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48話『本気』



黒刀を構える。流派も糞もない、凪の適当な構えだ。ただそれだけでアルフの全身に裂傷、切傷、刀傷が増えていった。


省略の能力を使用して出来た傷には衝撃が発生しない。気付いた時には体が傷付ついており、痛みが走るのだ。


痛みに呻くアルフを無視して凪は能力を使っての攻撃を続ける。アルフの動向を注視しながら凪は現状を把握することに努めていた。



(…残りの魔力は約半分ってとこか)



自身の体を冷静に分析。火傷の傷跡さえ残っていない体の隅々にまで魔力を使用して意識を回す。肉体強化の練度が向上したことにより、自分の魔力総量が何となく把握出来るようになっていた。



(問題ないな)



自分を客観視、冷静に判断を下す。



省略の能力は反映される攻撃に限度がある。首を切断したり心臓を突くような攻撃は反映されないのだ。つまり即死させることは出来ない。だがそれ以外のことなら大抵はこの能力だけで実現可能だった。


血飛沫を舞わせながら回復魔法を連続で展開しているアルフへ意識を向ける。その瞬間アルフの両腕が吹き飛んだ。



「くぅーっ!」



すぐさま魔法陣が展開され、アルフの両腕が復元される。終わりの見えない戦いに凪も少々お疲れ気味だ。



「埒があかん」



一瞬、ほんの一瞬だけ凪の意識が逸れ、連撃の雨が止む。その刹那にも満たない瞬間をアルフは見逃さない。



「私を甘く見ちゃダメだ、よっ!!!」



傷は治せても失った血まで戻ることはない。顔色が若干青くなってきているアルフが叫ぶ。


凪がその声に反応する前にアルフは魔法を展開、発動させる。



「!? ちっ、神話級か!」



展開された魔法陣の色を見て凪は警戒の色を濃くする。黒刀の使用を止め、全神経を集中、周囲に目を向ける。


虹色に輝く魔法陣は訓練室全体に広がる程の規模だ。余りの規模に幾何学模様も少々歪になっている。魔法陣全体が淡く発光。徐々にその光が強くなり、一際光り輝いた瞬間、魔法陣が炸裂、光が周囲へ飛び散る。


光とはいえ神話級の魔法の余波だ。警戒するに越したことはないと凪は超高速でそれを避け続ける。やがて明滅していた光が消え、再び先程と同じ景色が広がる訓練室へと戻った。



「………何をした?」


「その黒刀、因果律に直接干渉して相手を攻撃する能力だよね? 攻撃したという事実のみを現実に反映、それが相手の肉体を傷付けるってとこかな?」



凪の疑問を無視したアルフの解答。黒刀が持つ能力のことは生徒ではルティシアにしか話していない。あの短い時間でそこまで看破されたことに驚きを禁じえない。


押し黙る凪を無視してアルフはさらに言葉を続ける。



「けど反映される攻撃には上限があるみたいだね。 多分…命を落とすような攻撃は反映されないんじゃないかな?」


「…お見通しってか。 正解だ」



魔法を扱う者には洞察力が求められる。魔法陣の模様や形から魔法の種類を一瞬で判断し、それに対抗出来る魔法を考え、即座に対応する為だ。稀代の魔法使いであるアルフはその洞察力がズバ抜けて高い。



「ルティシアも一瞬で理解してたわ。 お前といいあいつといい…すげぇな」


「必要な能力、だよ。 ナギ君もこの能力のことは直ぐに理解出来たでしょ?」


「まぁ、な」



もちろん嘘だ。凪が省略の能力を詳しく理解出来たのは一重にルティシアの貢献が大きい。所有者だからって取り扱い説明書が貰える訳ではないし、持った瞬間に使い方が頭に流れ込む訳でもなかった。



「けど、もう無駄だよ」


「あ?」


「その能力、もう使えないよ」



凪にとっては死刑宣告にも等しい発言をするアルフを凝視。その表情と声音には嘘を言っている雰囲気は見えない。凪の頭の中に先程の神話級魔法が過る。


神話級には未だ解明されていない魔法が多く、どんな種類の魔法がどれだけあるのかも分かっていない。神々が使用したとされる神話級魔法は未曾有の大災害を引き起こすとしか文献に記されてないのだ。


