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45話『間話』

「おー貴族。 こんなとこで何をしてんだよ」


「………自称を無くしたことは褒めてやる。 けど名前を覚えろ! リアムだ! 貴族だけど!」



ランキング戦をこなす毎日を送る凪は基本的に暇だ。ランキング戦が開催されている期間は授業が行われていない為、試合の無い日は一日中やることがないのだ。休息に充てたり訓練に励んだり恋人といちゃいちゃしたりと多くの者が思い思いに過ごす中、凪は学園内の散策と特訓にその暇な時間を費やしていた。


指輪を使っての転移が移動の基本となる学園では学園内の構造を把握出来ている人は少ない。未だ見ぬ新しい場所を求めて凪は広大な学園を渡り歩いていた。


とはいえ規模が違う。そんな簡単に全てを網羅出来る程小さくはない学園は一種の迷宮とも言い換えて良い。以前アルフが冗談のように言っていた、迷子になった人が白骨化して出て来る、なんて話も信じてしまいそうになるほど、複雑な通路が幾重にも入り組んでいる。しかも魔法が施されている箇所は数時間毎にその姿を変え、記憶に残すことが出来ないのだ。通ったことのある場所でも見た目や窓から見える風景が変わってしまっては初めて通る場所だと思い込んでしまう。まさに迷宮だ。


そして先日、図書室を訪れた際に偶然遭遇したシャーロット。まるでゲームのようにその日訪れる場所で攻略対象と出会えることが出来るような展開だがこれは本当に偶然である。のんびりとした時間を二人で読書に費やした後、元序列一位のその力を凪は見せて貰った。


軽く手合わせする約束で訪れた訓練所。相対するシャーロットを見た時の第一印象は、勝てない、である。立ち姿やその振る舞いから醸し出す雰囲気は強者のそれであり、それが凪の本能に負けを認めさせたのだ。拳と拳とぶつかり合いではあったが凪の肉体強化を以ってしても反応され、躱され、そして攻撃された。


純粋な身体能力の基礎が違う上に経験値が何百倍も違う。ハリボテの凪ではそこらの人間に勝つことが出来ても真の強敵には勝つことが出来ない、そう思わされた時間でもあった。


そんな時間を過ごした訓練所は幾つもの訓練室が集まって出来た施設だ。合宿所を思わせるような外観の中には救護室を始めとする仮眠室や休憩室、さらには軽い飲食が出来るスペースもある。普段はそこまで人は多くないのだが時期が時期であり、ここ数週間は多くの人で混雑していた。


その訓練所に入っている一室。古い訓練室だ。壁の塗装は剝がれ落ち、外壁が壊れて修繕されずにそのままの箇所もチラホラと見受けられる。何種類もの武器がおざなりに置いてあるスペースは埃が積もって放置された長い年月を感じさせる。



「んで? 何してんの?」



人見知りの凪は人混みを嫌う。人の少なさそうな場所をわざわざ選んで入ったのがこの古びた訓練室だ。しかし先客がいた。その先客は凪の入室を確認すると嫌そうな顔をしながら溜め息を吐いている。



「訓練室に来てやることなんて一つしかないだろ…」


「なんだ、オナニーか。 特殊な性癖をお持ちのようで」


「鍛錬だよ! どこからその単語が出てくるんだ!!」



先客のリアムは脈絡のない凪の言葉に顔を染める。意味が分かった上で反応する辺り、年相応の興味をそっち方面へ向けていることが分かる。


リアムはイケメンだ。そして金持ちだ。その気になれば腐るほど女を抱ける立場の人間。凪は内心でリアムを非童貞だと決め付けている。



「お前みたいな奴でもちゃんとやるんだな」


「はぁ、どういう意味だよ」


「いや、シャーロットとかお前とかアルフとか、序列上位の人間って奴は大抵何かしらの才能を持ってんじゃん。 才能が無いって言うお前だって一般人から見たら才能の塊だ。 努力なんてしたことない奴らばかりだと思ってたわ」



言葉ではそう言う凪だが内心ではその逆、当然隠れて努力をしているんだろうなと思っている。だいたい上の人間というものはそういうものなのだ。人に話せるような努力は努力ではないし、人に見せれるような努力は努力ではない。そういった自己満足の為に行う努力を努力とは思わず、誰かの為にではなく、ただひたすら自分の為に研鑽を積み重ねるタイプの人間が傾向として多く見られる。



