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38話『序列』

序列による恩恵が目に見えて与えられるのは十位からであり、それ以前の数字に関しては上と比べると微々たるものだった。また、上位陣は授業が免除される傾向があり、序列上位の人間を学園内で見掛けることは少ない。見掛けた日は運が良いとすら言われ、生徒にとっては最早運勢を決めるゲームと半ば化していた。


そんな数少ない上位陣の中で唯一、学園内に常駐する人間がいた。


序列六位、四年のマーカスだ。


彼は異端と呼ばれる自身を気にしていた。しかし、自身の力を考えたら学園に居た方が良いと分かっている。だから周りの噂を気にしながらも彼は留まり続けた。きちんと自分の力を理解して、最適な行動を起こすことが出来るのが彼の強みだった。


ランキング戦が始まり、彼は悩んだ。現在の地位は偶然に偶然が重なり、更に奇跡と呼ばれることが起きた上で得た地位だった。自分から望んで得た地位ではないとはいえ、何かと都合が良いのも事実だった。


結局、流されるようにして参加した。自分の意志を主張するのが苦手だった。彼の人生は流れるようにして生きてきたのだ。



そんなこんなで今日まで生きてきた。



今日のランキング戦、その相手が流れ者だと知った彼は最悪だと思った。ただでさえ目立つのが苦手なのに、既に目立っている流れ者と戦うなんて注目されるのが決まっている。逃げたくなった。



というか本当に逃げた。



彼はここにきて初めて自らの意志で逃げた。結果的に逃げた方が目立つのに逃げた。とにかく学園の外に出ようと門まで隠れながら向かった。



門前で対戦相手が仁王立ちしていた。



愕然とした。行動を先読みされた事実より、逃げることが叶わない現実に愕然とした。開き直った彼は戻った。定位置である保健室に引き篭もった。


対戦の時間が迫る中、彼は如何にして現状を潜り抜けられるかに全力を注いで考え尽くした。残念ながら妙案は思い付かず、無情にも時間になった。


審判役の教員から強引に引き摺り出される。足掻くことはもう止めた。どうにでもなれ、そんな気持ちが彼は支配していた。


放り投げられた先は訓練室。目の前には流れ者。周囲には大勢の観客。変な物を見る目で己を見つめる流れ者に観念したように彼は立つ。



「まさにアルフの言ってた通りの人物像だわ」


「…アルフ? アルフさん?」



流れ者の口から敬愛する女性の名前が出てきたのは何かの聞き間違いだろうか。思わず聞き返してしまうがそういえばと思い出す。


流れ者はアルフさんと鬼族の三人で行動をしていると。



「…失礼ですが、アルフさんとのご関係は?」


「くっくっくっ…アルフのさん付けを聞くのは実に新鮮だ。 アルフのことが好きなんだろ?」



何を根拠に目の前の流れ者がその結論に至ったのかマーカスには分からない。



「顔に書いてあんぞ」


「はっ!?」


「嘘だよ、つーか本気にすんなよ」



思わず顔に手をやり、イタズラ書きをされていないか確認をする。呆れたような顔を浮かべる流れ者を見て、それが適当な言葉であることを知ったマーカスは激怒した。



「どこにも書いてないじゃないですか!!」


「そこかよ!」


「そこですよ!!」



むしろそこ以外のどこに怒る点があるのかマーカスには分からなかった。


彼はどこかズレていた。



「いや、まぁ事実を否定しない男らしさがあるのは分かった」


「は?」


「無自覚かよ…なんだよこいつ」



会話が噛み合わないことに苛立ちを覚えながらもマーカスは冷静に現状把握に努める。大声を出してしまったことにより、周囲から視線が集まっていることに気付く。自分の失態だった。



「あぁ! 目立ってしまってる…保健室に帰りたい…」


「………聞いてた以上だよ。 頭が痛くなってくるわ」


「…ちなみに何を聞いてたんですか?」


「馬鹿、阿保、思い込みが激しい、アガリ症、目立つのが苦手、馬鹿」


「今馬鹿って二回言いましたっ!?」


「いやそれ以前に色々と否定するべきところがあったんじゃねぇの?」



散々な言われようだが、実際マーカスとはそういった男であった。冷静な性格だが、どこか馬鹿であり、状況把握能力も高いのにどこか阿保であった。思い込みが激しいのは彼も自覚しており、それを証明する逸話が彼の知らないところで一人歩きしていた。


