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41話『剣帝』

皇国には称号という制度がある。その道を極めた人間に贈られる、名誉であり栄誉だ。巨万の富以上の価値があるその称号を授与されたのは過去に四人しかいない。


『魔王』の名を冠する、レスタリア・マクスウェル。彼は全ての魔法を極めた魔法使いとして皇国よりその称号が授与された。全級の魔法を真の力を引き出して戦うその姿は見る者を恐怖のどん底に陥れたという。全盛期には魔法一つで山を消し飛ばし、地形を変え、空を割り、天変地異を引き起こした。晩年は後進を育成することに努め、彼の教えを受けた者は後世に名を残す程の魔法使いとって歴史に多大な影響を与えた。


『戦神』の名を冠する、スレイル・ジャッカー。彼はその圧倒的な戦闘力で皇国を支え、周辺国を圧倒し、魔物を殲滅した。その絶大な戦闘力は神にも等しいと揶揄され、その結果この称号が与えられたという。それは鬼族を震え上がらせる恐怖の象徴。彼の戦闘力を持ってすれば鬼族の脅威を押し返すことは造作もないことだった。彼が愛用していた無銘の短刀を一振りすれば周囲に群がる人間の首が全て飛んだという逸話がある。全盛期の頃は人間よりも魔物を殺すことに集中し、彼が殺した第一種危険指定生物は数え切れない。晩年もその力が衰えることはなく、老衰で死ぬその瞬間まで彼は戦場に立ち続けたという。


『獣妃』の名を冠する、アビゲイル・サンナイト。彼女は四人の中で唯一無二の獣人であり、獣人の未来を開拓した人物だ。彼女の存在なくして永久友好条約の締結はなかった。彼女は当時では異端とされる、人類と獣人の争いの中でも中立の立場を示していた。同胞を説得し、人類を説き伏せ、条約への糸口を探し出した英雄だ。そんな彼女の人望もさることながら、その力も凄まじかった。彼女の戦闘スタイルは一撃離脱。その強力無比な一撃は相手を即戦闘不能にまで追い込み、逃げに徹する彼女を捉える存在はいなかった。全盛期には鬼族すらも圧倒する程の力を有し、先に述べた『戦神』と共に最前線で戦い、人類と獣人の士気を高めるのに貢献した。没後、その活躍が認められ、異例の死後に称号が与えられた唯一の存在である。



そして、最後の一人。



『剣帝』の名を冠するシャーロット・レスベリア。学生という身分でありながら皇国からその称号を授与されたのは彼女が初めてであり、唯一の生存する称号持ちである。
















「久し振りかしら? ルティー」


「………久し振り」


「二年前の模擬戦依頼ですの」



超満員の観客が詰める訓練室。ルティシアとシャーロットが対峙する。



「あの時は私もまだまだ未熟でしたの」



二人の間には因縁があった。かつての戦闘を思い出し、嚙み締めるようにして話すシャーロットの顔はどこか清々しい。対するルティシアは変わらず何を考えているのか分からない無表情だ。



「あれから二年…私は強くなりましたの。 あの時の敗戦を糧に日々体を鍛え、技を磨き、洗練させ、昇華してきましたわ」


「………………」


「そして、剣帝の名を頂きましたの。 この意味がルティーには分かります?」



両者共に得物は持っていない。ルティシアは当然だがシャーロットの持っていた剣の姿が今はない。



「………ひとまずは自身の力だけでの勝負をお願い致しますの。 剣を持って初めて真価を発揮する剣帝、ルティーを見極める為に、私自身を見極める為にも一つお願い致しますわ」


「………長い」


「変わりませんわね、ルティーは。 ………いえ、少し変わりましたわ」



凪と行動を共にするようになって、ルティシアにも人並みの感情が芽生えるようになってきた。滅多に見せることはないが笑い、怒り、そして悲しむ。それを分かるのは凪とアルフだけではあったがシャーロットにもその雰囲気を察することが出来た。


また凪の影響か、ルティシアの考え方が凪寄りになってきているのは悪いことと断言出来た。



「御託はここまでですの。 後は戦いの中で語り合うのみ」



観客の息を飲む音が聞こえる。それほどまでに空間は静寂が支配し、音が消えていた。



「………」


「鬼族………」



ルティシアに普通の態度で接する数少ない人間の一人、シャーロットが挑む。世界最強の一角を担う相手へと。


シャーロットが跳ぶ。音と景色を置き去りにするその移動法は皇国に古くから伝わる武術の動きに酷似している。足の移動に緩急をつけ、残像を出現、相手を攻めると同時に撹乱させる移動法だ。


