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49話『上位』



「長く続いたランキング戦、みんな本当にお疲れ様だったね」



学園長室に凪は来ていた。アルフとの最終戦を終えて、既に数日が経過している。あの日、アルフの放った最後の魔法。詳細は凪も知らないがアルフに訊くことはしなかった。アルフも自分から話そうとはせず、何も分からずじまいだったがそれで良かったと凪は思う。


すぐに心を開いてくれるのも嬉しいが頑なに閉ざされた心を時間をかけてじっくりと開かせる、それが凪を燃えさせるのだ。



「今、この場にいる五名は我がルミテッド学園で五指に入る強者たちだ。 その強さに応じた、その序列に見合うだけの特権が与えられる」



学園長の言葉に意識が引き戻される。結局アルフに負けた凪はランキング戦の最終順位を五位で終えた。なんとも中途半端な順位だがまぁこの程度かと凪は思っている。主人公のように強くはないけど、脇役程弱くはない、なんとも言い難い立ち位置だ。唯一の不満はカイルと同じ順位なこと。とはいえリンストン学園でもランキング戦が行われていればカイルの順位にも変動があるのだがそこまで凪は知らない。



「無論、その対価は頂く。 学園序列上位者の義務とも言える、特務の発生だ」



特務。その言葉に凪の頭が動く。



「特務は序列五位から請け負う義務が発生する。 拒否権は存在せず、極秘事項故に口外も禁じている。 …ナギ君は何故か既に知っているみたいだけどね」



反応が薄いことを目敏く察知しその理由を瞬時に理解出来る辺り、学園長は相当頭がキレるらしい。わざとらしく驚いてみせる臨機応変な対応が出来なかったことが悔やまれた。



「特務を経験したことの者も多いが、最初の特務は全員参加での任務となる。 内容は追って伝えるよ」


「質問」



会話を打ち切る雰囲気を察した凪はタイミング良く挙手。話の腰を折っては申し訳ないと今まで待っていたのだ。それだけ真面目な雰囲気の中、学園長が話していた。



「なんだい?」


「序列上位の恩恵って具体的に何があんの?」


「ふむ。 五位の君にはユナイリー皇国の管轄下にある立ち入り禁止区域、その一部への入域が許可される。 禁書指定されている書物の一部閲覧、ルミテッド学園の立ち入り禁止エリアを一部使用可能、それと学生寮に個室が与えられるが…どうする?」


「どうするって…あー。 そゆこと」



現在、凪はアルフとルティシアの三人で一緒の部屋を使っている。その三人が序列上位になり、それぞれの部屋が与えられる。バラバラの部屋になっても良いのかと学園長は聞いていたのだ。



「アルフはどうしたい?」


「えっ? 何が?」


「寮の部屋だよ。 バラバラになるけど良いのか?」


「私も今まで三位で専用の部屋があったんだけどね…流れ者のナギ君に気を遣って学園長が同じ部屋にしたんだよ? 初めて会った人間だから仲良くしてやれって」


「じゃ、バラバラで良い?」


「………………嫌」



学園長室には凪の他にも他の序列上位がいる。一位であるルティシアを筆頭に二位のシャーロット。三位のアルフと四位のリアムの姿もある。まさか凪とアルフが同室に住んでいるとは思ってもいなかったのか、知らない二人の顔が驚愕に包まれていた。



「アルフ!? あなた異性と同室ですの!?」


「流れ者! 貴様アルフ嬢とそんな関係だったとは…羨ましいそっ!」



前者は純粋な友人としての驚き、後者は本音がダダ漏れだ。二人の言葉にアルフの顔が羞恥に染まる。



「ち、違うよ! 私とナギ君はそんな関係じゃ…!」


「いや、そんな関係だ。 …ついでにルティともそんな関係だ」



前半の言葉にルティシアの表情が悲しみに染まる。それを確認した凪は言葉の最後にそう付け加えるとその表情がパッと明るくなった。


その一部始終を見ていたシャーロットが凪の言葉を事実だと理解する。



「アルフ…ルティー…私のいない間に…」


「シャ、シャロ? 別に付き合うとかそんな関係じゃないからね?!」


「………」


「おい! 貴様ちょっと詳しく夜の話を聞かせろ聞かせてくれ聞かせてください」



収拾がつかないとは正にこの状況だ。全員が好き勝手な発言をして事態は混乱を増すばかり。発端である凪は遠巻きにそれをニヤニヤしながら眺めるだけで何もしない、最低である。