マーカスが二年の頃である。女生徒に感謝の言葉を言われた時、彼女が自分に好意があると思い込み、ストーカーと化した話だ。


一度決めたら曲げない彼は他人の感情すらも決め込んでしまう。実に馬鹿で阿保だった。


寂れた農村で暮らしていたマーカスは大勢の視線に慣れていない。農村に住まう人々は少なくとも数十人程度しかおらず、それ好奇の視線ではなく、見守る視線を受けていた。それ以上の人間に好奇の視線を向けられ、ヒソヒソと話す姿を見ると彼は怖くなった。


誰かが自分の悪口を言っていると。誰かが自分を指差し笑っていると。誰かが自分に悪意を向けてくると。


思い込みの激しい彼はそうと決めたらそう以外に見えず、結果として人前に出ることを極端に拒むようになった。故に目立つのが苦手なのだ。


しかし、そんな彼がどうして学園に居座り続けるのか。他の序列上位は自由奔放にする中で彼はどうして規則に従い続けるのか。


答えは彼の得意とする魔法にあった。



「あ、長所も一応聞いてるぞ?」


「………参考程度に、お聞かせ願えます?」


「タフ。 以上」


「一言で終わっちゃったよ!!!」



ツッコミも得意であった。農村に住む人々の多くが高齢者でありボケ始めていた。それを村最年少のマーカスが一人でツッコミ続けた故に磨かれた能力である。



「はぁ、もう良いです。 早く終わらせましょう」


「開き直るのも情報通り、っと」


「いちいち確認しないで下さい!」


「反応も上々。 面白いけど面倒な奴だな、お前」


「よく言われますけど!?」


「ここで逆ギレ!? 沸点低すぎぃ!」



否定しない辺り、自分が面白い奴で面倒な奴だと自覚しているのだろう。それは好ましいことなのか。


一挙手一投足にツッコミをしないと気が済まない性格なのは生まれ育った環境のせいだ。沸点が低すぎるのは甘やかされて育った証。彼は田舎の宝物として大事に大事に育てられてきた。


観客から野次が飛ぶ。いつまでもコントを続ける二人に痺れを切らしたのか、審判の顔にも青筋が浮かんでいた。



「とりあえず、戦うか」


「…気が進みませんが、一応先輩ですし、胸を借りるつもりで行かせて頂きます」


「一応じゃなくてちゃんと先輩なんだが」


「流れ者に礼儀を持って接してるんです。 珍しい方でしょう」



礼節に欠けた態度なのは間違いないが、言葉遣い自体はしっかりとしたものだ。


むしろ流れ者である凪に後輩がきちんとした態度と言葉遣いで接すること自体が稀である。武道大会で準優勝した実力の持ち主とはいえ、ただの人間だ。貴族でもなく、王族でもない。ましてや大富豪の息子でもない凪にわざわざ丁寧に接するメリットがなかった。


そういった意味では、学園に在籍する生徒はある意味現実主義と言える。


とはいえ、序列上位の人間には礼儀正しく接していた。序列が上位になると気に食わない人間を退学措置に出来る権限もあるからだ。


成績優秀者は無理だが、所謂落ちこぼれや雑魚は学園に居ても無意味である。そのような対象にのみ、その権限が発揮される。過去、実際に使われたことのある独裁者として権限だ。


流れ者はその対象外だ。



「まぁ…確かに言う通りか。 さ、ぼちぼち始めるか。 準備は?」


「いつでも大丈夫です。 武器は使わない派なので」


「奇遇だな、俺もだ」



審判の顔に浮かぶ青筋が先程よりもくっきり浮かび上がっている。そろそろ本気でマズイと判断し、脱線した話を元に戻す。


構えという構えの存在しない、ただの棒立ちで両者は立つ。



「じゃ」


「えぇ」



短い言葉のやり取りを終え、気分と雰囲気を戦闘時のそれに切り替える。マーカスは普段と変わらぬままだ。


それを気にせずに肉体強化を図る凪。だが問題が起きた。



「……………またかよ」



魔力が流れない。既視感を覚える現状に凪は溜息を一つ。即座に意識を変え、魔力の具現化による攻撃に移行。


アルフ戦以降、特訓に特訓を重ね、洗練し、精度を高め、効率を上げた結果、肉体強化と同時に魔力による攻撃を行えるようになっていた。



「………えー」



が、その魔力すら溢れてこない。凪の体の中が空っぽになっている、そんな感覚だ。



「来ないなら俺から行きますよっ!」



そんな凪を気にもせずにマーカスが突進する。相手の出方が分からない以上、このままで敗北の危険性すらあると判断した凪は来る衝撃の為に身構えて備える。


来ると分かっている衝撃と唐突に来る衝撃では前者の方が意識的にも肉体的にも被害を最小限に抑えられる。防戦一方になるのは間違いないが、今の状況では凪に何も出来なかった。