合計数十にも及ぶシャーロットが様々な動きでルティシアに肉薄する。しかしルティシアは依然動かない。最初の棒立ちの体勢のまま、それを迎え入れる。


かのように見えた瞬間、ルティシアの姿がブレる。次の瞬間には周囲に群がるシャーロットの全てが霧散し、消失。何事もなかったようにルティシアが開始位置と変わらない場所で立っていた。


あの一瞬で数百にまで増えていた残像を全て消滅させたのだ。その動きは亜光速に近い。しかし本体が見つからない。それでもルティシアは慌てることなく、ただ立つ。



「流石です、のっ!」



ルティシアの遥か後方、周囲で観戦する観客の前にまで場所を移していたシャーロットが手を振る。次元を裂く勢いで振られた手は風を裂き、鎌鼬を引き起こしてルティシアに迫る。



「………ふー」



誕生日ケーキのろうそくを吹き消すようにルティシアが軽く息を吹く。ただそれだけで鎌鼬を相殺し、辺りに空気の波動を感じさせる。空間が爆発、空気が爆ぜる音が響く中、シャーロットは即座に行動を開始する。


簡単な中級魔法を一つ行使。魔法陣が浮かび、水球が出現する。その総数、百以上。



「これはどうかしら?」



再び中級魔法を発動。展開される魔法陣から火球が発現、それを水球へと向かって放つ。


大量の水量と熱がぶつかり、蒸気が発生、訓練室全ての視界を奪い去り、室内は真っ白になる。高温の蒸気は息をするだけで肺が焼け付くような痛みを与え、その被害は観客にまで及ぶ。


痛みに呻く周囲の観客を無視し、シャーロットは戦いを楽しむ。何をしても躱され、いなされ、まるで相手にならない存在を前にしてシャーロットが感じていたのは高揚感。


これだけ攻めても生きている相手はかつていただろうか、これほどに攻めごたえのある敵はいただろうか、己の知識と力を持ってしても到底届かない存在を前にシャーロットは感情の昂りを抑えられない。


自分の全てを遠慮なく出し切れる数少ない相手。これを楽しまなくてどうするのだ。シャーロットの表情がそれを物語っている。



「………無駄」


「!?」



本能で危険を察知、頭がそれを理解する前にがむしゃらに頭を下げることに全力を注いだ結果、シャーロットは何とか生き延びる。先程まで頭があった空間をルティシアの手刀が通過。その速度は音速を超えており、触れたら即死、触れなくても衝撃の余波でシャーロットが吹き飛んだ。


衝撃と共に後方へ跳ぶことで威力を相殺、多少のダメージはあったものの、行動に支障が出るほどではない。未だに霧が晴れない中、シャーロットは次の行動を起こす。


鬼族を相手にした時、停滞は死を意味する。生き残る為にはとにかく動くしかない。


それを理解しているからこそシャーロットは止まらない。



次の魔法を発動。色は黄色、古代級。出現した魔法陣から魔物が這い出てくる。


使役魔法だ。シャーロットの意思に従い外敵を排除する推定第二種危険指定生物に匹敵する魔物を霧の中へと解き放つ。その数は五体。しかしその全てが霧に飲まれる前に淡い光の粒子となって消える。



「対処が早過ぎですの!!」



何が起こったのかシャーロットの目には見えないがわざわざ見る必要もない。ルティシアが即座に殺したのだ。刹那にも満たない時間で国が滅ぶ可能性を秘めた魔物が消失したことにシャーロットは何も驚かない。鬼族であるルティシアなら当然のことだから。


これ以上は無駄な足掻きであるとシャーロットは判断、その足を止め、『剣帝』としての真価を発揮する。



「………ふー!」



ルティシアが吹いた、少し強めの息。熱い食べ物を冷やすように吹かれたその息は物理法則を完全に無視する勢いで室内に充満していた霧を消し飛ばす。



「おしまい?」


「いいえ、これからですの。 ………ガロっ!」



シャーロットが叫ぶと同時に空中に光が出現する。そのままその光がシャーロットの前に降りてくる一際強く輝く。思わず目を伏せたくなる程の強い輝きを前にしてルティシアの顔色が変わる。



「………それ、は」


「ええ、そうですわ。 剣帝の名を頂いた時、陛下から受け賜わりし剣ですわ」



光が消えると一本の剣が現れる。真っ白な剣だ。



「…………鬼哭」


「世界に数本しか存在しない、宝剣。 その一振りですの」



手に馴染む感触を確かめるようにして剣を振るうシャーロットを前にしてルティシアは動揺の色を隠せない。一族に残る文献で名前は知っていても姿を見たことはなかったからだ。彼女の中では半ば都市伝説と化していた文献上の存在が今、目の前ある。一族を根絶やしにさせた力の一端が。