「…まぁそうだろう。 否定はしない。 実際そう思われていることを僕も知っているし、そう思っている奴が大多数を占めていることも分かっている」


「物分りが良いな」


「器が大きいんでね。 どっかの流れ者は小さい器のようだが」



アルフが武道大会の時に見せたような逆ギレをしてくるのかと思っていた凪は意外な程にあっさりとそれを認めたリアムに拍子抜けする。いちいち一言の多いリアムは凪の想像以上に現実を見ているようだった。



「鍛錬か…才能の上に更に努力を上乗せして、何を目指しているんだか」



素振りしていた剣を置き、汗を拭うリアムを横目に凪がポツリと呟く。


目標があるのは良いことだ。それを目指して努力するのも良いことだ。だがその先に何があるのだろうか。見果てぬ道の先には何が待ち構えていると言うのか。その答えはその先に辿り着いた者しか知らない。



「…最初は父上や兄上たちに認めて欲しい一心で頑張っていた。 褒めて欲しくて頑張ってきた」



リアムの独白を凪は無視する。暇そうに足元の土を弄る凪に気付かないまま、リアムは言葉を続ける。



「けど、どんなに頑張っても父上は認めてくれない。 兄上たちは褒めてくれない。 所詮一族から劣る僕は血縁を残す為の道具でしか無かった」


「ふーん」


「僕は末っ子だ。 実質的に権力なんて物とは程遠い。 多くの者は僕ではなく、その後ろに控える父上や兄上たちを見ていた」


「ふーん」


「…聞いているのか?」


「ふーん」


「聞いてないよな!?」


「ふーん」



定型文のおざなりな生返事を返す凪をリアムが殴る。小突く程度の力だが意識が他に向いていた凪には思っている以上の力が与えられてよろけた。



「ってーな。 何すんだよ」


「聞けよ! 結構大事な話をしてるんだぞ!?」


「聞いて欲しいの?」


「………はぁ」



深い溜め息を一つ。リアムが諦めたかのように首を振る。そのまま再び剣を取り、素振りを再開した。



「付き合ってやるよ」



試合ではなくただの鍛錬だ。深い意味はそこに無いと判断した凪がおもむろに黒刀を呼ぶ。いつものように空間に亀裂が発生し、そこから黒刀を取り出してリアムへ構える。



「あの時、本気を出していなかったのか…」


「いいや、あの時は持てる力の全てを出していたさ。 ただ、道具を使わなかっただけだ」



その全力を出したせいで早々に魔力を切らして負けた。


黒刀の能力を使用する際は魔力を必要としないので非常にコスパの良い武器だ。日本人しか扱えないという欠点こそあるが、専用武器としては破格の能力である。



「どうよ、やるか?」


「あぁ、良いぞ。 やるか」



面白そうに笑うリアムを見ながら凪は黒刀を振るう。暇潰しの為に、そして友達作りの為に。














「流れ者と会いましたわ」


「ナギ君と?」



学生寮には沢山の生徒が住んでいる。遠方に住まいのある者の多くは通学の大変さを考えて親元を離れてここに住む。中には遠いところからわざわざ通っている生徒もいるがそんな生徒は極稀であり、基本は学生寮にその身を置いている。


寮生は基本的に相部屋となり、二人一組で同じ部屋に暮らす。同郷だったり知り合いだったり幼馴染であると同室にして貰えるように便宜を図ることも可能だ。途中で仲良くなった友人と同室に変更して貰うことも出来たりする。


序列が上位の人間は例外だ。十位から上の順位には個室が割り当てられており、順位が上がるに連れて部屋の広さもそれに比例して大きくなる。


ランキング戦がまだ終了していない現在、一位の人間が使える部屋は未だシャーロット専用の部屋となっている。ランキング戦が終わればその部屋はルティシア専用の部屋に変わる。卒業までの短い期間ではあるが。


そんな豪華絢爛な装飾が施され、室内の家具も一級品で揃えられた部屋でシャーロットとアルフは話している。



「図書室に行った際、上にいましたの」



二人は二年生の頃からの付き合いだ。当時から頭角を現していたシャーロットは序列上位に名を連ねており、アルフもまた魔法の天才としてその名を学園に馳せていた。戦闘スタイルや戦いへ向ける姿勢こそ違えど、二人は良きライバルとして、良き理解者として、良き友人としてお互いに切磋琢磨していた。