しかし、そんな凪の思惑とは裏腹に襲ってきた衝撃は弱かった。



「ん?」


「うらうらうらうら!!」



どこか可愛らしく聞こえるマーカスの気合の声。その連打を浴びながら凪は現状を把握することに意識を向ける。


現在、マーカスは凪の腹部を殴っている。凪は自分より幾分か身長の劣るマーカスを冷静に見下ろし、その様子を伺う。そして理解した。



「お前、肉体強化も行わずに生身で攻撃してんの?」


「うらうらうらうら! ………はぁ、はぁ、はぁ、えぇ、そうですが、なに、か?」


「…なんかお疲れ様」



息も絶え絶え、疲れましたといった感じで凪の疑問に答えるマーカスの額には大粒の汗が流れている。


生身の体から繰り出される一撃ははっきり言って軽い、軽過ぎる。強化された攻撃に慣れてしまっていた凪にとっては最早マッサージにしか感じられない攻撃は違和感を抱かせるのに充分だった。前情報では人柄しか聞いていない。



「どうして強化しない?」


「………俺は強化が使えません」


「はい?」


「俺は! 強化が! 使えません!!」



自棄にしか見えない宣言を聞きながら凪は冷静に考えていた。強化が使えない相手なら現状の凪にも勝ちの目が見えてくる。しかし、強化が使えないのなら。



「魔法を使えばいいじゃないの」



どこぞのお姫様が放った言葉に習い、それを模倣する。


強化が行えない凪では魔法に対する回避手段が無い。生身の体で魔法を避けるなど不可能に近い。いくら体の使い方が上手でも物理的に移動速度が高い訳ではないのだ。襲い来る魔法はそれなりの速度がある。実質的に今の凪はいつでも死ねる。



「…魔法も使えません」


「はぁ!? お前、序列六位なんだろ!?」



序列上位にあるまじき発言。魔法も使えず、強化も出来ない彼は六位に押し上げたのはいったいなんなのか。



「わかりません。 今までのランキング戦、格上が相手になると何故か相手に不慮の事態が発生して全力とは程遠い状態での戦いを強いられていました。 だから勝てた」


「お前それって…」


「勿論、事前に俺が毒を盛ったとかじゃないですよ!?」



戦う相手が呪われているのか、強過ぎる強運に身を守られているのか。マーカスでも説明の出来ない現象は確実に彼を上へと押し上げていた。


ひとまず、こちらからも攻撃を加えることを決定し、話を中断。通常の身体能力でマーカスに凪は迫った。


ただの人間と同じ能力しか発揮出来ないこの体では抵抗する力を持ったマーカスの首を絞めて落とすことは出来ない。ならばどうすれば勝てるのか。


とにかく殴る。蹴る。凪の思いついた手段はそれだけだった。


マーカス自身の身体能力が低いのは先程の拳で理解出来た。ならばと遠慮無しで凪は殴る。助走の勢いも込めた凪の拳がマーカスの右頬にクリーンヒット。それでも所詮は生身の拳。大したダメージも与えていられないのは倒れることのないマーカスで判断出来た。


反撃に出てきた拳をいなしてさらなる追撃。膝蹴り、殴る。避ける。前蹴り。殴る。叩く。避ける。殴られる。殴る、殴る、殴る、殴る。


肉と肉のぶつかり合う音と骨と骨がぶつかり合う嫌な音のみが訓練室に響き渡った。


特に何もされていない攻撃とはいえ、それなりに殴られて蹴られればある程度のダメージは与えられる。一撃一撃を全力で繰り出せば体力だって当然消費する。喧嘩をしたことがあればそれは誰だって知っていることだ。


アドレナリンが出された人体はある程度までの痛みなら最中は感じられない。だがそれでも限度がある。それに肉体には着実にダメージが蓄積される。遅かれ早かれ、マーカスの体は動かなくなるはずだった。なのに。