「こほんっ。 ………良いかな?」



咳払いに全員の動きが止まる。学園長室にいることを完全に失念していた。



「数日後、正式に特務の命令が出される。 各々、準備だけはよろしく頼むよ。 何か分からないことがあれば私に聞いてくれ。 …では、解散」



空気を読んだ学園長の一言に再び場が賑わい出す。それを見て学園長が深い溜息を吐くのであった。
















「リアム、あなたはどうするんですの?」


「シャーロット嬢」



午後の中庭。西日が射す時間帯。ベンチに腰掛けて剣を磨くリアムにシャーロットが声を掛けた。



「特務、今まで上位だったあなたは断っていましたの。 今回も?」


「いいや、今回は受けさせて貰うよ」



通常、特務を拒否することは出来ない。それでも拒否した場合は学園を放逐、皇都から追放、下手をすれば適当に罪を捏造して身に覚えのない罪状で逮捕、死刑に課せられる可能性がある。なのにリアムは拒否をした。



「父上の後ろ盾でも特務を拒否することが難しくなってきていてね。 今回からは僕も参加することにしたんだ」



貴族の血統を最大限に生かした使い方だ。それを卑怯

と罵る者もいるが最も上手な逃げられない家柄との付き合い方でもある。使えるモノは何でも使う。例えそれが権力を持っている血が繋がった家族だとしても、だ。



「貴族も色々と大変なのですの」


「貴族として生まれた以上、仕方のないことだよ。 それに称号を持っているシャーロット嬢こそ色々と大変だろう?」


「否定はしませんの」



称号を持つ者は外交にも大きな影響を及ぼす。政治的な意味合いを含めて、シャーロットは特務の他にも国の主催するパーティーや他国への視察にも参加している。



「…流れ者はどうですの?」



流れ者の話題が上がるのは必然だ。それだけ流れ者は珍しい。自分たちの生きてる時代に流れ者が来た、それが導く時代の動きを理解しているシャーロットは試すようにリアムへ問う。



「あれは色々とおかしい」



力強く断言するリアムの表情は不愉快そのもの。貴族として生を受けた彼にとっては凪の態度は不愉快でしかない。少なくとも、リアムにあんな態度をするのは皆無だ。



「予想通り、ですの」


「? 何が予想通りなんだい?」



凪が自分だけにではなく、全員に平等に接していることがリアムの言葉から窺える。それはつまり、それが凪の素なのだ。飾った態度ではなく、普段通りの適当な態度でリアムにも接している、そのことがシャーロットには嬉しく思えた。



「あの流れ者は人のことを気にしませんの。 見るのは一人の人間としてだけで、付加価値である貴族や称号にまで目を向けていませんの」


「シャーロット嬢にまであの態度で接しているのか…」


「初対面で皇族だと嘘を吐かれましたの」


「あいつ…重罪だぞ。 憲兵にチクってやる」



黒い笑みを浮かべたリアムにシャーロットは苦笑。この調子ではアルフやルティシアにも同じような態度で接しているだろうとシャーロットは考えていた。



「リアムはどんな初対面でしたの?」


「思い出させないでくれると助かるんだが」


「あら、何があったんですの?」



過去を思い出し、リアムの顔色は冴えない。もう随分とあの試合から経つが未だにリアムの心は癒えない。


流れ者だと甘く見て手加減に手加減を重ねて本来の力の半分も出さずに負けてしまった、あの試合の後。どこから情報を入手したのか、父親や兄達からこっ酷く叱られたのは割と最近の話だ。



「戦闘訓練で負けたんだよ…」


「序列二位だったあなたがですの? そんなにあの流れ者は強かったんですの?」


「いや、僕の過失だ。 ちょっと舐め過ぎていたんだ。 足元を掬われた形になるのかな」


「それでもあなたに勝てるとは思えないんですの」


「まぁ…流れ者ということを考えるとあの時のあいつは強い部類だったよ。 それは認める」


「貴族の発言とは思えませんの」


「認めるべきところは認めるさ。 そこらの頭でっかちな貴族とは違うんでね」



皇国の主な貴族は何かしらに特化している。主な貴族と比べると細々としているが他の貴族も存在していた。凪が想像する傲慢な貴族が多い、頭の固い貴族がこちらに分類されている。


武の一門である貴族のリアム、その一族は全員可哀想な頭をしている。武力に秀でた一族は皆、馬鹿なのだ。その中でリアムは頭が良い方に入る。



「ランキング戦では勝ったけど…あれは勝ったと言っていいのやら」



途中棄権をした凪の姿を思い浮かべ、苦い笑いを零す。形式的には勝利を収めていたがあのまま戦い続けた時、リアムでも勝てるかどうかは分からなかった。



「私も戦える時が楽しみですの」



軽い一戦を交えているとはいえ、お互いに全力とは程遠い戦いだった。いつか本気で戦える日を夢見て、シャーロットは笑う。

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