かつて、神話級魔法を自在に使いこなしたと言われている魔王の称号を持つマクスウェルも詳細は誰にも話していない。謎多き魔法、それが神話級魔法なのだ。


アルフの宣言通りか確かめる為、凪は能力を使用する。



「………マジで?」


「マジで」



使えない。どれだけアルフを攻撃するイメージをしてもそれが現実に反映されることはなかった。



「お前マジで何をした?」



理解不能な現象を前に凪の頭は混乱寸前だ。普通に考えて因果律に干渉する攻撃を防ぐのは不可能である。だからこそ凪の頭は混乱寸前なのだ。いったい何をしたのか。



「神話級魔法だよ」



単純にして明快な答え。混乱する手前の混乱寸前だった頭はその可能性を考えていたから。完全に混乱しなかったのはその可能性があったからこそ。



「神話級魔法の一つに因果律に干渉出来る魔法があってね。 ナギ君の黒刀が持つ因果律に直接干渉させて貰ったんだよ」


「…世界改変にも匹敵するんだぞ? 世界の根幹を揺るがす魔法が存在するとでも? 物理法則にも影響が及ぶんだぞ? 分かって言ってんの?」



信じたくない。そんな気持ちが凪を襲う。因果律に干渉して行う攻撃は原因を作らずに結果だけを生む、が正しい現象だ。それを防ぐには直接世界に干渉し、因果律を操作するしかない。言葉では簡単だがそんなことは神や創造神といった神にも等しい力を持った超越した者が行うことだ。一介の人間であるアルフがそんなこと出来るはずがない。



「遥か昔の神話の時代。 神々が大きな争いをしていた」



物語を語るように話す言葉に凪の耳が傾けられる。未だ信じられない気持ちでいっぱいだ。



「世界を二分する戦い。 次元を超えて、平行線を超えて、あらゆる世界線にまで影響が及ぶ大戦は世界の滅亡手前まで進んだ」


「………」


「と、ここまでは伝承でも良くある話だよ。 そして世界を憂いた神が因果律を操作して世界を守ったとされる…分かる?」


「その時代の魔法が神話級魔法。 そして神話級魔法には人が想像する以上に強力で危険な魔法があるってことか」


「ざっくりと言えばね。 他の魔法と違って神話級魔法は誰かに師事して教えて貰う訳じゃなくて、無意識のうちに理解出来るの。 知らないはずなのに、体が勝手に動くみたいな?」


「………まさに才能、か」



凪の想像以上にアルフは強いのかもしれない。一度に攻撃出来る規模と範囲を考えた時、ルティシアよりも遥かに厄介で危険な存在なのかもしれない。それでもそれを聞いてしまったら。



「尚更負けたくねぇな。 才能を持ってる奴には、なっ!」



抜刀、アルフへ迫る。納刀状態での省略の能力が使えなくなった以上、凪に残された攻撃手段は黒刀を使ったチャンバラだ。現状判明している能力をフルに活用して戦うしかない。



「世界のパワーバランスを崩さないように気をつけてるつもりだよ」



迫る刃をアルフは軽やかな身のこなしでひょいひょい躱していく。もちろんただ躱すだけで終わらずに小さな魔法陣を幾つも展開して常時反撃に移行している。


超反応でその全てを回避しつつ、凪は黒刀を振り続ける。一心不乱に攻撃を重ねているようにも見えるが内心では常に好機を窺っていた。能力を有効に活用出来る場面を。



「これはどうかな?」



刃先で撫でるように振られた黒刀を避け、アルフが頭上へ手を掲げる。室内全体を覆うようにして魔法陣が展開、戦場全域に隕石に似た物体が降り注ぐ。


観客には当たらないように絶妙な配置がされた古代級の魔法だ。一つ一つが充分な威力を持ち、地面に墜落すると同時にクレーターが発生、二次災害で引き起こされた石飛礫の嵐に観客から悲鳴があがる。


触れれば確実に欠損、もしくは行動不能にまで追い込まれる。それだけの威力が込められていることを察知した凪は掠ることさえ許されない隕石の嵐を掻い潜る。アルフを確認。隕石に遮られた視界の中、アルフが凪を見失ったかのように周囲を見渡している。



「ちゃ〜んす!」



未だに隕石が降り注ぎ、足場の悪い地面を量産する中で凪が黒刀を振るう。不可視の斬撃、それが隕石を破壊しながらアルフへ迫る。



「流石に降らせる量が多すぎたかな…っ!?」



使う魔法を間違えたことに若干の後悔が生まれていたアルフを斬撃が襲う。襲来した斬撃の衝撃で右半身が叩かれ、右足が切断された。


突然の攻撃に回復魔法の発動が遅れる。集中力が途切れ、上空の魔法陣が消失、隕石が降り止み静寂が場を支配。その一瞬の静寂を凪は即座に破る。



「ほいほいほい」



ふざけた声で不可視の斬撃を続ける。その声とは裏腹に表情は本気だ。攻撃を続けながらも離れた距離を縮めるためにジリジリとアルフへ近付く。



「くぅ…やるね!」



斬撃に体を舞わせつつもアルフは魔法を展開。色は虹、神話級だ。再度の神話級をアルフは行使。


神話級を使われると手出しが出来なくなる。反撃もままならず、されるがままの受け身に回ってしまうのだ。神話級を使い続ければアルフの勝率は大幅に跳ね上がる。だがその可能性を秘めた神話級魔法をいつまでもほっとく程、凪も馬鹿ではない。