「しぶといな」



満身創痍になりながらも未だに膝を着かないマーカスをやっぱりタフだった。凪にもダメージはあるがそれでもマーカスと比べたら微々たるものだ。


この体になる前は瘦せ型で筋肉とは程遠い体型だったが、この体はそれなりに筋肉が付いていた。細マッチョ的な体型だ。それはつまり、与えるダメージも多少は大きいことを示す。


それでもマーカスは倒れない。



「…一つ、間違いがありました」



息の乱れは多少。最初に凪を殴ってきた以上に乱れていない。その差はどこなのか。



「魔法は確かに、扱うことが出来ません。 けど、唯一、使える魔法の種類があるんです」


「魔法の種類?」



人を殴ると自分の拳も痛む。それを証明するように凪の拳はだいぶガタが来ていた。肌は赤くなり、若干擦りむけている箇所もチラホラと見受けられる。


マーカスの背中に魔法陣が出現。色は赤。



「系統とも言えますね。 俺が扱える唯一の魔法、それは回復魔法」



魔法陣が背中から前へマーカスの体を通過する。マーカスを透過して通り過ぎた魔法陣が消えると、マーカスの怪我が消えた。青痣や鼻血、鼻の骨折や筋肉の断裂などが完全に治っていた。


唯一扱える魔法が回復魔法、そしてそのジャンルのみでアルフにも匹敵し得るだけの能力の高さ。故に彼は学園に居座るのだ。大怪我で運ばれる怪我人を保健室で待ち構え、それを治す為に。


それを確認した凪は一つの結論に至る。



「泥試合じゃん。 倒せる手札がねぇぞおい」


「そうして、勝ってきましたから」



タフとはこういったところも含めたアルフの発言だった。生身の体でもなかなか倒れない耐久性、それに加えて回復魔法も扱える。そうなると肉体強化も魔力の攻撃も出来ない凪はお手上げ状態だった。



「………マジでヤバいな」



八方ふさがりとはまさにこのことだ。



「回復魔法に関してはアルフさんにも負けないくらい突出してます。 この意味が分かりますか?」


「………いや、分からん」



淡々と呟くマーカスの言葉を否定する。否定したかった。頭の片隅では分かっている。



「俺も、欠損した部位なら治せます」



それはつまり、神に与えられた才能を持つアルフと同等の回復魔法が扱える事実。それが意味するのは凪にとって最悪だった。



「一撃で気絶させるか即死させないと倒せないってことか」


「まぁ死亡させたら色々とダメなので実質、気絶のみが選択肢ですけどね。 後は降参させるとか?」


「降参するのか?」


「まさか、そんなことしませんよ。 仮にも序列六位のプライドがあります。 偶然と奇跡が重なって戴いた立場だとしてもね」



さて、どうするか。回復魔法が使えるとなると無闇に攻めても回復されて、イタズラにこちらの体力を減らされるだけだ。それならどうするか。


相手の魔力量の底が知れない以上、魔力切れに賭けて攻めまくるのはリスキーだ。その前にこちらの体力が切れて動けなくなる可能性が高い。欠損部位を治せるほどの回復魔法が扱えると判明した以上、魔力量も相当の量があると判断しても良いだろう。いくら生身の体でも鍛錬を積んでるとはいえ、今の凪では体力が追いつかない。


魔力が流れないのでこれ以上肉体強化を図ろうとしても無駄だろう。魔力の具現化も無意味だ。残された攻撃手段は一つ。己の体を駆使した攻撃のみ。



「………なるべく使いたくなかったんだがな」



致し方ないと凪はハイリスクに手を出す。返ってくるのはローリターンの勝利のみ。序列上位を目指すのなら勝利は必須だがリスクに見合わないリターンであるのは間違いなかった。


出口の見えない戦いに仕方なく使うのだ。これ以降の試合で、どうにも出来ない状況が訪れない限り、これを使うことはない。そう決めていた。


リスクは世界に引き摺り出される可能性。表舞台へ誘われる可能性。むしろこの状況が世界によって導かれているのだとしたら想像以上に世界が凪を引きつけている。



「どうします? 俺を倒せないなら降参しますか?」


「こうするの、さ!」



前進、走りながら凪は叫ぶ。右手を隣の空間に突き出し、現状を打破する為の手札を切る。



「来いっ!」



空間に亀裂が発生。漆黒が広がる空間に手を入れそれを引き出す。



「なっ、なんですかそれ!!」


「棒、だよ!」



鞘から抜き放ち、能力の使用を否定する。ひとまずは自身の技術のみで戦う決意。驚いて回避を忘れているマーカスに向かって一閃。



「ぐぅ!」



鮮血とマーカスの左腕が空を舞う。咄嗟に出した腕に阻まれ、戦闘不能に追い込めなかった。



「ちっ」



返す刀で再び斬撃。失血による意識の喪失を狙った頸動脈への攻撃は目測を謝れば胴体と首がさよならになる。とはいえ素人の凪ではそんな正確な攻撃は出来ない。故にこの斬撃はマーカスを殺害までに至る攻撃だった。



