするリオンとダリウスに爆散は使った。
ロシェトナは二回魔導を見たことになる。
魔素や魔力を視認できる精霊眼の持ち主とはいえ、利点を簡単に見抜けるものなのだろうか。
精霊眼とロシェトナの蓄えた魔法の知識が組み合わさった結果なのだろうか。
「なんで魔導を、見せてくれたの?」
「精霊眼を見せてもらっただろう。あれの礼だ」
生の精霊眼を見た魔法の研究者はそういない。
精霊眼も半竜ほどではないにしろ貴重なものには変わらない。
研究対象として精霊眼持ちは闇市で売られることもあると聞く。
そんなものを見せてもらったのだから俺も見せれるものは見せるべきだと思ったのだ。
――半竜の方はさすがに見せられないが。
「……魔力の感知が、できるなら精霊眼を見られてもいいと思った」
近くにあった丸太にロシェトナが座わった。
俺は魔導で作った釣り針を糸に括り付け、餌となる水生の虫を針に刺す。そして川に糸を垂らした。
「同じものが感じ取れるなら、変にされないと思ったから」
「それは安直な考えだ。俺が悪い人間ならお前は異国で売られてたかもしれないぞ。感知できるからと言って信用するな。人間なんてロクでもないの多いんだからな」
「ホーランド、とか?」
俺は釣り竿を揺らさないように笑いをこらえた。
下手に釣り竿を動かすと餌に魚が食いつかなくなってしまう。
ロシェトナに呼び捨てされていることでさらに笑えてくる。
手元が震えそうになる。
「立派なロクでなし代表だな」
糸が時折、ピクピクと動く。
「魚捕るのに魔法は、使わないの?」
「使ってもいいがそういう気分じゃない」
研究のことを忘れて釣りがしたくなっただけだ。
写本がとんでもない事実をサラっと話すものだから正直どう手を付けるべきかわからなくなっていた。そのストレス発散。
――大した理由なんてない。理由なんてそんなものだ。
「気分なら、仕方がない」
糸がピンと強く張った。
竿を素早く持ち上げる。
魚が針にしっかりついていた。ただ一人前にしては少し小ぶりなサイズ。
「二匹ないと腹膨れないかもな」
「なら、手伝う」
ロシェトナが転がっていた木の棒を拾っていた。
「わたしも、そういう気分」
悪魔教師と呼ばれるようになった俺は新しい釣り竿を作り始めるのだった。
次回4/19更新予定→休日出勤のため、4/26になります。
体調崩すまたは休日出勤がない限りは二週間に一回は更新します。