「させっかよ!」



リアムとの特訓の際に判明した第三の能力。


アルフの前方に発生した魔法陣。凪は斬撃を中断、全力を以ってその魔法陣へ突進を開始する。


極限を超えた肉体強化がされている凪の体。今までは攻撃や回避、防御などの他に意識や強化が割かれ、全力とは程遠い性能しか引き出せていなかった。しかし、今この瞬間、凪は全ての意識をただ前に走ることだけに向けた。その結果、瞬間的に凪はルティシアと同等の速度を手に入れる。



「はやっ…」



普通なら凪の動きを視認することは出来ない。だが洞察力に優れ、視力の強化も既に完了しているアルフにはその動きが見えた。


まさに光速。そう呼べるだけの速度で凪は魔法陣へ接近し、ものの一瞬で到達する。



「ほいっと」



魔法陣へ向かって軽く黒刀を振る。



「無駄だよ! …えっ!?」



魔法陣は物理攻撃を透過する。魔法による攻撃も魔法陣の前では意味を成さない。一度魔法陣が展開さえしてしまえば必ず魔法が発動される。そう、アルフは思っている。


しかし、鬼哭剣を筆頭に一部の武器には魔法陣を切断する能力が備わっている。その武器で魔法陣を攻撃すると魔法陣が消失し、魔法が不発に終わる。極々一部の武器にしか備わっていない、対魔法戦の切り札になる武器だ。


そして凪の黒刀にはその能力が備わっていた。アルフの目の前で魔法陣が真っ二つになって消失。消えた先には凪の姿。



「はっ!」



リアムから軽く教えて貰った剣術擬きに加えて我流の動き、それに自身の漫画やアニメの知識を足した世界でも凪しか使えないよく分からない動きをする剣術。刀でも扱えるように最適な動きをするように心掛けてはいるがいかんせん素人に毛が生えた程度でしかない。


それなりに素早い一撃であった刺突も予備動作から既にバレバレである。動揺していたアルフでも避けられる程に。


残った足だけで大きく跳躍。出現させた魔法陣を足場にしてさらなる跳躍、凪から大きく距離を置く。



「魔法陣に乗れること出来んの?!」


「自分で展開させた魔法陣ならね」



魔法陣が再度出現。アルフの体を癒す。



「まさか魔法陣を破壊されるとは思わなかったよ…」


「まぁ偶然の産物だけどな。 たまたま貴族と練習してて発見した能力だし」



リアムとの訓練中、何気なく発動されている魔法陣へ黒刀を振ったら魔法が途中で強制終了したのだ。リアムには怒られたがその後も無理矢理リアムを付き合わせて検証。確信を得たのはつい最近の話だ。



「神話級まで壊されるとなるとマズいね」



展開する魔法を悉く潰されては魔法特化のアルフに勝ち目はない。渋い顔で凪を睨む目には力が入っていなかった。



「降参するか?」


「すると思う?」


「おう」


「する訳ないでしょ…」


「してくれたら添い寝してやる。 キスでもハグでも良いぞ?」



言葉の応酬。最後に以前のキスした日を思い出したのか、アルフの顔が真っ赤に染まる。それを眺めながら凪は残りの魔力が少ないことを感じていた。


このままでは肉体強化も維持出来なくなる。そうなったら凪の負けは確定だ。



「残りの魔力も少ねぇしケリつけようや」


「………使うしかない、か」



凪が疑問を発する前にアルフが魔法を展開。虹色の魔法陣が空に浮かび光を発する。



「…なんだこりゃ」



凪とアルフ、二人を取り囲むようにして煙が充満。周囲の様子は全て隠れて見ることは出来ないが不思議と二人の姿だけはハッキリと見える。



「見られたくないから」



先程とは打って変わった感情の抜けた声。黒刀を構え、相対する。



「ごめんね、ナギ君。 これで終わりにするから」



アルフの目の前に魔法陣が出現。幾何学模様が渦を描くようにして展開されていく。凪はそれを呆然と見ていることしか出来なかった。


魔法陣の色は金。




何が起きたのか、理解出来ないまま凪は意識を失った。最後に聞こえた、アルフの呟きを残して。






「………創世魔法、発動」

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