第九話 「善良な木の精」
「邪悪な木霊はね、木に切り傷があって、その傷から血の出てる木に、邪悪な木霊が潜んでいるのよ」
木から血......!?
「わ、わかった......。で、いつ出発するの?」
「出発は、今日の夜よ! それまで休憩して、身体を休めるといいわ」
「うん、ちょっと体も暖まったし外の景色眺めてくるよ」
《ガチャッ》
アルス(宅馬)は、外に出て、山から景色を眺め考え事をしていた。
異世界に来て何日目になるだろうか......。まだ、この世界の事は何もわからない、でも少しずつではあるが、理解してきた。
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辺りが段々暗くなり、日が暮れた頃。
《ガチャッ》
「アルスー! 行くわよ。はい、これ」
エルフィがアルスに、虫あみを渡した。
「こ、これは......?」
「これはただの虫あみじゃないわよ。この虫あみには、魔法を付け加えてあるの。これで捕まえたら、相手は少し麻痺状態になるから、そこを狙って倒すだけ! 簡単でしょ? ふふっ」
「もし、捕まえられなかったらどうなるの?」
「逃したら、噛み付かれて......そこから言わなくても想像はつくわよね」
不安と緊張が頭を過ぎるなか、二人は森の中へと歩いていく。
「エルフィさんは、怖くないの?」
「うん、怖いよ......でもね、結局は、誰かがやらないといけないんだ」
「すごいね。僕は、怖いよ。初めて大型魔物に出会った時、震えが止まらなかったよ」
「この山に来てるって事は、怖いものしらずなんだなぁと思ってたけど、アルスでも怖いんだね」
「あ! あれを見て!!」
そこには、一本だけ明らかに大きな木があり、切り傷から血が垂れている。
「よく発見したわ! ここからは、注意をしながら木霊を探して! 私も見た事はないけど聞いた話によると小さくて浮遊しているらしいわ......!!」
「み、みたことないの!?」
どこだ! 全然見当たらない、そもそも木霊は小さいのか??
すると、その木の上から無数の何かが落ちてきた。
「気をつけて!」
その見た目は、黒く靄が掛かっており、口から鋭い牙、目は赤く、髪の毛が白い。
見た目からしてヤバそうだ! ちょうど虫あみに入る大きさだ。
「ど、どうすればいいの?」
「捕まえるのよ、木霊の数は約10匹といったところかしら」
そうだ、鑑定で確認しておこう。
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名前 : 木霊
種族 : 精霊族
ーステータスー
Lv.38
HP:10
MP:50
攻撃力:2500
俊敏力:1000
魔法攻撃力:0
知力:5
物防:0
魔防:0
ーアビリティー
EXS:-
US : -
SS:-
RS : 俊足移動Lv.15
NS : -
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なんだこれは......!! 速いだけではなく、攻撃力もつよい! 勝てない......勝てる気がしない。
「アルス! しっかりしなさい!!」
そこには、エルフィが虫あみで木霊を二匹捕まえていた。
「気を抜くとやられるわよ。虫あみを構えて、相手のスピードをよく見て、瞬間にキャッチするのよ」
「わ、わかった!」
相手をよくみて......って速すぎる!!!
邪悪な木霊は、アルスの目で追えない程のスピードで移動している。
「無理だよこんなの!」
「目で追うというより感じるのよ! 相手がこちらを狙ってくる時、微かに空気が変わるから!」
感じる、感じる......
アルスは、目を瞑り、息を吐いた。
......!!
「いまだっ!」
虫あみを振りかざした。中には木霊が一匹入っており、痺れている。
「よくやったわ! 痺れてる間に攻撃して、通常の木霊に戻すのよ!」
アルスは、頷く。
えいっ!
《ふわぁ〜》
剣を刺し、木霊の傷口から光が漏れるようにでてきて、その光が集まり、何かに変化した。
「その調子、それが通常の木霊よ」
《ありがとう》
脳内に声が、響き渡ってきた。
......!! その姿は、邪悪な木霊からは、感じられない優しい顔で黄色いオーラを纏っている。
「アルス、一匹倒したからって安心しないで! まだ敵はいるのよ!」
「ごめんなさい、集中する!!」
《キャーーッ!!!》
なんだ!?
そこには、エルフィが邪悪な木霊に噛まれている姿があった。