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らくがき

作者: 足立 ちせ

私が初めて見た少女の絵は、絶望だった。


世界は夜よりも暗い闇一色。

生き物と思しきものは、手も足も顔すらも判別することが出来ない。

まるで絵そのものが悲鳴をあげているようだった。救いを求めているようで、あるいは全てを拒絶しているようにも見えた。


きっとそれには芸術的価値なんてものもあったに違いない。


しかし私はそれを見て言ったのだ。

0点だと。

私は批評家でも画家でもなんでもない。

それでも、こんなにも幼い少女の描く絵がこんな混沌と絶望で溢れた絵でいいはずがないと思った。

「空には、太陽や月が昇るんだ」

私は全く笑わないその少女に言った。少女は虚ろな瞳で私を見る。

「星が瞬いてとても綺麗で、時には虹も架かる。みんな泣いたり笑ったりしながら幸せに生きている」

少女は何も言わない。

私はそんな少女に明るく笑って言った。

「世界はもっと明るくて美しい場所なんだよ」

この笑顔が、少女にとってお手本になってくれればいい。

そんなことを思いながら。



数日後、私は少女と再会した。

輝く瞳の少女は、私に一枚の絵をくれた。


それは落書きだった。


地は緑に萌え、空は明るく青く澄んでいた。それなのに虹が輝き星が瞬き世界が煌めいて、下手くそな人間がみんなで楽しそうに笑いあっていた。

芸術的価値なんて欠片もない、ただの子供の落書きだ。

それでも、その絵には何者にも代え難い大きな価値があることが私には分かる。

95点。

にっと笑ってそう言った。

「どうして?」

初めて聞く少女の声は、この絵の空のように無邪気に澄んで、きらきらしていた。

私は絵を少女に差し出して笑う。


「空には太陽や月が昇るって言ったでしょう?」


少女はそれを受け取って。

とても嬉しそうに、明るく笑った。

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