「ナギ君、図書室に行ってたんだ。 どうだった? 初めて見る流れ者は」


「面白い、その一言に尽きますの」



仮にも現行の序列一位であるシャーロットへあのような態度をする人間は親しい人を除いて皆無だ。流れ者という点を除いても既にシャーロットの情報を持っているのにあの態度で接する人間はいない。要は阿保だ。


話す言葉、接する態度、口調の自然さ。何よりも「一位のシャーロット」ではなく、「ただのシャーロット」に接してくれていることを気付いていた。


それにと、シャーロットは思う。あの揺るぎない信念とも言える自信をはっきりと言葉にする凪の顔を思い出す。



「面白い…えぇ、そうですわ。 面白い人でしたの」



思い出し、噛み締めながら話すシャーロットを見たアルフが思わず笑ってしまう。小さい、微笑みにすら感じられる笑い方だがシャーロットは目敏くそれに勘付く。



「………なんですの?」


「いや、ルティシアと同じだなーってね」



自分を棚に上げたアルフの発言にシャーロットの目が細められる。シャーロットの中でルティシアは倒すべき相手であり、何かと張り合う相手でもある。そんな相手と一緒にされてはたまらないとシャーロットが反論する。



「私とルティーは同じではありませんの」


「同じだよ。 ルティシアも今のシャーロットと同じことを言ってたもん」


「同じことを…?」



似た感性を持ち、似た感想を述べていた事実にシャーロットの眉が寄る。だがそれよりも先に感じる疑問がある。



「ルティーと流れ者はどんな関係ですの?」



答えづらいシャーロットの疑問にアルフが困惑した顔を浮かべる。まさかルティシアから求婚しているとも言えないし、凪の子供を欲しがっているとも言えない。ましてや惚れているなんて口が裂けても、だ。


上手い返事を考える、静かな時間が場を支配する。



「………と、友達、かな?」


「友達? 鬼族のルティーに友達ですの?」



痛いところを突っ込まれたとアルフの表情。しかしその打開策は用意してある。



「ナギ君と少しでも話したんならその理由が分かるんじゃない?」


「…まぁそうですの。 そういうことは気にしないタイプの人間だと私も思いますの」


「でしょ? ナギ君がルティシアと初めて会った時、きっとシャロと同じように肩書きとか生まれを気にせずに一人の女の子として接したんだと思う。 だからルティシアの友達になれたんじゃないかな」



良くも悪くも凪は人と接する時、相手のことを気にしない。性別、肩書き、種族、善悪、思想、その他もろもろを凪は見ない。ただの個人として接するのだ。そこに他意はなく、差別もない。あるのは凪の自分勝手な発言だけだ。


シャーロットもそれに気付いていたのか、アルフの言葉に渋々納得する。思わず安堵の息が漏れそうになるのを必死に堪えてアルフは話を変えようとするがシャーロットの方が早く口を開き、その出鼻を挫かれた。



「で。 アルフ、あなたと流れ者の関係は?」



その顔に浮かぶのは親友と呼んでも差し支えのない相手が仲良くする異性、その二人の関係を知りたがる年相応の表情。要はニヤニヤしていた。



「うー、あー…なんだろうね」


「関係は?」


「さ、さぁ?」


「関! 係! は!?」



どうでも良いことに力を入れるシャーロットにアルフはタジタジだ。暫くの間無意味な押し問答を繰り返した後、アルフは諦めたように話し出した。



「…だ、第一発見者?」


「………」


「ほ、ホントだよ! 森の中で倒れてるナギ君を見つけて保護したのが私なんだよ!?」


「…それで、ですの」


「…ナギ君にとってこの世界で初めて見た人間になるのかな。 それが縁で今日まで行動を共にしてる…だ、だけだよ?」



猜疑に満ちた視線を向けるシャーロットにアルフは両手を振って潔白を証明する。そもそも何の潔白を証明しているのかはアルフにも理解出来ていない。



「………にしては仲が良さそうに見えますの」


「そ、そうかな?」


「流れ者のことを話すアルフはとても楽しそうにしてましたの。 それに…その流れ者のことを凄く良く分かっているんですの」



言われてみればと、アルフは思い出す。凪のことを話す時は大抵明るい話題だ。自然と笑顔で話していたことは否めないがそれでもそれは話題の内容故の笑顔だと思っていた。


それが実はそうじゃなくて話題云々よりも凪のことだから笑顔になっていたとしたら。



「…好き、なんですの?」



窓から入る風に消え入りそうなその小さな声は逞しい妄想をするアルフに届くことはなかった。

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