「ガロ、あなたの出番ですの」


『承知』


「………誰と、話してる、の?」


「…あぁ、私以外には剣の声が聞こえていないんでしたわ。 この剣、鬼哭剣は意思を持つ剣ですの。 所有者にしか聞こえない言葉みたいですけれど」



シャーロットが誰かに話すように言葉を放つ姿を疑問に思っていたルティシアだがその言葉に納得する。凪の黒刀にも言えるが最上級の武器とは得てしてそういった物が多いのだ。言葉を話さなくても謎の意思を持ち、所有者と認められないと最悪精神を犯されて廃人になる。そんなリスクがある反面、武器としては最強クラスの力を発揮する為それを求める人は後を絶たない。



「……………力が」



抜ける。考え得る原因はただ一つ。



「それが鬼哭剣の効果ですの。 この剣の周囲に鬼族がいた場合、その力を吸い取る効果ですわ。 効果範囲は限定されてますけど常時発動型の力ですし、吸い取る力の量が大きいのでルティーも大変でしょう?」


「…くっ」


「あら、その顔を見る限りは本当に大変なんですの? ガロ、あなたってば意外と凄いじゃない」


『当然』



意思を持つ剣は数多く確認されているが所有者と話をする剣の存在は少ない。所有者にしか聞こえない言葉を話す剣と周囲にも聞こえる言葉を話す剣と分かれており、その差が現れる理由はよく分かっていない。


シャーロットが刀身を抜くと真っ白な剣が光を反射して眩しく光る。光を反射し過ぎて刀身そのものが見えない程だ。シャーロットの持つ剣が輝いて見えるのはそれを込みにしても別の力が働いていそうだが。



「鬼族の纏う鎧を砕き、武器を破壊し、その命を奪うという鬼哭剣。 その真髄、見せて貰いますわ!」



鬼族の生き残りをルティシア以外は確認されていない現状、ルミテッド学園でしか鬼哭剣の本領を発揮することが出来ない。鬼族以外に使用する時はただの綺麗な剣でしかない為にシャーロットも鬼哭剣の本当の力を知らなかった。


伝承に伝わる言葉通りならルティシアの身体能力が低下、鬼哭剣の一撃が彼女に届くようになるはずだ。剣を構えてルティシアに突撃するシャーロットは期待と不安とワクワクを感じながら攻撃を加える。



剣帝と呼ばれる彼女にはある一つの加護がある。生まれ持った才能であり、神に愛された力の一つでもあるそれは彼女を剣帝と呼ばれる地位にまで押し上げた要因の一つだ。


それは剣を持った時の身体能力の増加。加えてありとあらゆる剣技を自在に使いこなせる能力。前者は肉体強化とは違い、反動がない。鬼哭剣以外でも剣に分類される物を持てば等しく同様に身体能力が底上げされるのだ。肉体強化と併用することによってその倍率が跳ね上がり、彼女の体をより強靭な物へと変化させる。


後者はシャーロット自身が頭で理解する必要はない。体で覚える必要性もない。無意識のうちに全てを理解出来るのだ。古今東西あらゆる剣技を彼女は扱い、その全てが極限の域に達するレベルで扱える。誰かから教わったことも練習したこともない動きをシャーロットは自在にこなせるのだ。神から愛された加護である。


ルティシアが全身を確認、そうする間もシャーロットが走り寄って来る。その速度は爆発的な物だった。それでもルティシアは慌てない。現状を冷静に認識、把握することに努める。


拳を握る。仮に先程まで六割の力で戦っていたとしたら今は三割しか出ない。


足に力を込める。先程までの移動速度が八割だと仮定すると現在のルティシアでは二割が精々だ。この速度では避けることも困難なことが推測出来る。


圧倒的な不利な状況。それでもルティシアはいつもと変わらずに戦う。



迫る剣をバックステップで避け、追撃に来るシャーロットを拳を突き出して牽制、その際風圧と拳圧で攻撃を与えることも忘れない。


常人ならそれだけで体が木っ端微塵になるところだがシャーロットはそれを一太刀で斬り捨てる。小細工が通用しないことが判明するや否やルティシアは敢えて近接戦に持ち込む。


両者共に見えない速度で移動、硬化されたルティシアの拳と鬼哭剣が当たる甲高い音が周囲に響く。二人の姿は見えないままに衝撃波のみが発生。高次元の戦闘であることを証明していた。