「ちょ!」



それを察知したマーカスが慌てる。確実に死に至る攻撃を前に必死だ。両手を掲げて凶刃を防ごうとするも片腕は既にない。残った右腕が彼の最終防衛ラインだった。


刃が迫る。腕に当たる。まるで豆腐のように肉へ食い込み、骨に当たる。頑丈な骨を容易く裂き、威力が落ちる。鈍った刀筋はマーカスの首を切断までには至らず、薄皮一枚を斬ったに留まった。



「今の攻撃下手したら俺が死んでましたよ!!」


「だが生きている」


「それは結果論です! 過程も重視してください!!」



動きを確かめるように凪が刀を振り回している間にマーカスは魔法を発動。黄色の魔法陣が浮かび上がり、マーカスを通過、次の瞬間には切断された両腕が元に戻っていた。斬り飛ばした両腕も既にない。因果律に関与する魔法であることがそこから推測出来た。



「本当に使えるんだな」


「もしも使えなかったらヤバかったですよ…」


「ちっ」



遠慮も手加減も知らない凪の攻撃にマーカスが怒って怒鳴り散らすが刀を扱った実戦をしたことがない凪にそんな器用な真似は出来ない。人体を斬ったのもこれが初めてだ。その手に残る嫌な感触に顔を顰める。


斬っても斬っても再生される。古代魔法は消費される魔力も大きいはずだがマーカスにその兆しが見えない。長期戦になる可能性を考えた際、凪には不利だ。


人生とは配られた手札で戦うしかない。多少の増減はあれど、有用な手札は有効に使い、無駄な手札は早々に捨て去る。凪は仕方なく、途中で入手した新しい手札を切る。能力の使用だ。


ルティシアと戦った際に判明した、第二の能力。


刀をマーカスに向かって一振り。




「?」




訝しげなマーカスに凪は教えてやる。




「右腕の肘から先、どこに落としてきたんだ?」




痛覚と視覚を置き去りにした凪の斬撃。マーカスは傷口を目にしたことにより初めて痛みを認識。斬られていた事実を知る。


即座に回復魔法を展開。斬られた右腕の再生を行う。



「………いつのまに? 近寄っていないのにどうして?」


「俺が教える訳がねぇだろ。 ほれ、次行くぞ」



マーカスの疑問に答えることなく、凪は適当に次々と刀を振るう。その振り方は出鱈目で筋もなっちゃいない。それでも凪が一つ振るたびにマーカスが傷付いていった。見えない斬撃にマーカスは対処が出来ない。襲い来る痛みと衝撃に無様なダンスを踊るだけだった。


このままでは勝敗以前に生死が危うい。来る衝撃と痛みに体が跳ね上がりながらもマーカスは再度魔法を行使しようとする。



「これはどうかなっ!?」



凪の大振りな一撃はマーカスの下半身に向かって振るわれたもの。直後にマーカスの体に異変が起きる。


太ももから先が消失した。両足の。斬り飛ばされた訳ではなく、純粋に消えたのだ。


バランスを崩してマーカスは崩れ去る。津波のように到達する激痛に叫び、苦悶し、呻く。傷口からは大量の血が溢れていった。



「……っ! …! ………くっ!」



声にならない叫び声を出し、気合で再び回復魔法を展開、発動。マーカスの体が無傷となって魔法陣から出てくる。


どれだけの裂傷、刀傷、切傷を負っても回復されてしまう。だが凪の狙いは別にあった。



「そろそろ血、足りないんじゃないか?」



覚束ない足取りで立つのもやっとマーカスに声を掛ける。瞳孔が開き、最早意識があるのかさえ疑わしい。大量失血により、貧血と意識の混濁の中でも尚立ち上がるマーカスに敬意を払う。


ゆっくりと歩み寄ってもマーカスは反応しない。想像以上に長くなった試合を終わらせる為に、峰でマーカスの首筋を叩く。



崩れるマーカスを眺めながら嫌な予感が強くなっているのを感じた凪だった。

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