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55話『一種』



アルフの放った破壊の光線は魔の森の中心部にまで届いた。突然の暴力の顕現に木々は成す術もなく焼失。地表は融解、溶岩を思わせる真っ赤な色を湛えていた。熱線が地面を抉っていたのか、心なしか視線が下がっていたのが凪は気になった。


アルフの強大な力を目の当たりにしたリアムはただ驚くばかりだった。同じクラスに所属しているとはいえ先程の魔法は明らかに人に向ける魔法ではない。対人戦だけではアルフの真の実力を見ることは出来ないのだ。凪もリアムと同様に破壊の限りを尽くした魔法を平然と放ったアルフに内心で戦慄していた。


魔の森は広大だ。ただ真っ直ぐ歩くだけなのに魔皇姫のいる中心部にまで三日を要した。


道中、凪の期待していた魔物による襲撃は一切無かった。



「この森は魔皇姫以外の生命体を排除するようになってますの。 だから魔皇姫以外の魔物は当然、動物達でさえ一匹として生息してませんの。 勿論人間もですわ」



凪の疑問に答えたシャーロットの言葉だ。


実際、熱線の通った道の脇には多少余波で焦げた木々があり、その木々達が枝を伸ばして一行を捕縛しようとしていた。試しにわざと捕まった際、その力に驚いた。自力での脱出はほぼ不可能な程に力が込められており、思わず焦ってしまった。


そんな魔の森には当然ながら宿泊施設など存在しない。異世界、そして日本でも経験したことのない野宿を凪は初めて経験した。


魔の森で迎える夜。それは立ち入り禁止区域に似つかわしくない、静かで綺麗な夜だった。


凪は当然のように考えているがそもそも常識の通用しない異世界において地球と同じように空が存在し、時間という概念があり、そして煌めく星々が存在すること。違和感だらけである。


空を見上げれば空気が澄んでいるのか、星が良く見えた。星々が輝いている、それはつまり宇宙の存在があるということ。そして他の惑星ならびに銀河系の存在の示唆。世界の成り立ちに目を向ければ疑問しか残らず、そしてそれが解決することはない。


二日目。黙々と歩き続ける一行には大した変化も大した出来事も起きない。延々と変わることのない景色がどこまでも続いて、一行の精神力を削ぎ落としていく。初日は和気藹々と楽しく会話をしながら歩いていたのだが今は沈黙が落ちている。会話があったのは朝の挨拶、夕方に野宿する場所を決める時の言葉だけだった。


そして三日目。この日は朝から全員、本気だった。昨日は陽が沈んでいて分からなかったが道の先に一際大きな木が見えていたのだ。それが神の木と呼ばれる御神木であり、その根元に魔皇姫がいる。そう判った瞬間、全員が肉体強化、風よりも速く走り出した。


そうして走ること数時間。一行が目にしたのは天を貫く柱であった。















言葉が出ない。肉眼で初めて見る一行の前には壁にも見える幹がある。左右を見渡せばその幹がどこまでも続いているように見え、それが一層壁に見えることを際立ている。



「………一周するだけで何時間掛かるのやら」



樹高に適した胴回りを保有する神の木。神々しくも禍々しく、矛盾を孕んだ存在感を醸し出していた。



「スゴいですの…」


「…絶景」


「おっきいねー」


「世界を眺めていたというのも納得の大きさだ」



立ち竦み、空を見上げる。その先端は雲に覆われて確認することは出来ない。


雰囲気に呑まれること数分。



「………探すか」



周囲に生き物と思しき姿は無い。魔皇姫はこの根元のどこかにいる。それを探す為に一行は太すぎる根元をぐるりと回るように歩き出す。



「しっかしここまで来るのに時間掛かり過ぎだろ。 三日だぞ? どんだけ広いんだよって話だわ」


「皇国の領土、その何割かは魔の森が占めているという話ですの。 そこらの小国ならこの森にすっぽり収まるくらいには大きいはずですの」


「父上から聞いていた以上だよ。 流石、立ち入り禁止区域に指定されるだけある」


「ここまですんなり来れたのは私のおかげなんだからね。 普通はこう簡単にいかないんだから」



一先ずは目的地に到着したという安堵感から口の動きが滑らかになる。弛緩した緊張感と緊迫感、そしてのんびりとした時間が流れていた。



「これだけの大きさになるまでにどれだけの年月が掛かるのかな?」


「一説には世界が出来たときから存在している話がありますの。 この大陸が出来た時には既にある程度の大きさにまで生長していたとか。 けど詳しくは分かっていませんの」


「こんだけデカけりゃそりゃ世界中に根を張っててもおかしくはないわな」


「地面を掘ればこの木の根っこが出てくるとか?」


「…否定出来ないのが怖いな」



日本ではそもそもここまで木が生長することはない。木の種類も関係しているし木の限界も関係している。何より生育環境が大きい。



「まさに神樹ってか」



凪の知識にある神の木とは大抵が何かしらの特殊な性質を持っている。某ゲームでの世界樹の葉は死亡を生き返らせる。上を見上げながらこの木にもそういった特殊な性質があるのかなと考えていた。



「………あれは?」



リアムの視線の先。そこに巨大な何かがいた。


神の木の周辺には不思議と木々が生えておらず、上空から日が射している。全体に湿り気を帯びているのか、その日に当たってテカテカとしている。



「あれっぽいな」


「あれっぽいね」


「あれっぽいですの」


「………あれ」


「あれ、なのか?」



横たわっているのか、手足は見えない。顔に当たる部分も体毛も見えず、ただの巨大な丸い塊にしか見えないが場の雰囲気には相応しくない存在だ。



「魔皇姫は普段は無害な生物ですの。 近寄っても攻撃してくることもせず、大人しく横たわっている、そんな存在ですの」



シャーロットの言う通り、一行がその塊に近付いても反応はない。丸まっている状態でも高さは軽くビル四階相当になる。



「ですがこちらから攻撃すると反撃してきますの」


「で、俺達の特務はこれに攻撃すると」



反撃されると分かった上で攻撃、何も分からない状態よりかは幾分マシだ。



「どうする? 一斉攻撃? 一人一人戦っていく?」



仮にも第一種に指定されている生物を目の前にしてする提案ではない。しかし凪にはその脅威が伝わらない。



「まずは僕から行かせて貰うよ」


「大丈夫かよ、お前で」


「少なくとも貴様よりかはな」



抜剣。手に持ち、一歩前進する。



「攻撃してきた存在の周囲にいる人間にも?」


「…そこまでは知りませんの」



攻撃したリアムだけに反撃するのなら良いがとばっちりを受けては堪らない。不安気な答えを出したシャーロットと共に凪は数歩後退する。



「骨は拾ってやる。 死んでこい」


「その前に貴様を殺してやろうか」



女性陣とは明らかに違う態度だが凪は気にしない。



リアムの初めての特務、初めての第一種を相手にした戦闘が幕を開ける。

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