数十合と打ち合わせて埒が明かないと確認、魔法の行使を決断する。


鬼族は肉弾戦に特化した種族だ。纏う鎧と握る武器がそれをさらに後押しする。かといって魔法が扱えない訳ではない。使う必要が無かったから使わないだけだ。


今、使う必要があるとルティシアは判断。久方ぶりに魔法を発動させる。色は赤色、上級だ。



「無駄ですわ!」



展開されていく魔法陣にシャーロットが袈裟斬り。通常、魔法陣を攻撃しても魔法陣は物理攻撃を透過する為に本来は無意味な攻撃だ。しかし鬼哭剣は魔法陣を斬り裂き、結果として魔法が不発に終わる。



「鬼族の力も魔法も鬼哭剣の前では無意味ですの!」



先にガロから聞いていた通り、魔法陣を斬り裂くことが出来たことに安堵しながらもそれを見せずにシャーロットはルティシアへ攻撃を重ねる。多種多様な斬撃の種類にルティシアでも捌ききれない。目に見えて切り傷が増していった。剣にまつわるありとあらゆる技術、剣技、派閥、流派を流れるように繰り出し、同じ技を二度使うことのない猛攻だ。



「………負ける訳には、いかないっ!」



鬼族は本来、生態系の頂点に君臨する種族だ。万物の頂点にして食物連鎖の頂点。絶対的強者だ。それはルティシアの中でも根付いている。


そんな鬼族が負けることは許されない。既に一度、人類に敗北して追い込まれている以上、これ以上鬼族の誇りに泥を塗るのは耐えられなかった。


鬼族の誇り、それは常に最強であること。どんな状況でも勝つのが当然であり、どんな相手でも勝つ。それが鬼族の誇りと信念だった。


ルティシアが人生で初めて追い込まれていることを自覚。その上で勝ちたいと強く願う。負ける訳にはいかないのだと強く強く、思う。


願いは時として結果に反映される。ルティシアの場合、即座に目に見えて結果が出た。



「なんですの?」



淡い光があちらこちらから出現し、空間を舞う。どこか幻想的な雰囲気を醸し出すそれは漂いながらも一つの指向性を持って一点に集中する。目指すのはルティシア。



「ガロ、これは?」


『危険』


「危険…?」


『回避 専念』



ルティシアに集まる光を眺めながらも警戒は怠らない。いつ如何なる時でも対応出来るようにシャーロットはしている。


目の前の事象に対する答えを持ち合わせていないシャーロットは長年を生きているガロに問う。


鬼哭剣は鬼族の全盛を誇った頃から存在している。所有者にしか聞こえないとはいえ、その知識量は驚くほど深い。シャーロットが知らないことを大抵は知っており、その知識に助けられたことも一度や二度では足りない程だ。


しかしそんなガロから返ってきた答えはシャーロットにとって曖昧なモノでしかない。聞き慣れた低い声に幾ばくかの緊張と恐怖が混じっていることに気付ける程、付き合いは長くない。




ルティシアに集まった光が更に強く発光する。眩い光に思わず目を閉じる。観客も同じだ。




次にシャーロットが目を開けた時、ルティシアに変化があった。抑え込めないように全身から薄い光が漏れ出し、髪の毛は何色にも染められないかのように一際強く輝いている。ルティシア自身も今の自分に驚いているようで切れ長の瞳を大きく見開いている。



「………この感覚」


「いったいなんですの!? 何をしたのルティー!?」


「………角、生えた」



その言葉に釣られるようにしてルティシアの頭に目を向けると、白い白い角が一本。


空気中に存在する微細な魔力が角に集約されていくのをルティシアは感じていた。目には見えない小さな魔力の塊が何億となってルティシアの中に入ってくる。



「これが…角。 この感覚は………」



全身に漲る魔力。湧き出る泉のように溢れる力。鬼哭剣に吸い取られていても尚、ルティシアはその力が莫大で膨大な量であることを悟った。



「ガロ!」


『承知』



目前の敵は最早世界の脅威に成り得る存在。ここで何とかしなくてはいけない。そう考えたシャーロットは鬼哭剣の力を使う。


以前から特務で大多数を相手に戦う時、多数を殲滅する技に欠けて苦労していた。数百を同時に殲滅出来ても数千、数万となるとなかなか難しいのがシャーロットの戦闘スタイルだった。魔法は多少は扱えるがそれほど大規模な魔法は使えない。剣を使った技に広範囲へ被害を与える技もあるが威力と決め手に欠ける。


ガロを貰ってからもそれは変わらなかった。だがある日、何気なくガロに大多数を攻撃出来る技はないのか聞いたところ、普通にあると返答が来た。非常に扱いの難しい技ではあったがシャーロットには簡単だった。口頭での説明を直ぐに理解し、実際に大量の魔物を相手に使ってみせた。


鬼哭剣に力を集約させる。体内の魔力を伝播させ、高密度に魔力を圧縮、圧縮、圧縮。



「はあっ!!」



気合いと共に鬼哭剣を振るう。高密度な魔力を宿した刃から放たれる斬撃は可視化され、それ自体が質量を伴う程に凝縮された魔力の刃となってルティシアを襲う。


空気を裂き、地面を裂き、軌道上に舞う塵芥の分子結合を破壊しながら迫る一撃は必殺の一撃。秘められた威力はおよそランキング戦、それも狭い訓練室で使うことが許されるはずのない威力だ。下手をすればこの空間にいる生き物全てが死滅する。


シャーロットの現在持つ手札の中で、切り札と呼べる攻撃。それでもルティシアは冷静だった。


角が生えた状態を経験するのは初めてなのに、ルティシアは全て分かっていた。有り余る魔力の使い方、過剰分の魔力による武具の精製、角に集約された魔力の桁、自身の現在の力。


今、この瞬間ルティシアは全生物の頂点に立っていた。


角が吸収する魔力の全てを肉体強化に使用。極限にまで肉体を強化しても尚余る魔力。自然な動作で、それが当たり前のようにルティシアは手を前に出す。


魔力が移動、ルティシアが行うことなく魔力が自動で動く。集まった魔力が膨大な塊となり、ルティシアの手の中に発現。彼女の小さな掌に収まる白い球は見た目以上の魔力が凝縮されていて、内包される魔力総量はアルフを上回る。


それを掴む。光が弾け、ルティシアの手の中に武器が残る。真っ白な短刀だ。柄も刃も刀身も、抜き身の状態で現れたそれは鬼族の生き方を示すようにひたすら白かった。


迫り来るシャーロットの一撃を前に、彼女は立つ。


避けることも、武器で相殺することもルティシアには可能だ。しかし敢えて彼女はその選択肢を全て放棄、第三の選択肢を選ぶ。


力の差を誇示するように、受け止める選択。


ルティシアが受け止める選択をした瞬間、武器を精製しても尚有り余る魔力がルティシアを覆う。一個の白い繭となったルティシアにシャーロットが追撃にもう一度刃を放とうとする。


力を鬼哭剣に溜めようとしたその時、繭が弾ける。中から出てきたのは武器と同じ、真っ白な鎧に包まれた鬼族だった。


動きやすい形状の鎧が神々しく光り、両肩にあしらわれた角が鬼族の鎧であることを示している。




全力を込めた一撃はルティシアに命中。




攻撃の余波に訓練室の屋根が吹き飛び、生徒の大部分が風圧で空に飛ばされる。地面は隆起した後に爆発、陥没してその威力を証明する。


鬼哭剣の一撃は鬼族の纏う鎧を砕き、武器を破壊する。


シャーロットが勝利を確信した瞬間だった。







「………まだまだ、甘い」







「………ガロ、あなたは鬼哭剣で間違いないのですよね?」


『無論』


「……………なら、何故ルティーは無傷なのかしら?」


「………あなたは確かに強い。鬼哭剣の存在の有無に関わらず、あなたは強い」



訓練室に発生したクレーター、その中心に立つルティシアの足元だけ地面が無事だった。ルティシアを中心とした半径五十メートルの地面が底が見えない程の穴を形成している。



「鬼哭剣の一撃は鬼族の纏う鎧を砕く攻撃。 確かにそうなりそうな程の一撃だったのは間違いない」



打つ手が無いのか、シャーロットは呟くルティシアを前にしても何も行動を起こさない。



「剣帝。 確かに、その名に恥じない強さだった」



よく見るとルティシアの大きく膨らむ胸を守る鎧部分にヒビが入っている。だが、それだけだった。あの一撃でも鎧にヒビを入れることしか出来ない、その事実にシャーロットの頭が垂れる。



「………でも、私には届かない」



角の無い状態で鬼哭剣を相手に戦っていたらおそらくルティシアは負けていた。鬼哭剣が強力だったこともあるがシャーロット自身が持つ技量もそれに負けず劣らず優れていた。それらを加味した時、ルティシアには負ける未来が見えた。そしてそんな未来は認めないと強く願い、角が出た。


実質、ルティシアは負けたようなものだった。



「………参りましたわ…」



ポツリと呟かれた言葉を合図に試合は終わった。

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